恋する気持ちをもう一度。
夜勤明け。夜眠れなくなるから少しだけ眠ろう、太陽ごめんね、おやすみ。起きたときに迎えてくれたのは月だった。5月が去り6月になっていた。5月の月曜の日没~20時の間にしか見ることのできない、水色に光る東京タワーがついに見れなかった。2Lの水のストックが切れたのにスーパー閉まっちゃった。ゴミ箱にビニル袋を被せなきゃ。お風呂に入らなきゃ…
5月最終日を寝つぶした罪悪感の中、深夜、都内のワンルームでひとり、twitterをぼーっと眺めていると「西野カナ サブスク全曲解禁!」という字と、なんとも可愛らしい動画が流れてきた。
西野カナさんか~。以前サブスクで見かけたのはあれでも一部だったのか。懐かしい、昔聴いていたけれど最近は全然聴いていないなぁ。
私は名前に「音」という漢字が含まれているのだが、恥ずかしいくらいに音楽に関してはド素人である。そんな私は最初メロディーに惹かれて曲を好きになることが比較的多い。ダークだったり儚かったり現実的な歌詞と、ポップで爽やかな曲調とのギャップに惹かれる傾向がある。最近は、マカロニえんぴつやSEKAI NO OWARIの曲をよく聴いていた。
そして西野カナさんのツイートの「#恋する気持ちをもう一度」というハッシュタグが目に留まった。暗いニュースが溢れる画面の中で、なんとも健気で可愛らしい、素敵なキャッチコピーだなあと心惹かれた。
少しドキドキしながら、applemusicを開いて西野カナ、と検索する。おお…!「LOVE one.」「to Love」「Thank you,Love」…アルバムのジャケット写真を見て、思い出した。嵐オタクをしていた中学の頃、母親に「どうしてもTSUTAYAに連れて行ってほしい」と懇願し、地元のTSUTAYAで嵐のCDを借りた。そしてどうしてか、これらのアルバムたちも一緒に借りたことを。
懐かしい「LOVE one.」から聴いてみることにした。
完全に軽いノリで再生した。
”遠くても(feat.WISE)”のイントロを聴き始めたあたりから、なんともいえない感情に襲われた。
”12時ちょうどに届いたメッセージ 付き合って半年だねって たった3行、ハートひとつでも嬉しすぎて”
う…うわあああああ
やめてくれー!!!!
忘れきっていた、いや、忘れようとかなり頑張って忘れた、高校2年の時の恋愛の記憶が蘇った。もう7年前だというのに。
当時付き合っていた男の子のことが、あー本当に自分はどうしてしまったんだろうというくらいに好きだったのだ。片思いで十分だと思っていたのにある時抑えられなくて、行事の勢いに力を借りて自分から「写真を撮ってもらえませんか…」と話しかけてしまったときは顔から火が出るかと思ったし、初めて一緒に帰った日は緊張で気がおかしくなりそうだったし、告白された日は信じられなくて半信半疑で帰宅した。とにかく気持ち悪いくらい、どうしようもなく好きだった。
毎日一生懸命恋をしていた。
西野カナさんは、私よりもお姉さんだ。そっけない連絡の中にあるハートマークでいちいち安心したり、いちいち舞い上がってしまう、自分のそういう感情にも戸惑ってしまう幼い私の心は、既にお見通しのようだった。けれど、そんな私の気持ちをからかわずにひたすら寄り添ってくれた。芯の強さを感じる歌声に、大丈夫だよ、頑張れ、と、背中を押される気持ちになった。
時が経って「まだ好きだけど別れたい。」とメッセージが届いた。思考が停止した。片方が好きすぎるのがよくないことはわかっていて、いつかそんな日が来る予感はあった。あったけれど、いざその時が来てみたら想像以上の痛みだった。泣きながら朝ご飯を食べて、なんとか登校して、友達におはようと言われた瞬間、初めて友達の前で取り乱して泣いた。
クラスが違う私たちは、水曜日だけ校門の前で待ち合わせて一緒に帰るのが約束だった。水曜日が楽しみだった。
水曜日の帰り道、私は久しぶりに一人で同じ道を歩いた。イヤホンを着けた。
”いつだって早歩きのキミを 追いかけたり隠れてみたり”
”いつもの道も待ち合わせの駅も明日からはもうキミはいないんだね”
西野カナさんの「Still love you」という曲だった。寂しくて心臓が張り裂けそうな行き場のない気持ちに寄り添ってくれる大切な曲だった。何度も何度も再生して、容赦なく来る水曜日を乗り越えた。
今回のサブスク全曲解禁で久しぶりに「Still love you」に再会する。
”いつだって早歩きのキミを追いかけたり隠れてみたり…”
手が止まり、突然胸が苦しくなった。あれ、この歌詞知ってるけれど、なんだろう…どうしてこんなに切なくて痛いんだろう。暫くこの曲のことを思い出せずにいた。そしてじわじわと、当時の帰り道の光景を思い出す。全然完璧に思い出せないことが少し悲しかったけれど、なんだかそれさえも愛おしく思えて笑った。
ツイートのキャッチコピーの通りだった。西野カナさんの、華やかで煌めき溢れる楽曲に乗って、私は一生懸命恋をしていたあの頃の気持ちにタイムスリップしてしまった。
そしてかつて誰かを一生懸命大切に想い、想われたという記憶に、勇気づけられた。
西野カナさんの楽曲は、恋する私にいつも寄り添って、一緒に闘ってくれていたのだ。
Twitterには、私と同じように、まんまと「恋する気持ちをもう一度」してしまい、眠れなくなっている女の子が沢山いた。きっと数えきれないほど沢山の女の子たちが、西野カナさんの楽曲と共に、数えきれない恋を頑張ってきたのだろう。なんて素敵なことだと思った。恋ってこんなにも素晴らしいものだったんだね。
最近、一周回って、無駄の無いストレートな曲が心を突き刺してくる。
そんな私も24歳だ。
現在の私の気持ちは、西野カナさんの「25」という楽曲の中ですでに歌われていた。さすがだ。敵わないと思った。
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