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多様性〜人と森のサスティナブルな関係

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2021年出版『多様性〜人と森のサスティナブルな関係』に関する記事や書評を集めています。
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#森林

書評   「多様性」   by  藤森隆郎さん

書評 「多様性」 by 藤森隆郎さん

藤森隆郎さんは、1938年生まれ、日本を代表する森林生態学者で、国際的にも活躍をされた方です。「気候変動枠組み条約政府間パネル(IPCC)」が2007年にノーベル平和賞を受賞したことに貢献したとして、IPCC議長から表彰を受けられています。
2010年の日本森林再生プラン実践事業の際に、私は藤森さんと数回に渡って交流させていただきました。
藤森さんは、現役引退後も熱心な活動をされており、2015年

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雑木林

雑木林

日本では、「雑木林(ざつぼくりん)」という言葉が、材としてあまり価値がない広葉樹の森を指す言葉として、とりわけ戦後、林業政策的に流布しました。

世界大百科事典にもこう書かれています。

では「雑木」や「雑木林」の語源はどこにあるのか、気になったのでちょっと調べてみました。下記の帝京大学薬用植物園管理室 木下武司のサイトが詳しく書かれていて参考になると思いました。

http://www2.odn

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【谷や沢が多い日本では】

【谷や沢が多い日本では】

今回の熱海の土砂災害では、谷筋の窪地に埋められた盛土(土木工事の残土など)が主要な原因との推測がされている。また尾根を削って造成されたメガソーラーや、雨が降ると土砂を運ぶ川のようになる水を制御できない構造の林道との関連性も議論されている。

いずれも、雨が多く、繊細な地質と土壌の場所では、やってはいけない開発である。私が住むドイツでは、いずれの類の開発も、幸いなことに、法的に許されていない。

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「森林リトリート」 オンラインセミナー2月1日

「森林リトリート」 オンラインセミナー2月1日

「.....マルクスと私の違い。マルクスは人類を変えたい。私は個々の人間を変えたい」

ドイツの文豪ヘルマン・ヘッセの言葉です。

ヘッセは、「我がまま(自身の心の奥深くにある神聖なものに従うこと)」という心の羅針盤を持った人でした。彼の作品には、世界を変えるためには、個々人の心の持ち様が大切であるという思想が、共通のメロディとして流れています。

私たちの社会が持続するために必須となっているトラ

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川上と川下をつなぐ吉野のコーディネーター「阪口製材所」 ––集成材部門を辞めて原点回帰!

川上と川下をつなぐ吉野のコーディネーター「阪口製材所」 ––集成材部門を辞めて原点回帰!

今年はじめ、FBでつながっている吉野の阪口製材所の阪口勝行氏から、自身が運営されている団体で発行された新刊『憧れの吉野材で建てる家2021関西版』を、わざわざドイツまで送っていただいた。私は年度末締めの仕事を抱えていたので、読んで感想を書けるのは春以降です、と断りを入れていた。もう春も終わり、夏が始まろうとしている今、やっと少し余裕ができたので、今日の午後、ベランダで日光浴をしながら読み始めた。阪

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美は乱調にあり

美は乱調にあり

表題は、5月9日のオンラインセミナーで、講師の夏井辰徳さんが、最初に引用された言葉です。夏井さんは、岩手県九戸村の約300haの広葉樹林にて、補助金に一切頼らずに森づくり、原木生産、木材加工と販売を、「九戸山族−夏井蔵」という団体で、数名の仲間と一緒に行なわれています。

「美は乱調にあり」は、小説家の瀬戸内寂聴の代表作のタイトルです。その続編である「諧調は偽りなり」とセットになっています。

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春の訪れ −復活と再生

春の訪れ −復活と再生

欧州は今(4月中ば)、イースターです。クリスマスと共に大切な里帰りの期間。日本のお盆と正月に相当します。

イースターは復活祭。私たち家族が住むシュヴァルツヴァルトの麓の人口2万人の小都市ヴァルトキルヒ市を流れれるエルツ川に架かる歩道橋が「復活」しました。駅と中心街をつなぐ大切な橋です。1935年に建設された鋼鉄製で木の板が敷いてある橋は、ここ数年、老朽化が問題視されていて、2020年より定期的に

