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ぼくの本棚

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心震わせられた一文から。読書の足跡。
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#読書

【読書】 トリツカレ男 いしいしんじ~最高の贈り物~

【読書】 トリツカレ男 いしいしんじ~最高の贈り物~

僕の中でのプレゼントにしたい本。第一位。

いしいしんじ『トリツカレ男』

今回は、いや、今回も一方的な物語への愛情を書かせていただきした。(お付き合い頂けると嬉しいです……)

ピュアなきもち誰かを好きになるという不思議。

見た目。内面。言葉遣い。年収。地位。理想。

年を重ねれば重ねるほど、相手に求める条件が高くなっていきますよね。

だから、「好きになる」がどんどん下心を帯びて、現実的な理

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【読書】 高瀬舟 森鷗外 ~罪の所在~

【読書】 高瀬舟 森鷗外 ~罪の所在~

それは罪と呼べますか? 法律では間違いなく罪なのに、それは本当に罪と呼べるのだろうか?という事件が度々起きている。

 少し前の話になる。

 夫から日常的にDVを受けていた一人の女性がいた。警察に相談すると、この場合は家庭内の問題として取り合ってもらえない。相談する機関、知人の誰もがことごとく、さしたる問題として認めなかった。女性の服で隠された場所には、無数の生傷が絶えなかったのにも関わらず。

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【読書】 斜陽 太宰治~恋すること生きること~

【読書】 斜陽 太宰治~恋すること生きること~

戦闘開始

昭和25年刊行。『斜陽』。

時代に反逆した小説があるとしたら、この一冊を挙げたい。

信じられなかった。女性が女性という理由だけで、自由な恋愛を禁止されていた時代。一生一人の男に操を立て続けるという不文律。

聞こえてくるようだった。「なんてはしたない小説だ」「なんて羨ましい恋だろう」そんな当時の人々の声が。

読み終えて、初めて、「戦闘開始」の意味が分かった気がする。かず子の科白。

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【読書】 絵のない絵本 アンデルセン

【読書】 絵のない絵本 アンデルセン

最高純度の文学は絵の中に、景色の中に「さぁ絵にしてごらん、話してあげたことを」はじめての晩、月はそういった。 

 童話作家として、不動の名声を誇るアンデルセンは、「なぜ子供のための本ばかりを書くのですか?」と問われ、「大人のために書いているものを子供に読んでもらっているのです」と答えたと伝えられています。

『みにくいあひるの子』しかり、『マッチ売りの少女』しかり、こどもの頃に読み聞かせられた作

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【読書】 堕落論 坂口安吾②

【読書】 堕落論 坂口安吾②

 敗戦直後、これまでの日本人の価値観が一変する。神様と崇められていた天皇は人間であると定義され、憲法は作りなされ、教科書の大部分は黒く塗られた。

 日本人は突如として、実際の生活だけでなく、それまでの生きていく上での心の支えを失ってしまった。よくよく考え見ると、コロナウイルスの蔓延で、現代人も、突如として生活や価値観が一変している。

そんな、日本人の、新たな人間の在り方を模索する道標を示した書

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【読書】 堕落論 坂口安吾 ①

【読書】 堕落論 坂口安吾 ①

 人が当然のように正しいと思い、すがっているもの。例えば、道徳であったり、モラル。日本人らしさという国民性。政治。法律。年相応の振る舞い。男らしさと女らしさ。触れられるか触れられないかほどの心の支えを、僕たちは確かに持っているような気がする。

 しかし、そんな「思い込み」や「決めつけ」によって、簡単に人は自分の言動を正当化する。それで、誰を傷つけ けようとも、知らぬ存ぜぬという考えに至る。

 

