新型コロナウイルスはどこへ行くのか

<第14回>

 日本では、2023年5月8日にCOVID-19が「2類相当」から「5類感染症」に移行し、季節性インフルエンザ並みの扱いとなった。それ以前は、毎日感染者数や死亡者数が報告・発表されていたものが、定点医療機関からの週1度の報告に基づいて感染者数が公表されるだけとなった。国内の全感染者数は正確には把握できず、「定点あたり」で増減を判断するしかなくなった。感染を防ぐための行動制限はなく、陽性者も陽性者の家族など「濃厚接触者」も外出自粛は求められない。マスク着用も自己判断で、電車など公共交通機関でもマスクを着用していない乗客がふえた。PCR検査や抗原検査を受ける人も減り、無症候感染者や軽症者は見逃されるだろうから、感染実態は格段にわかりにくくなった。2022年秋からの「第8波」は2023年2月~3月にかけて収束したが、第5類への移行後に定点医療機関あたり感染者数は全国で漸増し、入院患者も増加した。

 2022年11月、大都市のロックダウンや徹底的な検査など、厳格なCOVID-19封じ込め政策=「ゼロコロナ政策」に対して異例ともいえる大規模な抗議行動が広がった中国では、政府が12月7日に突如政策を転換して、制限の大幅緩和に踏み切った。その結果、経済・社会活動は再開されたが、案の定感染が急拡大、病院に患者があふれ、死者の急増に火葬が間に合わないなどと報道された。中国政府は、ゼロコロナ政策解除後の2022年12月8日~1月14日までのCOVID-19関連死は約6万人と発表した[1]が、この数字は実際より過少だと考えられている。この期間に中国の人口の半数近い、6億人が感染したとも報道されている。しかし多くの国民が移動する2023年の春節休暇期間中にも感染者の増加はみられず、2023年2月23日には、中国衛生当局の専門家グループのリーダー梁万年氏が「現在の流行はほぼ終息し、パンデミックからの脱却に成功した」と宣言した[2]。梁氏は同時に、「(中国は)集団免疫を確立した」とも述べた。

 ゼロコロナ政策解除後に人口の82.4%がSARS-CoV-2に感染したともいわれ、また、中国のCOVID-19ワクチン接種率は90%以上と高いことから、「集団免疫確立」という結論が導かれたのだろう。だが、COVID-19はそれほどシンプルな感染症ではなかった。

 パンデミック下、他の国や地域で「集団免疫確立」がいわれながら、その後に感染拡大した例は多い(第2回)。果たして中国でも2023年5月には感染者が急増したのだ。少なくともCOVID-19、SARS-CoV-2にかんしては、集団免疫という考えを捨てたほうがよさそうだ。

 中国における2022年年末から2023年年明けにかけての感染流行では、オミクロン系統のBA.5変異株が主流だった。同じ時期日本も第8波に見舞われていたが、やはり感染の中心はBA.5。一方、2023年春以降には日本、中国ともどもオミクロンXBB変異株の亜系統XBB.1.5が主流となった。日本で2023年秋から接種されるワクチンはXBB1.5対応だが、8月現在、同じXBB亜系統のXBB1.16の比率が高まり、さらにアメリカや日本などで新たなオミクロン下位系統のEG.5株とその派生系統がふえている。これからも、新たな変異株が生まれつづける可能性は高く、5類感染症移行で以前のような厳格な感染対策が取られなくなった以上、過去に感染した人も、ワクチン接種者も、再感染あるいはブレークスルー感染が避けられないだろう。

 それを考えると、SARS-CoV-2の今後は、SARSの原因ウイルスSARS-CoVやMERSの原因ウイルスMERS-CoVとは異なる経過をたどりそうだ。SARS-CoVは2004年以降感染者が出ておらず、人間社会からは姿を消したと考えられる。しかし、自然宿主であると考えられる野生コウモリやハクビシンなどのあいだで感染がつづいている可能性が高く、いつかまたヒトへの感染が発生するかもしれない。その場合にはかつてのSARS-CoVではなく、その後変異を重ねたウイルスということになるだろう。MERS-CoVは中東のヒトコブラクダに感染がつづいており、感染したヒトコブラクダと接触して発症するケースが散発的に報告されている。局地的で小規模かもしれないが、今後も感染者の発生はつづくと思われる。

