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家族の再生をめぐるタイムループ・ミステリー

<ブックレビュー>
『ロング・プレイス、ロング・タイム』
ジリアン・マカリスター著 梅津かおり訳

小学館文庫
2024年3月11日発行 1220円+税

 弁護士のジェンは、亡父が設立した事務所を引き継ぎ、内装業者の夫ケリーと18歳になる息子トッドの3人で、イギリス・リバプール郊外に慎ましくも幸せに暮らしていた。ところがハロウィーンを控えた夜、深夜に帰宅したトッドが家の前で、見知らぬ男をナイフで刺し殺してしまう。トッドは、その場で警官に逮捕された。パニックに陥ったジェンは、ケリーとともに警察署へ向かうが、息子と面会することもできず、家に戻るしかなかった。翌朝、ベッドで目覚めたジェンは、息子や夫が何ごともなかったように家にいるのを見て呆然とする。なんと事件が起こる前日の朝に戻っていたのだった。

 いったい何が、どこが間違っていたのか。目覚めるたびにジェンはそれまでの記憶と意識を保持したまま時間を遡っていき、そのたびごとに見逃していた──あるいは気づいていなかった──過去の事実に向き合うことになる。家族の秘密が少しずつ明らかになり、ジェンは最後に答えにたどり着く。それはトッドの犯罪を防ぎ、ジェンやケリーを救うことになるのか?

 SF小説のなかでも、いわゆる「タイムループもの」と呼ばれるジャンル。著者は謝辞でテレビドラマ『ロシアン・ドール』からこの作品のアイデアをえたと書いているが、『ロシアン・ドール』は、過去の同じ時を何回も繰り返す、厳密な意味でのタイムループもの。本作は、主人公が一方的に時間を遡っていく。加えてミステリーの面白さもある。犯人(トッド)が冒頭で読者に提示されるので、倒叙ミステリーというべきか。ありえない話を納得させてしまうストーリー運びの上手さがある。

 著者ジリアン・マカリスターは1985年イギリス・サットン生まれ。2023年までに本作を含めて8冊の小説を書いているが、邦訳は本作が初めて。最近著の『Just Another Missing Person』は、行方不明になった若い女性をめぐるミステリーで、SF仕立てではないようだ。こちらの邦訳も楽しみ。

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