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病室の魔法


からだを病んだひとから「トイレ行きたい。」と言われて、「オムツでそのまましていいですよ。」だなんて、私は人として、死んでも言いたくないんだ。

「お風呂に入りたい。もう何日も入っていない。」と言われて「忙しくて人が足りないので、無理です。」なんて言いたくないんだ。

その人から、生活の香りを消す魔法がかかってしまっているだけで、風景がそう見せているだけで、

病室にいて、病衣を着て、さまざまな管が身体に入っている「病人」だけれど、
かつてたしかに私と同じように街で仕事をしたり、ごはんを食べて、ごはんを食べたらあたりまえのように歯を磨いて、毎日お風呂に入って、着替えをして、時には趣味を楽しんで…


めでたく退院となる時、初めて、病衣を脱いでいつもの服に着替えたその人を見たとき、いつも私は、そんなふうに思う。と同時に、「私はこの人を、生活者として見れていただろうか。一瞬でも、病室の魔法に騙されずに、誠実にかかわれていただろうか。」と反省する。



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