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シリーズ企画「広葉樹は雑木ではない」の12名の多彩な講師陣

シリーズ企画「広葉樹は雑木ではない」の12名の多彩な講師陣

4月11日から5月31日まで開催するセミナーシリーズ「広葉樹は雑木ではない」では、森づくりから、伐採、加工、流通、モノづくり、手工業、レジャー、ハンティング、教育に至るまで、第一線で活躍されている多彩な12名のゲスト講師を招きました。科学的な知見から経験論まで、実務・実用的な話から哲学・人生論まで、皆さんの意識の中に、多彩な未来の明かりを灯します。

講師の紹介をします。私が直接会ったことがあるの

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『多様性〜人と森のサスティナブルな関係』がPOD出版コンテストで賞をもらいました

『多様性〜人と森のサスティナブルな関係』がPOD出版コンテストで賞をもらいました

『多様性〜人と森のサスティナブルな関係』
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B091F75KD3

POD(プリントオンデマンド)出版のコンテストで優秀賞をいただきました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000004456.000005875.html

PODとは、普通の出版社を通さない自己出版の方法で、注文が来てから印

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宮脇メソッドの「密植」と天然更新の「密生」の背後にある原理と、人の手の必要性の考察

宮脇メソッドの「密植」と天然更新の「密生」の背後にある原理と、人の手の必要性の考察

世界で急速に広がっている、荒地やちょっとした空き地に「ミニ森林」を造成する宮脇メソッドに私が好感を持っているのは、近自然的森林業における天然更新と類似点があるからだ。それは、どちらも「密」で「多様」だということ。前者は、土を施して多様な樹種の「密植」をする。後者は、不均質な間伐で多様な光環境を土壌に与え、多様な樹種の更新を促す。狩猟でシカの食害を抑え、控えめな間伐で光の量を調整して草の繁殖を抑える

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自由の最大公約数

自由の最大公約数

「個々人の自由というのは、他の人の自由が始まるところで終わる」

ドイツの哲学者カントが200年以上前に言った言葉です。

自由はデモクラシーの支柱の1つで、幸福感の重要な要素ですが、勝手気ままな無制限の自由の行使は、他人の自由を奪ってしまいます。個々のたくさんの自由を成立させるためには、各人による360度の「気くばり」が必要です。

また、現在、世界で大きなテーマになっている健康や福祉、社会的公

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自然と音楽は嘘をつかない!

自然と音楽は嘘をつかない!

好評いただいている7月のオンラインセミナーの締めは、7月27日18時30分から、高山の長瀬土建の長瀬雅彦さんにゲストスピーカーとして登場してもらいます。
「経年美化」する土木業者になるために 〜SDGsに取り組む長瀬土建の挑戦
https://nagasedoken.peatix.com

長瀬さんとは10年以上の付き合いで、年に1、2回はドイツか日本で会って仕事、プライベートで交流している私の大

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ドイツ西部の洪水被害の複合的な要因 〜地質、農地整備、モノカルチャーの林、林業機械

ドイツ西部の洪水被害の複合的な要因 〜地質、農地整備、モノカルチャーの林、林業機械

先週(7月中ば)に西部ドイツを襲った洪水被害ですが、死者は160名を超え、行方不明者は200人近くと推定されています。洪水被害は、中欧でも近年増加していますが、今回の被害規模はそれらを大きく上回るものです。命を亡くされた方にご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に、1日も早い復興をお祈りします。また精力的に被災地の復興支援を行われている数万人のヘルパーの方々にも多大な敬意を表します。

ベルギ

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谷や沢が多い日本では

谷や沢が多い日本では

今回の熱海の土砂災害では、谷筋の窪地に埋められた盛土(土木工事の残土など)が主要な原因との推測がされている。また尾根を削って造成されたメガソーラーや、雨が降ると土砂を運ぶ川のようになる水を制御できない構造の林道との関連性も議論されている。

いずれも、雨が多く、繊細な地質と土壌の場所では、やってはいけない開発である。私が住むドイツでは、いずれの類の開発も、幸いなことに、法的に許されていない。

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