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#観覧車
「あかりの燈るハロー」第一話
プロローグ ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギ。
ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギィィ……。
やがて、観覧車は完全にその動きをとめ、遊園地にともされたはなやかな電飾も消えると、あたりを静けさが包みこんでいく。
耳をすませば、かすかに聞こえる波の音だけ。
あたしは歌う。
♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック・イファウッドチャック・クッドチャックウッド
♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック
「あかりの燈るハロー」第二話
第一章バイバイ、お母さん。ハロー、ハンデ。
(1)
あたしには最近好きなものができた。
それはメール。といってもケータイのじゃなくてパソコンのメール。あたしが使っているパソコンはとても型式の古いノートパソコンで、起動するのにびっくりするくらい時間がかかる。それによく途中で突然動かなくなってしまうし、書いていたメールが全部なくなってしまうことだってある。
電気屋さんに並んでいる、薄くて格好
「あかりの燈るハロー」第八話
第三章吃音という証明(1)
「茜、おはよう! 今日もよく眠れたかい?」
「……う、うん」
お父さんの声はいつもと同じに元気だったけど、どことなくさみしそうに見えた。
トースターが最近よくお目見えする山型のイギリス食パンを跳ね上げると、その勢いに助けられるようにしてあたしは口を開く。
なにかあったのかな……? と少しだけ心配になったから。
「……お、おおおーお父さんっわっ?」
「お父さん、昨
「あかりの燈るハロー」第十一話
第五章うるさい! うるさい! うるさい!
(1)
学校が終わると、脇目も振らずにまっすぐ家に帰る。お母さんの写真にただいまをして、次にノートパソコンを起動。もちろん朱里にメールするためだ。
Re.ハローワールド
『ただいま! 朱里、今学校から帰ったよ!』
十分もしないうちに朱里から返信メールが届く。
『おかえり、茜! 学校はどうだった?』
こんなふうにやり取りするのが日課になっ
「あかりの燈るハロー」第十三話
第六章レインボー薬局(1)
傾く日差しの中、ジワジワとセミが鳴いている。日中照り付けられたアスファルトには熱がこもり、なにもしていなくてもじんわりと汗が滲んだ。
商店街のアーケードに入るとそこは日陰、いくらか暑さはしのげるけど、湿度のせいかまとわりつく風すら暑苦しく感じる。
今ではほとんど利用されなくなったこの商店街は、いつ来ても閑古鳥が鳴いている。お店のいくつかはすでに閉店していて、おろ
「あかりの燈るハロー」第十四話
レインボー薬局
(2)
Re.ハローワールド
『朱里、ただいま! 今帰ったよ。
薬局のおばさんがすごく親切にしてくれてびっくり。
カバンいっぱい必要なものをもらったよ。
お金は朱里が払ってくれたの?』
ポロン♭
『おかえり、茜!
薬局には無事にたどり着けた?
今では生理用品にもいろいろなタイプがあるはずよ。
自分に一番使い勝手の良いものを見つけるといいわ。
薬局のおばさんか
「あかりの燈るハロー」第十五話
第七章はーい! せんせー。
(1)
夏休みがすぐそこまで迫ってきてるって、セミの鳴き声が教えてくれそうな暑い日の朝、始業チャイムとともに教室に入ってきた安西先生の後ろに、男の子が立っていた。
「おーい、おまえたち座れー。まったく蝉にも負けないくらいうちのクラスは元気だな」
先生はあたしたちを鎮めると、黒板に大きな字で、「古賀篤仁」と書いた。
教室がざわつく。
「静かに! もうすぐ夏休みだけ
「あかりの燈るハロー」第二十五話
お父さんの恋人
(2)
時刻は多分六時過ぎくらい。一刻もはやく家から出ないと、お父さんが仕事から帰ってきてしまうと思ったからだ。行くあてなんてないけど、今はお父さんの顔なんて見たくない。あたしはとりあえず、自宅や役所を避けて国道沿いの道を歩き続けた。
赤く染まり始める空を見ながら、まとわりつく湿った暑さと、いつまでたっても鳴きやまないセミの声にあたしは苛立っている。本当は、そんなことが理由じ
「あかりの燈るハロー」第二十六話
第十三章アカネ・ゴー・ラウンド
(1)
お母さんとの思い出がぐるぐると廻る。にぎやかなデパートの人混みに、夏に向けて心おどるような店内の音楽が戻ってくる。
どうしてひとりで天国へ行ってしまったんだろう? あたしはこんなにもお母さんのことを必要としてるのに、どうしてそばにいてくれないの?
お母さんを思い出すときは、いつだって思い出の中でだけ。いつだって思い返すことができる気がするのに、お母さ
「あかりの燈るハロー」第二十七話
アカネ・ゴー・ラウンド(2)
お母さんは自転車の後ろにあたしを乗せて、軽快にペダルを漕ぎ、魔法の呪文を口ずさむ。
「♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック・イファウッドチャック・クッドチャックウッド?」
「♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック・イファウッドチャック・クッドチャックウッド?」
繰り返し愉しげに唄う自転車は、お母さんとあたしを乗せて夕暮れの街の中を進む。
「ハウマッチ♪ ウッドチ