 これに対してSARS-CoV-2は、人間社会に存続していくという予想が有力だ。その場合、弱毒化し、つまり5番めのヒトかぜコロナウイルスになるという見立てがある。

 アメリカ・ピッツバーグ大学の感染症学者・公衆衛生学者、ドナルド・S・バーク博士は、SARS-CoV-2と人類は共存していくという見通しのもとに、ウイルスが今後どのように進化していくか、4つのシナリオを提示した[3]。シナリオの1つめは、229E、OC43、NL63、HKU1の4種類ある他のヒトかぜコロナウイルス同様、「エンデミックウイルス」として存在しつづけるというものだ。

 エンデミックは、ある疾患(必ずしも感染症とは限らない)が、特定の地域や集団で継続的に発生する状態をいう。エンデミック疾患が、短期間に増加する状態になればエピデミック、それが急激に国境を超えて多くの地域に拡大すればパンデミックとなる。

 動物由来ウイルスは、ヒトに感染しても多くは偶発的であって流行を引き起こすことは滅多にないが、いったん流行すれば、その過程でヒト間での感染力を高めるように変異を起こすことがある。その場合、ホストであるヒトを滅ぼすのではなく、共存するように進化するという。第8回で紹介したようにOC43は過去にパンデミックを引き起こした末に、エンデミックウイルスとして定着した可能性がある。OC43以外のヒトかぜコロナウイルスも、感染性を高めて一時はパンデミックあるいはエピデミックを引き起こし、やがて軽症化してエンデミックウイルスになった可能性が高い。SARS-CoV-2も同じ道をたどるかもしれないというのだ。

 たしかに、初期のCOVID-19患者には高熱とともに重い肺炎症状と呼吸困難がしばしばみられたが、そこから3年たって、より感染力を高めたオミクロン変異株とその下位系統の感染者には、咳やのどの痛み、鼻水・鼻づまりのような上気道の症状が目立ち、インフルエンザやかぜ(ヒトかぜコロナウイルス感染症を含む)の症状と区別が難しくなっている。こうしたことも「ヒトかぜコロナウイルス化説」を後押しする。しかし、果たしてそれだけですむだろうか?

 アメリカ・テキサス州における研究によると、SARS-CoV-2感染によってわれわれの体内につくられた抗体は、数か月から1年程度しか持続しないという[4]。

 体内にウイルスなどの病原体が侵入すると、まずマクロファージや樹状細胞などの自然免疫系免疫細胞が対応する。これらの免疫細胞は侵入した病原体や異物を取り込んでリンパ節へ移動し、ナイーブT細胞やナイーブB細胞に抗原を提示する。抗原提示を受け活性化したナイーブT細胞は、ヘルパーT細胞(Th)や細胞傷害性T細胞(CTL、キラーT細胞ともいう)へ、ナイーブB細胞はヘルパーT細胞の分泌するサイトカインの刺激を受けて形質細胞(抗体産生細胞)へと分化・成熟する。細胞傷害性T細胞は、ウイルスに感染した細胞を破壊する。形質細胞はウイルス(の抗原)に結合する抗体(免疫グロブリン)をつくり、細胞への侵入を無力化する。これらの抗体は細胞への侵入にあたって受容体と結合する受容体結合領域、なかでも実際に受容体の特定部分と結びつく部分である受容体結合モチーフ(RBM)に結合して細胞に融合できないようにするため、とくに中和抗体と呼ばれる。

 上に書いたように、抗体の量は時間とともに次第に減衰する。しかし、抗体そのものは減っても形質細胞はしばらく残るため、同じウイルスに再度感染しても、抗体がまた産生される。またナイーブB細胞の一部は記憶(メモリー)B細胞に分化してより長く生存し、将来同じ抗原をもつウイルスが侵入した際に、形質細胞に分化して抗体を産生する。一部の細胞損傷性T細胞も記憶T細胞として残る。再び同じウイルスが体内に侵入(再感染)したとき、記憶B細胞や記憶T細胞が活性化して、感染・増殖を防ぐようすばやく対応するのである。

 実際の免疫系の反応はさらに複雑だが、いったん獲得免疫が成立すると過去に感染したのと同じ抗原をもつウイルスが体内に侵入しても、その抗原を認識した記憶細胞がいち早く活性化し、感染を防いだりウイルスの増殖を妨げて重症化を防いだりすることができる。ワクチンは免疫系のもつこの作用を応用して、体内に獲得免疫(とくに記憶細胞)を成立させるものだ。抗体は時間とともに減衰していくが、記憶免疫が対応するのである。

