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裏金と草の根保守

 「ザル」、「穴だらけ」と酷評され、抜け道と先送りに満ちた「改正政治資金規正法」が国会で成立した。政治資金パーティ券の購入者の公開基準を当初の自民党案10万円から5万円に引き下げたのは、友党である公明党の賛成を取りつけるため。しかし、自民党の大勢はこの岸田氏の独断に不満をいだいているという。もちろん、企業・団体献金も継続。政策活動費の使途公開も先送りである。
 そもそも、なぜ自民党議員は裏金や使途の把握されないカネを必要とするのか。それを考えるときに、思い至ることがある。コロナ禍の前、保守色の強い地元の町内会役員の順番が回ってきて、2年間務めた。このあたりではどの地区も7月末から8月初めごろに夏祭り(盆踊り)がある。広場や神社の境内にやぐらを組み、提灯を飾り、模擬店が出店する。そこそこの人が参加する町内会では最大規模のイベントだ。こうしたイベントの際には、町内会員や町内の事業者が「花」と呼ばれる寄付(祝儀)をもってくる。そして、「花掛け」(タイトル画像参照)に寄付者の名前と金額を書いた紙が掲示される。そのうち地元選出国会議員や都議会議員(いずれも自民党)の秘書がやってきて、祝儀袋を置いていく。「領収書は要りません」と付け加えながら。中身は5000円程度だったと思う。袋には議員の名前が書かれているが、花掛けに名前と金額が貼り出されることはけっしてない。地元選出政治家からの祝儀は、自分の選挙区民への寄付になり、違法だからである。ただし、祭りもたけなわのころ議員本人がやってきて挨拶をぶつ。
 わが衆議院選挙区内に町内会・自治会がいくつあるのかわからないが、500は下らないだろう。夏祭りの数もそれだけあると考えると、祝儀の額はひと夏で250万円にもなる。それ以外にも春や秋にも祭りがあり、年始には町内会はじめ各種団体の新年会が開催される。そこにも顔を出して挨拶するとなれば、額はさらに膨らんでいく。それらはみな表には出せないカネである。
 ところで市議会議員は、「会費」と称して祝儀を支払い、祭りや新年会に参加して一杯やっていくことが多い。これにも領収書は必要とされない。こうした地方議員の日常の付き合いを支えるために、国会議員がやはり領収書の要らない金を渡しているという話も聞く*。各派閥が所属議員に配る夏の「氷代」、暮れの「餅代」の少なからぬ部分はそこに消えていくのかもしれない。
 国会議員にしてみれば、ふだんから地方議員の面倒を見ておくことで、選挙では手足となって働いてくれる。住民はいわゆる地域の要望を地方議員にもっていく。傷んだ舗装を直してほしい、あのT字路にカーブミラーを立ててほしい……。地方議員はそのために役所を動かす。それが「地域に役立つ」議員である。地域住民もそういう議員を支える。もちろん国会議員とのパイプは大きな強みだ。与党国会議員の紹介(口利き)があれば、霞が関の官僚も無下に断れない。
 「草の根保守」という言葉があるが、その本質はこうしたもちつもたれつのなれ合いだ。だが、間違いなくこれこそが自民党の足腰だ。このシステムを養い、維持するには、領収書を求めなくていい、顔のないカネが必要だ。それが細ってしまえば、足腰が衰える。裏金や領収書の要らないカネの多寡は、自民党の存続にかかわるのである。

*たとえば、毎日新聞2023年12月22日付田中真紀子氏のインタビュー記事(すべてを読むには購読契約が必要)
「ああ、永田町 現金配って「地盤培養」 「オヤジは出しました」と地方議員が要求」
https://mainichi.jp/articles/20231222/dde/012/010/004000c


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