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「あかりの燈るハロー」完結済み 全31話

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六年生になる茜は、五歳で母を亡くし吃音となった。思い出の早口言葉を歌い今日もひとり図書室へ向かう。特別な目で見られ、友達なんていない――吃音を母への愛の証と捉える茜は治療にも前向…
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#お母さん

「あかりの燈るハロー」第一話

「あかりの燈るハロー」第一話

プロローグ ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギ。
 ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギィィ……。

 やがて、観覧車は完全にその動きをとめ、遊園地にともされたはなやかな電飾も消えると、あたりを静けさが包みこんでいく。

 耳をすませば、かすかに聞こえる波の音だけ。
 あたしは歌う。

 ♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック・イファウッドチャック・クッドチャックウッド
 ♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック

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「あかりの燈るハロー」第三話

「あかりの燈るハロー」第三話

バイバイ、お母さん。ハロー、ハンデ。

(2)

 洗い物をすませると、お父さんと一緒に家を出る。
 お父さんは港区役所に勤める職員で、あたしは西築地小学校の六年生。
 区役所から小学校はほんの目と鼻の先で、なにかあれば、お父さんはいつでもすぐに学校まで飛んでこれる。六年生になった今ではさすがにないけど、四年生になるまでのあたしは、事あるごとにお父さんを呼び出していた。
 もちろん我慢だってする。

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「あかりの燈るハロー」第十九話

「あかりの燈るハロー」第十九話

第九章

ハウマッチ 木、木、木……。
(1)

 昼休みをひとり図書室で過ごす。いくら本を開いても、内容なんて頭に入ってこない。目に飛びこんでくる文字の羅列が、頭の中をむなしく走りまわるだけ。
 楽しくもなければ面白くもおかしくもない。本棚に本を戻すと、なにをするでもなく、ただ椅子に座り続けていた。

 ハハ、ハウマ…ッチウッドウッド、ウ…ウッダダ、ウッドチャクク…チャクチャックイフ、フフ…ファ

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「あかりの燈るハロー」第二十話

「あかりの燈るハロー」第二十話

ハウマッチ 木、木、木……。
(2)

 ポロン♭

『おかえり、茜!
 友だちのことで悩んでいるの?
 あたしが思うに、友だちってきっと鏡のようなものだと思うわ。』

 五分がやけに長く感じた。待っていた時間に比例して、期待が高まってたのかもしれない。メールの文面がそっけなく感じられてすごくさみしい気持ちになる。
 だけど鏡ってどういう意味だろう。同じ姿が映るってこと?
 それとも逆の姿が映るっ

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「あかりの燈るハロー」第二十八話

「あかりの燈るハロー」第二十八話

第十四章# to the world…
(1)

[終業式前日――]

「おーし! みんな、こないだの国語の小テスト返すぞー。後で何人かに六年生としての心構えについて発表してもらうからな。水嶋、これ、黒板に書いてくれるか? 夏休みに入ったら、最初の登校日にペア活動の一環としてファシリテーションをやります。ヘリウムリングっていうフラフープのようなものをだな、みんなで人差し指で持ち上げるんだが、せっか

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「あかりの燈るハロー」第二十九話

「あかりの燈るハロー」第二十九話

# to the world…
(2)

 明後日から夏休み! セミのフルコーラスをBGMにしながら夕ご飯を食べていると、お父さんがいった。
「お母さんの妹の、早苗おばさんに新しい赤ちゃんができてね、もうすぐ出産なので入院するんだ」
「さなっ…さなえ、えー…おばさん? って…えーととながっながの、長野……のっ?」
「そうだよ。茜をびっくりさせたいと思って、内緒にしてたんだけど、夏休みの間、五歳にな

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