 ただ問題はウイルスの「変異」である。ウイルスはつねに変異するため、新たに侵入したウイルスが過去のものと同じ抗原をもつとは限らない。中和抗体や記憶細胞が認識する抗原とは、ウイルス全体ではなく、受容体結合領域全体や受容体結合モチーフ全体でもなく、そのなかのごく一部のアミノ酸配列(ペプチド)である。その部分に変異が生じて配列が変わってしまうと、もはや抗原として認識されず、抗体の中和作用も発揮されないし、記憶細胞も活性化されない(「免疫逃避」)。これまで出現したSARS-CoV-2の変異株も、それ以前の株(あるいはそれ以前の株に対応したワクチン)から抗原が変化したため、獲得免疫が十分に働かなくなったことがわかっている。インフルエンザウイルスやヒトかぜコロナウイルスに私たちがくりかえし感染するのも、変異が頻繁に生じるため過去の感染で成立した獲得免疫が働かないからだ。また、獲得免疫の応答が弱いために再感染をくりかえす人もいる。

 今後もSARS-CoV-2がヒトへの感染をくりかえしながら変異しつづけるかぎり、流行は完全には収まらない可能性が高い。それに加えて人間社会の外からの脅威がある。

動物からのブーメラン感染のリスクも

 SARS-CoV-2は、SARS-CoVやMERS-CoV、4種類のヒトかぜコロナウイルスに比べて、より幅広い動物種に感染が可能なことが、SARS-CoV-2とヒトとの関係に影を投げかけている。すでに書いてきたように、ペットのイヌやネコ、SARSでも感染源と疑われたハクビシンやタヌキにも感染可能で、さらに養殖ミンクや北米に生息するオジロジカに集団感染が報告されている。大きな懸念は、ヒトのあいだで流行している病原体が動物にスピルオーバーし、それがまたヒトに戻ってくる「ブーメラン感染」が起こりかねないことである。

 まず危機感をもって迎えられたのは、2020年にヨーロッパやアメリカで発生した、ミンク農場でのミンクへの集団感染である。欧米や中国などでは、毛皮用に大規模なミンク(アメリカミンク)の養殖がおこなわれている。そうした養殖農場で、まずはSARS-CoV-2がヒトからミンクに感染、そして飼育されているミンクのあいだで感染がひろがった。さらにデンマークではミンクからヒトへの感染も報告された。それもミンク集団のなかで変異した株に感染した例が出て、それがさらにヒト-ヒト感染し、全養殖ミンクが殺処分されるに至ったのである。アメリカでは野生ミンクにも感染が確認されたが、この個体は近隣のミンク養殖農場から逃げ出したものだと考えられている[5]。

 ブタについてもA型インフルエンザ・ウイルスの重要な媒介動物であり、これまでも同時感染したブタの体内で新変異株が生まれてきただけに、COVID-19でも同じことが懸念されていた。なにしろブタは飼育数が多く、飼育されている国や地域が世界中に広がっているからだ。ただ、幸いこれまでのところSARS-CoV-2がブタに感染したという報告は出ておらず、実験でも感染しないとされている[6]。

 一方、2021年になってアメリカでは、野生のオジロジカに広くSARS-CoV-2感染が広がっていることもわかり、衝撃が走った。2020年~2021年にかけて北東部の州で調査したところ、場所によって異なるものの、かなりの高頻度でオジロジカがSARS-CoV-2に感染していることが確認されたのだ。

 経路は明らかではないが、オジロジカから検出されたSARS-CoV-2の系統は、その地域で流行していたものと一致したことから、ヒトからオジロジカに感染したことはほぼ間違いないと考えられる[7]。そこからオジロジカ集団内に感染が広がったたようだ。実験でもオジロジカはSARS-CoV-2に感染しやすいことがわかっているが、感染したオジロジカに目立った症状はみられないという。

オジロジカ Odocoileus virginianus
出典:アメリカ農務省

 オジロジカは北米大陸に広く生息し数も多いことから、アメリカ国内ではもっとも一般的な狩猟動物の1つである。オジロジカを生きたまま捕獲し、肉や毛皮、角を目的に飼育(多くは粗放的な放牧)することも多い。住宅地にも出没し、ゴミをあさったり人が捨てたものを口に入れたりすることもあるという。懸念されたのは、デンマークのミンク農場で起きたように、オジロジカの集団内で変異したり組替えを起こしたりしたSARS-CoV-2が、ヒトに再感染することだ。その後の調査によって、その懸念はさらに強まった。

