清涼飲料に含まれる「糖分」が腸内細菌を通じてメタボリック症候群を引き起こす

 9月7日の記事で、腸内細菌叢の変化(ディスバイオシス)が腸管バリア機能を低下させ、非アルコール性脂肪肝や肝硬変、さらには肝がんを引き起こす可能性があるという研究報告をいくつか紹介したが、その原因の1つとして、砂糖(ショ糖や異性化糖)の過剰な摂取がクローズアップされてきた。

 一般に「砂糖」と呼ばれているものは、サトウキビ(甘蔗)やテンサイ(甜菜)から精製されるショ糖だが、異性化糖はトウモロコシなどのデンプンを酵素や酸などで分解したブドウ糖液から、さらに酵素などを使って果糖をつくり、これを精製・混合させたもの。食品表示の原材料名に「果糖ブドウ糖液糖」や「ブドウ糖果糖液糖」と表記されているのがそれ。果糖含有率が50%未満のものを「ブドウ糖果糖液糖」、同じく50~90%未満のものを「果糖ブドウ糖液」、同じく90%以上のものを「高果糖液糖」と呼んでいる。

 かつては甘味料といえばショ糖がほとんどだったが、70年代に異性化糖の大量生産が可能になり、安価であるうえ、果糖は甘味が強く低温でも甘味を感じやすいことから、飲料や加工食品分野での利用が進んだ。とくに甘味炭酸飲料にはほぼ間違いなく含まれており、菓子(とくに冷菓)、液体調味料(みりん風調味料、ポン酢しょうゆ、めんつゆ、調味酢など)、漬物など市販の食品に広く使われている(写真)。一方、ショ糖はブドウ糖と果糖が1分子ずつ結合した二糖であり、消化管で分解されてブドウ糖、果糖として吸収される。

清涼飲料や冷菓、液体調味料などに幅広く使われる異性化糖
(原材料名に「果糖ブドウ糖調味液糖」と記されているのがそれ)

 ブドウ糖は生物にとってエネルギー源として欠かせない。果糖も腸上皮細胞や肝臓で代謝されてエネルギーに変わる。しかし、一度に大量に果糖を接種すると、エネルギーとして使われなかった分は中性脂肪に変わる。もちろんブドウ糖も余った分の一部は中性脂肪に変わるのだが、果糖のほうが中性脂肪をふやしやすいとされる。「果糖を摂りすぎると太る」といわれるゆえんだが、太るだけでなく糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞など致命的疾患をもたらす恐れのあるメタボリック症候群の原因にもなることがわかってきた。世界保健機関(WHO)は、食品・飲料からのショ糖やブドウ糖、果糖などの摂取を総カロリーの10%未満に抑えるよう勧告している[1]。コーラやサイダーのような炭酸飲料、フルーツジュースには異性化糖やショ糖が500㍉㍑あたり50㌘程度含まれており、それだけで1日に必要とする総カロリーの10%程度(年齢や体重によって変わるが)になってしまう。

 果糖を多く含む異性化糖を与えたマウスでは、同じカロリーのコーンスターチ(デンプン)を与えたマウスと比較して、高い比率で脂肪肝や肝がんを発症したと、アメリカ・カリフォルニア大学などの研究グループが報告している[2]。長期間高果糖を摂取しつづけたマウスでは、腸管バリア機能が低下しており(9月7日の記事参照)、細菌由来成分(リポ多糖)の血中濃度が高く、肝臓に炎症が見られたという。

 中国・山西農業大学と浙江省農業科学院の研究者は、高果糖コーンシロップ(異性化糖)を与えたマウスで、肝脂肪を含む体脂肪が増加し、腸内細菌の構成が変化したとしている[3]。

 異性化糖だけが悪いわけではなく、ショ糖もとりすぎれば悪影響があるようだ。名古屋大学を中心とする研究グループは、ショ糖をとりすぎると大腸の腸内細菌叢に変化をもたらし、この変化が脂肪肝や高中性脂肪血症の原因であることが、ラットを使った実験でわかったと報告している[4]。この結果にも、ショ糖から分解された果糖がかかわっているのかもしれない。

 果糖の過剰摂取がどのように腸内細菌叢の変化をもたらすのか、まだ詳細は明らかになっていないが、おそらくは果糖を好む細菌群が増殖することによって、酪酸などの短鎖脂肪酸をふやす「善玉菌」が減るのではないだろうか。短鎖脂肪酸には腸管バリア機能を健全に保つ効果がある。

 血糖値(血中ブドウ糖濃度)管理に用いられるグリセミック指数(GI)という食品指数がある。白米や精白小麦粉を使った食品(ごはんやパンなど)の主成分であるデンプンは、アミラーゼなどで分解されてブドウ糖に変わり、短時間に血糖値を上昇させやすいため高GI食品とされる。これに対して果糖は血糖値を上昇させにくいため、低GI食品に分類されている。一方で果糖の過剰摂取は、腸内細菌叢を変化させて高中性脂肪血症や脂肪肝、メタボリック症候群をもたらし、ひいては肝硬変や肝がんの発症にもつながる。同じごはんやパンでも精白されていない玄米や全粒粉のものは、GIが低く血糖値の上昇を穏やかにするうえ、ぬかやふすまの部分に含まれる食物繊維には「善玉菌」を養う効果もある。一方で、果糖を多く含む果物も、食物繊維やポリフェノール類、ビタミンなどが豊富。とりすぎには注意だが、果物も含めた幅広い食材(とくに植物性食品)をとることで多様で健全な腸内細菌が養われる。

 なぜ、どのように、腸内細菌はメタボリック症候群を進行させるのか、がんや認知症と腸内細菌の関係、健全な腸内細菌叢をつくり保つにはどうしたらいいのか、健全な腸内細菌叢を養う食事や食材などなど、腸内細菌と私たちの健康との関係について、わかりやすくまとめた『からだとこころの健康を守る腸内細菌入門─おなかのなかの生態系とのつきあい方─』(電子書籍)が、アマゾン・キンドルから好評発売中です。


[1] World Health Organization:Guideline: Sugars Intake for Adults and Children, 2015
[2] Jelena Todoric et al.:Fructose stimulated de novo lipogenesis is promoted by inflammation, Nature Metabolism, 2(10), 2020
[3] Xiaorong Wang et al.:Effects of high fructose corn syrup on intestinal microbiota structure and obesity in mice, npj Science of Food, 6(1), 2022
[4] Shumin Sun et al.:High sucrose diet-induced dysbiosis of gut microbiota promotes fatty liver and hyperlipidemia in rats, The Journal of Nutritional Biochemistry, 93, 2021


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