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病める時も、健やかなる時も
週3回、それぞれ約4時間、1週間に換算すると約12時間。
どんなに仕事でへとへとでも、同僚の仕事が残っていても、定時で退勤して、血液透析を受けに病院へ行く。
生きるために一生行く。
腕に針を刺して、体内の血液を機械の中で濾過し、再び体内へ戻す。
4時間もの間、彼は眠ったり、片手で残りの仕事をしたり、読書をしたりしているそうだ。
そして私は時々、ラストオーダーが迫る時間に集合してお酒を一緒
月下美人の様なその人を私は一生忘れられないんだろう。
朝。
静寂な部屋で、初対面の彼は私に「綺麗な名前ですね。」と言い、静かに微笑んだ。
目にかかる前髪から覗く伏し目がちな目が見えて、長い睫毛が上品にゆらめく。
その様があまりにも憂いを帯びていて、美しくて、私は次の言葉を発するのを忘れるほどに見惚れていた。
彼の存在はなんだか異質なものだった。
この部屋もこの現実世界も似合わない…
そんな寂しい気持ちにさせた。
柔らかそうなくすんだ茶色の髪、
鈍感になっている。数年前まで自転車で走っている時にみた夕陽を見て涙が出た人間とは我ながら思えない。綺麗だなとは思う。でも、きっと多忙な日常に飲み込まれてすぐに忘れてしまう。そういうことにさえなかなか気づけない。いちいち悲しんだり感動していられなくなったことがとてつもなく悲しい。
コンタクトの度を上げたら、信号の光の輪郭も、葉の葉脈も、地面のでこぼこも鮮明に見えすぎる。あまりにも鮮明で、靄の中にある意識が、自分の手足が、そんな世界に呑まれていってしまう。霧の中に1人、置いていかれてしまう。