 コーネル大学の研究グループが、2020年と2021年の猟期(9月~12月)に東部ニューヨーク州内で捕獲されたオジロジカを調査したところ、2020年は0.6%の、2021年は21.1%の個体が、SARS-CoV-2に感染していることが確認された[8]。ウイルスのゲノムを詳しく調べると、アルファ変異株、ガンマ変異株、デルタ変異株が検出され、ヒトからオジロジカへのスピルオーバーが何度も起こっていたことが推測されるという。

 人間社会では、SARS-CoV-2に次々変異株・亜系統が生まれ、それ以前の変異株・亜系統に置き換わってきた。2020年11月にイギリスから報告され、WHOによって最初の懸念される変異株(VOC)に指定されたアルファ変異株(B.1.1.7)や2020年10月に南アフリカで初確認されその後VOCに指定されたベータ変異株(B.1.351)は、2021年夏ごろにはインド発祥と考えられるデルタ変異株(B.1.617.2)にほぼ置き換わってしまった。ブラジルを中心に南米で流行しVOCに指定されたガンマ変異株(B.1.1.28.1またはP.1)も、2021年秋にはやはりデルタ変異株に取って代わられた。

 そのデルタ変異株も、オミクロン変異株(B.1.1.529)が2021年11月に南アフリカなどから報告され、以後その亜系統が世界的に広がった結果、駆逐されてしまった。アルファ、ベータ、ガンマの各変異株はいずれも2022年4月に、デルタ変異株も同年7月にVOCから除外された。2023年8月現在流行しているのは、ほぼすべてがオミクロン変異株の亜系統であり、アルファ、ベータ、デルタなどの変異株は、人間社会から消えてしまった。それらの変異株がオジロジカのなかで生き残っていたのである。

 コーネル大学グループの論文によれば、2021年の9月~11月にニューヨーク州で(人間に)流行していたのはデルタ株で、12月にはオミクロン変異株による感染者が急増して、2022年1月にはほぼオミクロン変異株に置き換わった。ところが、同じ時期に捕獲されたオジロジカから、この時点で人間社会には存在しなかったアルファ変異株やガンマ変異株が検出されたという。

 これは何を意味するのだろうか。前述のように、SARS-CoV-2に感染してもオジロジカには目立った症状は出ない。しかし、不顕性(無症候)のままウイルスはオジロジカの集団のなかで感染をつづけており、オジロジカがSARS-CoV-2の保有宿主になっている可能性を研究グループは指摘している。新たに流行した変異株に完全に置き換わらずに、それ以前の変異株が残りつづける理由はよくわからないが、おそらく無症候であることと関係するのだろう。とすれば、コウモリと同じようにオジロジカ集団内で保持されたウイルスが、独自に変異を重ねるかもしれない。複数の変異株に同時感染したオジロジカの体内で組み換えが起きるかもしれない。そこから人間にウイルスがいつジャンプしてもおかしくないのだ。

 これまでのところ、こうしたヒト→動物→ヒトというブーメラン感染は、知られるかぎりデンマークのミンク農場で起こったケースだけだ。しかし、SARS-CoV-2が、さまざまな動物に感染可能である以上、いつかそこからブーメラン感染するリスクは認識しておく必要があるだろう。しかもそのウイルスは、もはやこれまでのSARS-CoV-2とは大きく異なっているかもしれない。

 回り道になったが、先のバーク博士のシナリオに戻ろう。2つめのシナリオは、SARS-CoV-2が、呼吸器以外の組織に感染するように進化することだ。家畜のブタにはいくつかの消化器感染コロナウイルスが知られており、代表的なものに、豚流行性下痢(PED)ウイルスや2017年に中国で豚急性下痢症候群(SADS)の流行をもたらしたSADSコロナウイルスがある。かつて流行した豚伝染性胃腸炎ウイルス(TGE)からは、1980年代に呼吸器に感染する「豚呼吸器コロナウイルス」が進化した。ニワトリでは、鶏伝染性気管支炎ウイルスから、腎臓に感染する系統が生じているという。SARS-CoV-2も消化管や腎臓、神経細胞に感染できることがわかっている。他の臓器・組織に特異的に感染する新たな系統が進化してくる可能性は否定できない。

