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#詩人

【詩】映画を観ました

映画を観ました
それは希望をなくした二人のロードムービー
いつ死んでもいいと思いながら
どこか分からない場所を列車で走る
終点に着いたら今度は車を盗んでまた走る
もしも一人だったら
まだあの町にいて
なんとか暮らしていたかもしれないな
でもあなたがいたからここまで来てしまった
氷みたいに透き通った目をしている
そんな映画を観ました

【詩】あとの二人

100人いたら
90人は同じようにやるだろう
5人は変わり者だと笑われ
3人は金持ちになり
あとの2人は今も行方知れず
あのことを告白するのは
もう少し後にするよ
雨が埃を流した頃
ぬかるみにそっとつける足跡のように
君が私を忘れた頃
その髪をなでる風のように

【詩】海の町の嘘

君の町の海は宝石みたいに輝く緑色で
この町の海は見慣れた灰色
知らない人が人気者になって
すぐに忘れられていった
少しだけ信じていたあの予言が
当たっていた世界のことを考えてみる
「小説は読まない。だって全部嘘だから。」
そう言いながら 私の話はいつも聞いてくれたね
全部嘘かもしれないのに

【詩】今年の春

夢の中で卵を買ったら
全部割れていた
薄着の女の人が同情して
リンゴを一つくれた
懐かしくなんかない
あれからずっと食欲もないし
「気にしなくていいよ」
「誰も悪くないよ」
本当にそうかな
蒲公英の黄色だけじゃ
太陽の代わりにはならなくて
今年の春は嘘みたいに寒かった
君のいる場所は
もっと暖かければいいんだけど

【詩】空ばかり見ていた

いつのまにか月が沈んでいる
ずっと空ばかりを
見ていたはずなのに
春に散るのは桜だけじゃない
夏に死ぬのは蝉だけじゃない
そんな当たり前のことも
忘れていたのと怒られそうだ
金星が駄目になったなら
次は火星でいいよ、とか
言ってしまえるこの世界に
君はがっかりしただろうか
それとも少し眠りたかっただけ?
いつのまにか月が昇っている
私はまだ空ばかり見ている

【詩】青い星の夏

あせらずゆっくりいこうよと
赤く光る星が言う
僕らはもう どろどろと
指先から溶けはじめているのに

はやくあっちへいこうよと
白く光る星が言う
僕らはもう がらがらと
足元から崩れ出しているのに

赤い星の表面温度は三千度
白い星の表面温度は一万度
だってさ

この生ぬるい青い星にも
もうすぐ夏が来る

【詩】猫は迷子にならない

その時、十字路の真ん中に一匹の猫がいて、こちらを見ていることに気づいた。

猫の瞳は不安そうに揺れていて、四本に伸びる道のどこへ行くべきかと、立ち尽くしているように思えた。

「ねえ、見て。あの猫も、道に迷ってしまったのかな。」

僕がそう言うと、彼は呆れたように大袈裟にため息をついてから言った。

「違うよ。猫は迷子にはならない。君と一緒にするなよ?」

【詩】花は何色

絵の具が乾くまでの
ただ待つことしか出来ない時間に考える
君が好きな色は
青と黄色と あと何色だったっけ

ごみだと思って捨てようとしたら
小さな花びらだった
誰にも言ってはいけない気がした

君が好きな色は
白と紫とピンクと
あと一つだけ 思い出せない

【詩】愛の種類

つまらない話に笑わずにいられた時
誰かのためにきちんと嘘をつけた時
いつも君を思い出す
愛の種類なんて
ひとつしかないと思っていたけど
そういえば今日
時計を見た瞬間に
5:55になったんだ
なんの意味もないけど
なんか美しかった

【詩】星と駆け落ち

いつのまに髪を切ったの
全然知らなかったし
君ならあんな服は
着たくないはずだと思っていた
思い出せないことは
思い出せないままにしておきたい
たとえるなら
水星と金星が駆け落ちしたせいで
太陽に一番近くなってしまった地球
嘘のほうがいつも優しくて
それはそれは悲しいけど
忘れものを思い出せた僕は
運が良いのだと思うことにするよ

【詩】皮

彼氏面でも被害者面でも
好きな顔をすればいいよ
化けの皮を剥がすのが好きな人たちと
そのための皮を被っている人たち
新しいカップでコーヒーを飲んだら
驚くほど美味しくなくて
くやしいから世界で一番
幸せそうに生きようと思った
あの頃とは違う風景になっても
土の下には同じものが埋まっている
あの頃とは違う顔をしている
君の瞳に同じ涙

【詩】速い車

赤と白のお祭りの日
私たちはみんな
みずみずしい双葉みたいに
だれの区別もつかなかった
速く走りすぎる車に乗って人々は
置き去りにされたことも知らずにいる
美しい景色が見たかったわけじゃない
ただ自分の足で歩きたかった
誰も知らない向こう岸まで

【詩】見逃してあげる

締め付けない下着
シャンプーの香り
余った太陽の光
私たちはよく似ていると思っていたけど
そうでもなかったみたい
花束を買ってはいけません
ここでアイスを食べないでください
今日だけは見逃してあげます

【詩】転生する魚

子どもが歌っている
大人も歌っている
短いズボンを履いた人も
長いブーツを履いた人も歌っている
君がいなくなってしまう本当の理由は
元の世界に帰らないといけないから
月に帰っていったお姫様みたいに
そうでしょ?
泳ぎ続けなければ死んでしまう魚
死んでしまうあなたと私
流れていつか海に出て
蒸発して雨になって
気づいたらまたひとつの白い波