新型コロナウイルス──オミクロン系統の新たな変異株JN.1が流行の主流に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」上の5類感染症に移行して8か月が経過した。社会は「コロナ禍」以前の状態をほぼ取り戻したが、新型コロナウイルスが消えてしまったわけではない。いまだに感染流行はつづいており、免疫をくぐり抜けやすく、より感染が広がりやすい株へと、変わらず変異を繰り返している。

 日本では、定点医療機関あたり感染報告数・入院患者数とも昨年11月を底に増加に転じた(国立感染症研究所感染症疫学センター「新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:発生動向の状況把握2024年第3週(1月15日~1月21日)。その主流となっていると見られるのが「JN.1」変異株だ。2023年秋からヨーロッパを中心に世界的に広がり、それまで主流だったオミクロン株XBB系統を押しやるように広がった。12月には世界保健機関(WHO)が、注目変異株(VOI)に指定した。東京都の病原体サーベイランスによれば、1月8~14日に都内で報告された新型コロナウイルスのゲノム解析の結果はBA.2.86系統が68.1%(うちJN.1が58.3%)、オミクロンXBB系統が31.9%となっており(東京都保健医療局『モニタリング分析』令和6年2月1日公表)、国内でも主流株となった。

東京都の新型コロナウイルス病原体サーベイランス(ゲノム分析)による変異株の割合
出典:東京都保健医療局『モニタリング分析』令和6年2月2日

 JN.1は2020年に流行の主流だったオミクロン株BA.2系統の亜系統であるBA.2.86からさらに変異したBA.2.86.1.1の別名で、すでにいくつかの亜系統が生じている。BA.2.86は、それ以前に流行していたXBB.1.5やEG.5.1と同じくBA.2の子孫株だが、系統が異なる。BA.2.86は2023年7月に初めて検出され、その後、JN.1、JN.2、JN.3などの亜系統が生じ、うちJN.1とその亜系統が11月ごろから急速に感染を広げた。BA.2.86系統はスパイクタンパク質を構成するアミノ酸に、BA.2と比較して30以上、XBB.1.5と比較して35以上のちがいがあるという(国立感染症研究所:『新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株 BA.2.86系統について 第2報』2023年11月16日)。

 東京大学医科学研究所の研究グループによると、JN.1の感染の広がりやすさはそれまでのオミクロン株XBB系統EG.5やHK.3、JN.1の先祖株であるBA.2.86よりも伝播力が強く、ワクチン接種や以前の感染によって誘導された中和抗体にたいして、高い逃避能をもつという(Yu Kaku et al.:Virological characteristics of the SARS-CoV-2 JN.1 variant, The Lancet Infectious Diseases, 24(2), 2024)。

 たしかに実際に感染が広がっているのは、JN.1が高い感染力と免疫逃避能をもつからにちがいない。ドイツの研究グループは、ワクチンを接種したか以前に感染したことのある39人の被験者から血液を採取、血清中の中和抗体が各変異株にたいしてどれだけ中和活性があるかを調べた。採血は2023年9月におこなわれたが、この当時その地域ではEG.5.1変異株が流行していた。その結果、オミクロン変異株の祖先株であるBA.1にたいして最も高い中和活性を示し、BA.2変異株、BA.5変異株がつづいた。しかし、XBB.1.5やEG.5.1にたいしては、BA.1の15分の1の中和活性しかなかったとしている。しかも39人のうち12人の血清で中和活性が認められなかった。さらにBA.2.86変異株にたいしてはBA.1の20分の1の中和活性しかなく、11人の血清で中和活性が認められなかった。JN.1変異株にたいしてはBA.2.86変異株とほぼ同じ中和活性だった。BA.2.86やJN.1が急速に感染を拡大させているのはこのためだとしている(Lara M Jeworowski et al:Humoral immune escape by current SARS-CoV-2 variants BA.2.86 and JN.1, December 2023, Eurosurveillance, 29(2), 2024)。ただ、中和活性が見られない人が少なからずいたのは、集団レベルでワクチン接種や感染によって誘導された免疫が低下していることを示すのだろうという。

 一方、ファイザーやモデルナの報告によれば、XBB.1.5系統対応1価ワクチンの追加接種は、JN.1などBA.2.86系統にも同等の有効性が期待できるという(国立感染症研究所:同上)。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、JN.1に対してオミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチンが発症を防ぐ有効性は54%だったと発表した(Ruth Link-Gelles et al.:Early Estimates of Updated 2023–2024 (Monovalent XBB.1.5) COVID-19 Vaccine Effectiveness Against Symptomatic SARS-CoV-2 Infection Attributable to Co-Circulating Omicron Variants Among Immunocompetent Adults ― Increasing Community Access to Testing Program, United States, September 2023–January 2024, Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) , 73(4), 2024)。JN.1にたいしても十分に効果があるという報告だ。

 わが国では、XBB.1.5系統対応1価ワクチンの追加接種は、今年3月31日まで全額公費で受けられる。


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