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川上と川下をつなぐ吉野のコーディネーター「阪口製材所」 ––集成材部門を辞めて原点回帰!

今年はじめ、FBでつながっている吉野の阪口製材所の阪口勝行氏から、自身が運営されている団体で発行された新刊『憧れの吉野材で建てる家2021関西版』を、わざわざドイツまで送っていただいた。私は年度末締めの仕事を抱えていたので、読んで感想を書けるのは春以降です、と断りを入れていた。もう春も終わり、夏が始まろうとしている今、やっと少し余裕ができたので、今日の午後、ベランダで日光浴をしながら読み始めた。阪口さん、遅くなって申し訳ありません。

『憧れの吉野材で建てる家2021関西版』は、吉野材を使った多様な木造建築物や、それらを造った設計士、工務店、庭師のプロフィール、思いや技術が紹介されている。

勝行氏は阪口製材所の3代目。「山と設計士と施主をつなぐこと」を志しているという氏は、川上と川下をつなぐコーディネーターだ。私は拙著『多様性〜人と森のサスティナブルな関係』(2021年)で、地域木材クラスターにおいて山と里をつなぐ製材工場の大切さについても言及したが、阪口さんはまさにそのこと、木を通して「人と人をつないでいくこと」を、家業を継いで20年余りやってこられている。「技や経験、知識はどんなに離れていても必ずつながります」と自信をもっていわれている。遠くドイツに住んでいる私もつなげてもらった。

吉野材というとブランド品。30年前は、製材所が製材した材は、黙っていても売れていたという。しかし製材所はバブル崩壊以降、外材に押されて敷地を持て余し人員が余ることを経験。勝行さんの父親にあたる2代目の浩司氏は2000年に、それまでやっていた「モダン」な集成材部門を閉鎖し、1年かけて天日干した天然乾燥の吉野材しか扱わないことを決意して事業転換した。原点に回帰した訳だ。2代目と3代目はその後、二人三脚で吉野の木を全国の設計者に売り歩いた。そして今回の本に紹介されているような、伝統工法からモダンまで、多様なビルダーのネットワークを形成し、実績を残してきた。ビルダーには木材の「一棟買い」をお願いしている。木のいいとこ取りではなく、余すことなく使いきるためだという。極上ヒレや上ロースだけでなく、カルビやハツの部分も一緒に、という売り方である。それが安定供給と価格安定につながる。

阪口製材所の紹介ばかりしてしまったが、この本は、綺麗な印象的な建物や人物の写真が満載で、眺めるだけでも価値がある本である。縁側やベランダで日光浴をしながら、もしくは涼みながら、気軽に見て読める本である。

本で紹介されている多数の多様な吉野材の家。いくつか、私の印象に残ったタイトルだけここに紹介する。これだけでも興味がそそられるのではないかと思う。
「伝統と創造をつなげた、日本人の感性に響く住まい」
「家族の暮らしをつむぐ風通しの良い家」
「東京下町の準防火地域に佇む3階建て住宅」
「関西の住まいに心地よい温熱環境を」
「住まい手を主人公に綴る家づくり」
「労を惜しまず丁寧さで貫く」
「ひと手間が空間にまとまりを」
「むき出しの構造。力の流れが子どもにも見える、力学がわかる家をつくりたい」
「生活を彩るものすべてにつながりをみつけて」
「農食住をつなぐ」
「設計とは通訳である」
「庭のある暮らしで五感を育む日常を」
「風光る家」
「ランドスケープのある家々」

『憧れの吉野材で建てる家2021関西版』
吉野の木を使った家づくり推進委員会 (著)
出版社 株式会社エヌ・アイ・プランニング

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