美は乱調にあり
表題は、5月9日のオンラインセミナーで、講師の夏井辰徳さんが、最初に引用された言葉です。夏井さんは、岩手県九戸村の約300haの広葉樹林にて、補助金に一切頼らずに森づくり、原木生産、木材加工と販売を、「九戸山族−夏井蔵」という団体で、数名の仲間と一緒に行なわれています。
「美は乱調にあり」は、小説家の瀬戸内寂聴の代表作のタイトルです。その続編である「諧調は偽りなり」とセットになっています。
4月から私が12人の多彩な講師陣と一緒にシリーズで開催しているセミナーのタイトルは「広葉樹は雑木ではない」です。「雑木」というのは、揃えること、「諧調」することが好きな人間がつけたネーミングです。ごちゃごちゃ複雑多様で理解・把握しきれないものを「雑」と一括り束ね、思考や探求をストップしてしまう人間。整理する、単純化することは、脳神経学的には、脳がパンクするのを防ぐ脳の省エネ化行為、人間が生き延びるための行為です。一方で、複雑多様なものを受け入れ、そのつながりを理解し、活用することでも省エネ化することができること、サスティナブルなソリューションの実践者の多くがそうしていることを、昨年出版した拙著『多様性〜人と森のサスティナブルな関係』で描きました。
夏井さんの話の核心は、100種類以上の広葉樹が育つ森での施業は、乱調を受け入れ探求し、乱調に美を見い出す感性が必要だということでした。多様で複雑なものを、視覚だけでなく、全感覚で探求し、そこに繋がりや真理を見出し、美を感じるということです。夏井さんは、現代のプレゼンテータの標準装備であるパワポを使わずに、囲炉裏を囲んでみんなに語るように、静かに、深く広い話をしていただきました。
乱調のリズムという言葉も出たので、パネルディスカッションの時に、私が好きな音楽や聴覚の話題を振リました。夏井さんはローリングストーンズが好きだそうです。「彼らは、音楽的には、はっきり言って下手くそだけど、魂がこもっていて人々を魅了する」と夏井さん。「彼らの音楽はつまり、乱調なんですね」と私がいうと「そうそう、その通り」と相槌が返ってきました。
乱調だけど、そこに「美」、別の言葉で言い換えると「愛」を感じるものがあります。逆に、乱調なだけで、そこに美も愛も感じないものもあります。音楽でも、そして森でも。なぜそう感じるのか。それは、数字や文章、図面では説明できないものです。
企業や団体でも同じことが言えますよね。多様で個性あるメンバーで構成され、いろんな意見や思い、アイデアが飛び交い、一見「乱れ」ているように見えても、それらを繋ぐ核となるリズムがあり、メンバーにも、外のお客さんや協働パートナーにも愛されている企業や団体があります。
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