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新型コロナウイルスはどこから来てどこへ行くのか

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2023年5月8日をもって。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は「5類感染症」に移行し、社会は「新型コロナ以前」に戻りつつある。しかし、新型コロナウイルスによる感染者は…
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新型コロナウイルス──オミクロン系統の新たな変異株JN.1が流行の主流に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」上の5類感染症に移行して8か月が経過した。社会は「コロナ禍」以前の状態をほぼ取り戻したが、新型コロナウイルスが消えてしまったわけではない。いまだに感染流行はつづいており、免疫をくぐり抜けやすく、より感染が広がりやすい株へと、変わらず変異を繰り返している。

 日本では、定点医療機関あたり感染報告

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新型コロナウイルスはどこへ行くのか

<第14回>

 日本では、2023年5月8日にCOVID-19が「2類相当」から「5類感染症」に移行し、季節性インフルエンザ並みの扱いとなった。それ以前は、毎日感染者数や死亡者数が報告・発表されていたものが、定点医療機関からの週1度の報告に基づいて感染者数が公表されるだけとなった。国内の全感染者数は正確には把握できず、「定点あたり」で増減を判断するしかなくなった。感染を防ぐための行動制限はなく、

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奇妙な変異株オミクロン

<第12回>

 日本では、2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が感染症法上の「第5類感染症」に移行してからも感染者数がふえつづけており、7月に入って日本医師会が「現状は第9波と判断するのが妥当」と発表した[1](ただし、数日後政府はこれを否定)。第5類移行で全数把握されなくなり、定点あたり報告数から推測するしかないが、6月、7月と明らかに感染者数は増加している。この波

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パンデミックをもたらした「D614G変異」

<第11回>

 SARS-CoV-2は変異しつづけている。初期に採取されたPANGO系統分類のA系統(A株)とB系統(B株)のうち、その後世界的に広がったのはB株だった。2020年のはじめ、そのB株からB.1株が派生する。はっきりとはわかっていないが、出現時期は1月はじめと考えられており、おそらく中国国内で出現して、それが旅行者とともにヨーロッパにもたらされた。イタリアでは、2020年2月から3

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最初の感染はいつ、どこで、どのように起こったか

<第10回>

 これまでのところ、SARS-CoV-2の起源にかんしては、野生動物か研究所漏出か、2023年6月現在、結論は出ていない。多くの研究者は野生動物起源と考えているが、その決定的な証拠はない。そこで、感染のはじまり(大元)を探ろうと、さまざまな方面からの研究が試みられている。その1つが、進化生物学や生物情報科学(バイオインフォマティックス)からのアプローチだ。

 SARS-CoV-2

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野生動物取引と動物由来感染症のリスク

<第9回>

 A型インフルエンザウイルス同様、ヒトコロナウイルスも人獣共通感染症=動物由来感染症であり、オリジナルはすべて動物にある。すでに書いたように、SARS-CoVはコウモリが自然宿主でありハクビシンあるいはタヌキを介してヒトに感染したと推測されている。MERS-CoVもまたコウモリ由来で、ヒトコブラクダが媒介したことがほぼ確実である。

 これに対してOC43の自然宿主はネズミの仲間だと

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19世紀の「ロシアかぜ」の原因はコロナウイルスか?

<第8回>

 スペインかぜに先立つこと四半世紀、記録が残る最初の呼吸器感染症パンデミックとされるのが、19世紀末、1889年〜1893年にかけて世界中でおよそ100万人を死亡させたといわれる「ロシアかぜ(Russian flu)」である(表参照)。ただし確実とはいえないが、歴史上の文献からは、インフルエンザによるパンデミックが1510年以降、何度か発生したと考えられている[1]。

 ロシアかぜ

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人獣共通感染症としてのコロナウイルス

<第7回>

 21世紀の初頭、ヒトに感染するコロナウイルス(ヒトコロナウイルスHCoV)として知られていたのは、HCoV-229E(229E)とHCoV-OC43(OC43)の2種類だけだった。両者は1960年代に相次いで確認された。229E、OC43とも、研究者のサンプル番号に由来する。OCは組織培養(Organ Culture)のイニシャルである。

 後述するHCoV-NL63(NL63)

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100年前の「スペインかぜ」パンデミック

<第6回>

 インフルエンザウイルスによる歴史的なパンデミックが、1918〜1919年にかけて流行した「スペインかぜ」だ。スペインは発生国でもないし、最大の流行国でもなかったが、ヨーロッパは第一次世界大戦の真っただなかで、参戦国では報道統制により感染者や死者の報告が公表されなかった。それに対して中立国であったスペインでは統制がなかったため、まるでスペインだけで流行していたように見えた。それで、ス

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ふえつづける人獣共通感染症

<第5回>

 COVID-19パンデミックで、あらためて注目を集めたのが、「人獣共通感染症(ズーノーシス)」である。

 人獣共通感染症は、動物からヒトに感染する病気のこと。ウイルス感染症、細菌感染症、寄生虫症など幅広い感染症に見られ、感染症の半数は人獣共通感染症だといわれる。人獣共通感染症の病原体はヒトから動物にも動物からヒトにもうつるわけだが、ヒト側から見ればとくに後者が問題であるため、「動

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SARS-CoV-2の構造と感染メカニズム

<第4回>

 19世紀後半、ロベルト・コッホによって炭疽菌や結核菌、コレラ菌のような病原細菌が発見され、細菌学が大きく発展した。しかし、細菌を捕捉するフィルターの濾過液に、なお病気の原因となるものが含まれていた。この細菌よりも小さい濾過性病原体は、ギリシャ語で「毒」を意味する「ウイルス(virus)」と名づけられた。ほとんどのウイルスはそのサイズが非常に小さいため、光学顕微鏡では見ることができな

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雲南の廃鉱山から運ばれた新型コロナ近縁ウイルス

<第3回>

 2012年、中国南西部雲南省にある廃銅鉱山の坑道で、コウモリの糞を集めていた作業員6人が重症の肺炎に罹り、うち3人が死亡した。なんらかのウイルスに感染したことが原因と考えられたが、その感染源として坑道をねぐらにするコウモリが疑われた。1000km以上離れた、湖北省の省都・武漢市にある武漢ウイルス研究所の研究チームがこの廃鉱山に入り、コウモリ(ナカキクガシラコウモリRhinoloph

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COVID-19パンデミックのはじまりとひろがり

<第2回>

 中国湖北省の省都・武漢市は、人口1100万人を超える中国でも有数の大都市であるとともに、北京、上海、広州、成都といった他の大都市とのあいだを高速鉄道が走り、国内外を結ぶ国際空港をもつ交通の要衝である。

 2019年12月30日、この街で多数の肺炎患者が発生しているとの報告が、中国国家衛生健康委員会にもたらされた。翌日には、中国疾病予防管理センター(中国CDC)が武漢に調査研究チー

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動物媒介か研究所漏出か──新型コロナウイルスの「起源」論争はつづく

<第1回>

 700万人が命を落としたと推測され、世界中を混乱と恐怖に陥れた2019新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。本稿投稿時点(2023年4月25日)で世界保健機関(WHO)によるパンデミック宣言は解除されていないが(追記:2023年5月5日、WHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を解除した)、世界は事実上「新型コロナ」以前の状態に戻った。ただし、完全に

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