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いないしさんがいてくれますように。


ありえないっつーのーーー!と私の中にいる牧野つくしが叫んでいる。
数ヶ月間、ここぞ!というときに撮り溜めていた27枚のフィルム写真はどこへ行ってしまったのか。現像してくれたカメラ屋のお兄さんが、気まずい面持ちで、無のネガフィルムを返してくれた。
ワクワクドキドキしながら、人生2本目となるフィルムを現像に出してみたらこの様だった。
実は前回、記念すべき1本目のときも同じ現象が起きてダメになっていた。
さすがに2連続は悲しくて、「なんででしょうね…」と言葉を失った。保険をかけて写ルンですでも同時進行で撮り溜めていたので、その名の通りちゃんと写ってくれていた写ルンですがせめてもの救いだ。心配性な性格でよかった。

お兄さんは、「新宿のサポートセンターを予約して、そこで相談していただくのが一番の近道かなと思います。」と言った。
心がざわざわした。夜、1人、部屋で心配ごとを考えているときの、ひとりぼっちのあの嫌なざわざわ感だった。

支払いをして、帰ろうと思ったそのとき、お兄さんが「ちょっと…!お時間いいですか?」と引き止めて断りを入れた。
「?はい、大丈夫です、」と言うと
「すいません。これなんですけど、ちょっと気になるところがあって…」と、先輩に相談をし始めた。
雰囲気が柔らかい先輩のおじいさんが、どれどれと裏から出てきた。
おじいさんが、私の惨敗したネガフィルムを見て、微笑みながら言った。

「もしかしたらシャッターの故障かもしれませんね。」

ええ…!?故障…!?まだ、全然使っていないのに…?!

「レンズは何を使ってますか?」「ここの設定は、今は何にしていますか?」「巻いた時に左のレバーが一緒に回りますか?」など、いろいろな可能性を考えて、質問をしてくれるおじいさん。

顔から滝汗が出てくる。
勉強不足すぎておじいさんの質問に全く答えられない。「レンズは。。最初からついていたやつをそのまま買いました。。えっと。。わかりません。。すいませんわかりません。。」
もう恥ずかしすぎて段々声が小さくなってしまう。

おじいさんはそんな "にわかNikonビギナー"の私を前に、終始笑顔で、すべてお見通しかのように「そうですか〜」「そうですよね〜」と私の返事を受け止めてくれた。20分くらい話をしていた。
おじいさんの寄り添いにいつの間にか心を許しつつ、対話を通して行動を振り返ることができ
「そういえば、一度、レバーが引けなくなったことがあったんですけど、そのまま使い続けてしまったんですよね。」などと、些細な引っ掛かりを思い出し始めた。

おじいさんが笑顔で言った。


「このコロナ禍で、旅行とか行けないじゃないですか。それでも、こうやって、フィルムカメラ始めてみようかなって、手にとられたんですよね。料金が無駄になるのも勿論ですけど、それ以上に、あ!ここいいなー!って思わずシャッターを切った瞬間とか景色がね、記憶の中にしか残らないっていうのはもう〜……。本当に悲しいですよ!私も何度か経験ありますからその落胆の気持ちがも〜よくわかるんです。
うちでは修理はできないけれど、修理が必要かどうか?設定が正しいか?など、見せていじらせていただければある程度ジャッジはできます。せっかくですから、前回や今回みたいなことは、はやめに解決して、写真を楽しんでほしいです。私は1人でも多くの人が、カメラにハマってくれるといいなぁと思いながら働いてるんです。私か、後輩(お兄さん)が、基本週末はおりますので、お荷物にならなければ、お時間あれば、次はカメラを持ってぜひ来てください。」


もう…
神なの?

眩しいよー。ホスピタリティの神だよー。

カメラのプロフェッショナルでもあり、時間を割いて心のケアまでしてくれる神を前に、私は眉毛をへの字にして本当にありがとうございます、本当にありがとうございます…!とぺこぺこ頭を下げた。

実は今日まで、カメラ屋さんが少し怖かったのだ。
お世話になっていたお店のお姉さんは、私が初めてNikon Feを手に取ってこれにします!と笑顔でレジに出した時「お客様はめんどくさいの選ぶと思いました〜!」と、ぎりぎり流せるけれど心にささくれのようなものが残るようなジョークを言ったり
フィルムのセットの仕方も理解がついていかない高速スパルタ指導だったり、
今回同様1本目のフィルムが全然撮れていない時もなにかあったら言ってくださいね。と言われた。そのなにかがなんなんだかも、わからないですとは言えず、そのまま「カメラ屋さん=なんだかバカにされるのではないか…」と恐れるようになり、足が遠のいてしまった。
お姉さんは悪くない。あくまでも相性の問題だ。

だから今日、初めて、私の1人ぼっちのよわよわカメラライフに親身になって寄り添ってくれるお兄さんとおじいさんに出会ったこと。
このお2人の寄り添いの姿勢と心遣いは、私にとってはものすごく救いだったのだ。

今日、もしあのときお兄さんが引き止めてくれなかったら。新宿サポートセンター行ってきなという一言で終わっていたら。大袈裟ではなく今日で私はカメラライフを諦めていたと思う。100パー行かないもん。何もわからないから、今日みたく会話できないから、行けないよ。

カメラ、大丈夫かな、という不安はありつつも、「一人でなんとかしなければ」という見えにくい不安を、マスクでほとんど隠れた表情や言葉からくみとって、0円で、今日できる最大限のサポートをしてくれた2人のプロフェッショナルのことを
私は心から尊敬する。
一応私も、彼らのように"寄り添い"や"ケア"が求められる仕事をしているので、その難しさ、奥深さ、繊細さはわかる。だから、完璧なそれに、なおさら尊敬した。


「いつでも来てください。私の名前は、"いないし"と言います。」
おじいさんは笑顔で言った。

不安になった。
次、恵比寿行く時、重たいカメラ持ってくから、絶対に絶対に居てよね。いないしさん。
居なかったらいないし。って小声で呟くからね。


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