 3つめのシナリオは、前述の「遺伝子組換え」だが、バーク博士が懸念するのは同じSARS-CoV-2の変異株や亜系統同士ではなく、鶏コロナウイルスや豚コロナウイルスなど種類の異なるコロナウイルスとの組替えである。香港かぜウイルスや2009新型インフルエンザウイルスのように(第6回参照)、インフルエンザウイルスでは、鳥・ブタ・ヒトに感染するインフルエンザの遺伝子が同一体内で組換えを起こし、新たなインフルエンザウイルスが生まれている。同じように、SARS-CoV-2と何らかの動物コロナウイルスに同時感染した動物の体内で、ヒトへの感染性が高いハイブリッドウイルスができてしまうおそれは十分にある(その組替えは、もしかするとオジロジカの体内で起こるかもしれない)。そのウイルスはもはやSARS-CoV-2とはまったく異なるウイルスであり、ワクチン接種や感染で得られた免疫は効果がなく、感染力や毒性も格段に高まっているかもしれないのだ。

 4つめは、ウイルスとヒト免疫系との関係だ。前述のように、ウイルスに感染したりワクチンを接種したりすると、私たちの体内ではナイーブB細胞から分化した形質細胞によって、ウイルスのもつ特定の抗原に対する抗体がつくられる。その抗体がウイルスの感染を防ぐのではなく、むしろ細胞にウイルスを取り込むように働いて、重症化してしまう現象がある。これを抗体依存性感染増強(ADE)と呼ぶ。

 実際、デング熱の原因ウイルスであるデングウイルスに対応したワクチンを接種した人の体内でこの抗体依存性感染増強が起こり、死亡者が出たことがある。またネコに感染する猫伝染性腹膜炎コロナウイルスでしばしば見られるほか、実験室ではSARS-CoV、MERS-CoVでも起こることが確認されているという。SARS-CoV-2ではこれまでのところ事例は報告されていないが、変異をつづけていけば、将来抗体依存性感染増強をもたらすようになるおそれがあるという。

 バーク博士自身はシナリオ1、つまりエンデミックウイルス化の可能性が高そうだとするが、どのシナリオもけっしてファンタジーではない、とも強調している。今後いずれのシナリオへ進むのか、それとも複数のシナリオが同時進行するのか、あるいはこれ以外のまったく別のシナリオに書き改められるのか、確認するにはまだしばらく時間がかかりそうだ。人類とSARS-CoV-2との戦いは、はじまったばかりなのである。そしてこうしているあいだにも、「新・新型コロナウイルス感染症=COVID-XX」や「新・新型インフルエンザ」、あるいは別のウイルス性感染症が手ぐすねひいて出現の機会をうかがっているかもしれない。表3に見るように、過去感染症の大流行は頻繁に起こっている。とくに21世紀になってから、COVID-19を含め4回も発生している。実に5年に1度という高頻度だ。ここ数年のうちに、次のパンデミックが起こってもけっして驚くにはあたらない。

 本連載は今回でいったん区切りとします。以後は、新しいトピックがあった時に随時アップする予定です。なお、本連載をベースに電子書籍を発行予定です。こちらもぜひお読みください。


[1] 中国のコロナ関連死、1カ月で約6万人 ゼロコロナ政策緩和後、BBCニュース, 1月15日, 2023

[2] 梁万年表示疫情已经基本结束, 新浪新闻, 2月23日, 2023

[3] Donald S. Burke:4 Evolutionary scenarios for the future of SARS-CoV-2, STAT, February 16, 2022

[4] Michael D. Swartz et al.:Antibody Duration After Infection From SARS-CoV-2 in the Texas Coronavirus Antibody Response Survey, The Journal of Infectious Diseases, 227(2), 2023

[5] Susan A. Shriner et al.:“SARS-CoV-2 Exposure in Escaped Mink, Utah, USA”, CDC Emerging Infectious Diseases, 27(3), March, 2021

[6] Júlia Vergara-Alert et al.:Pigs are not susceptible to SARS-CoV-2 infection but are a model for viral immunogenicity studies, Transboundary and Emerging Diseases, 02 October, 2020

[7] Konner Cool et al.:“Infection and Transmission of Ancestral SARS-CoV-2 and Its Alpha Variant in Pregnant White-tailed Deer”, Emerging Microbes & Infections, 11(1), 2022

[8] Leonardo C. Caserta et al.:White-tailed deer (Odocoileus virginianus) may serve as a wildlife reservoir for nearly extinct SARS-CoV-2 variants of concern, PNAS, 120(6), 2023

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