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【読書】 ともえ 諸田玲子

【読書】 ともえ 諸田玲子

  現より幻のほうが真実であることも、ときにはあるからだ。

分かち合う。

それがたとえ、喜びでも、悲しみでも、人は何かを分かち合わずにはいられない生き物らしい。

でも、分かち合うのが、誰とでもいいというわけにも、人はいかない。

『ともえ』は晩年の松尾芭蕉と、尼の、恋とは言い難い、因果な絆を紡いでゆくお話。二人の背景には、源氏の武将だった木曾義仲と、義仲に連れ添った巴の魂が絡み合う物語。

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【読書】かもめのジョナサン

【読書】かもめのジョナサン

『かもめのジョナサン』リチャード・マンソンかもめの絵がプリントされた、濃紺のジャケット。

パラパラとページをめくると、所々にかもめのグラビアが挿入されている、一風変わった文庫本。

すぐに飛び込んでくる一文、、

この世のどんなことよりも、ぼくは飛びたいんです‥

これは、一風変わったかもめのお話、、

あらすじ 主人公かもめのジョナさんは、来る日も来る日も、低空飛行に明け暮れている。
 かもめ

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【読書】宇宙のみなしご 森絵都

【読書】宇宙のみなしご 森絵都

ときどき、わたしのなかで千人の小人たちがいっせいに足ぶみをはじめる。その足音が心臓にひびくと、身体じゅうの血がぶくぶくと泡をはくみたいに、熱いものがこみあげてきて抑えきれなくて、わたしはいつもちょっとだけふるえる。

 森絵都さん。タイトルよりも人の目を引く、ちょっとずるいペンネームだなぁと、彼女の本を手に取る前はいつも思う。絵の都。素敵な名前だと思う。

 そして、タイトルの『宇宙のみなしご』。

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【読書】にごりえ 樋口一葉

【読書】にごりえ 樋口一葉

あぁ嫌だ嫌だ嫌だ、

どうしたなら人の声も聞こえない物の音もしない、

静かな、静かな、自分の心も何もぼうつとして物思ひのない処へ行かれるであらう、

つまらぬ、くだらぬ、面白くない、情ない悲しい心細い中に、何時まで私は止められてゐるのかしら、

これが一生か、一生がこれか

高校生に初めて読んだ『にごりえ』、読み返すごとに、訴えかけられるものがあります、どのページからも、人物たちの叫び声が聞こえ

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【読書】 スイートリトルライズ 江國香織

【読書】 スイートリトルライズ 江國香織

このうちには恋が足りてないと思うの

 恋と愛の形って、本当に色々あるんだなぁ。江國さんの小説を読むたびに感じることです。そして、一度読んでしまったが最後、読み終えるまで何もできなくなってしまう……。同じ人間の心の中には相反するものや矛盾するものが共に存在している。多重人格なのではなくて、異なる一つ一つがその人の要素。それが、こんなにも自然に書かれていることのいつも感動します。そんな複雑な人の素敵

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【読書】はつ恋 ツルゲーネフ

【読書】はつ恋 ツルゲーネフ

『自分を犠牲にすることを、快く感じる人もあるのものだ』

 誰にでも、人生のなにがしかのタイミングでやってくる「はつ恋」。200年も前のロイアはモスクワ。貴族階級の16歳の少年にも、例外なくはつ恋はやってくる。誰もが通り過ぎて行く「はつ恋」というイベントに対して、人間の様々な機微や、感情をおそろしまでに洞察した1冊です。少年と少女が大人になってゆくということ。恋と愛に犠牲がつきまわることへの感想と

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【読書】リア王 シェイクスピア(感想と考察)

【読書】リア王 シェイクスピア(感想と考察)

お前たちのうち、誰が一番この父の事を思うておるか、それが知りたい、最大の贈物はその者に与えられよう、情けにおいても、義理においても、それこそ当然の権利というべきだ。 

『リア王』その凄惨たる人間ドラマと飽くなき人間の欲望、善悪の区別すら揺るがされる大作。始めてのシェイクスピア作品を読み終えて、読書とは言えないような、本当に劇場で鑑賞しているかのような感動を受けました。感想と考察をできるだけ事細か

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