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30秒で読める小説 / 古今東西の「愛してる」

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古今東西の「愛してる」シリーズをまとめています。
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#カップル

古今東西の「愛してる」:小学生

古今東西の「愛してる」:小学生

小学生の頃は、
足が速いだとか、
勉強ができるだとか、
おもしろいってだけで、
その人の事を好きになれたのに。

一体いつから、こんなに難しいものに変わっちゃったんだろう。

近所迷惑になるぐらいの口論を終えた部屋には、彼が倒したグラスの破片が光っている。

「愛してる。」が欲しかっただけなのに。

===後記===

恋愛はいつから、難しくなっていくのだろう。

古今東西の「愛してる」:鉄柵

古今東西の「愛してる」:鉄柵

「ああ、ヨハン。どうしてあなたはヨハンなの…」
「…」
「愛してる」

この想いを嘲笑うかのように、立ちはだかる鉄柵。

隙間から覗き見る2つの目と2つの目には、それぞれ涙と悔しさが溢れている。

そんなやり取りが行われているとも知らない幼稚園児たちは、この檻の中のトラとライオンに興味津津だ。

===後記===

恋をするのは、人間だけの特権ではない。

とすればきっと、人間と同じような悲劇も、

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古今東西の「愛してる」:掃除

古今東西の「愛してる」:掃除

掃除をしていたら、昔の携帯が出てきた。
懐かしい起動音。

メールボックスにはあの頃が詰まっていて、
当時の彼女とのやり取りは、青春でできていた。

「私のこと好き?」
「うん」
「ちゃんと言って」
「愛してる」

だって。

「何してるの?」

妻が二階から降りてきた。

===後記===

懐かしいものを見ると、その当時の思い出が蘇る、あの感覚。

ガラケーのメールボックスなんて、その究極系で

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古今東西の「愛してる」:賽の目

古今東西の「愛してる」:賽の目

久しぶりに手にした包丁で、玉ねぎを切る。

ザクザクという音色と一緒に、賽の目状になっていくそれらを眺めながら、頭の中に映像が蘇る。

あの時も、こんな感じで台所に立っていて、後ろではB級映画を観てたな。あいつが。

「愛してる」

B級役者の言い回しほど、勘に触るものは無い。

あー。涙でてきた。

===後記===
なんでもない瞬間に、かけがえのなかった瞬間がフラッシュバック。

☆このシリー

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古今東西の「愛してる」:2114年

古今東西の「愛してる」:2114年

夜ベッドに入り、枕元にあるスイッチを押すと、目の前に半透明の画面が現れる。

彼の名前に触れて数秒。

頭の中に、彼の声が現れる。

「...おはよう」
「何いってんの、もう夜よ」

なんて、いつものやり取りが始まる。

「愛してる」
「私もよ。それじゃあ、おやすみなさい」

一日の中で、この時間が一番だ。

===後記===
手紙がメールに変わり、メールがLINEに変わったように、想いを伝え

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古今東西の「愛してる」:電車

残業で疲れた私を待っていたのは、
酒の匂いが充満した山手線。

席に座ると、隣の女の子が
スマホでドラマを見ている。

あ、これ元カレが好きだったやつだ。

「愛してる」

小さな画面の中で、綺麗な女優がそう呟いた。
音は聞こえないが、記憶が教えてくれる。

頭が痛くなってきたのは、
酒の匂いのせいだろう。

===後記===

最近はもう、電車に乗るとみんなスマホを覗き込んでいる。

一昔前は、

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古今東西の「愛してる」:筆談

古今東西の「愛してる」:筆談

どんどん便利になっていく。
彼女もそう思っているはずだ。

僕らの会話はいつも、携帯のメモ帳で繰り広げられる。
僕が入力し、彼女が入力し、二人で読んで笑う。
それをお風呂でもできるんだから、幸せ以外の何物でもない。

「愛してる」

寝る前に見せてきたその4文字は、
なんだか照れてるようにも見えた。

===後記===

「時代は5G」だとか「AI」だとか、どんどんテクノロジーは進化していくみたい

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古今東西の「愛してる」:信号

古今東西の「愛してる」:信号

親友の結婚式の二次会終わり。

人もまばらになったアスファルトの上、
後ろから声をかけてきたのは昔の恋人。

目の前の歩行者信号が点滅する。
まるで、私の心臓のようなリズムで。

10年前の帰り道、上京を切り出された
鈍色の情景がフラッシュバックする。

「愛してる」

信号が赤に変わる。

☆このシリーズの詳細はこちら

古今東西の「愛してる」:真剣勝負

古今東西の「愛してる」:真剣勝負

恋愛とは常に1対1である。

相手との真剣勝負、油断は許されない。

気を抜けばそっぽを向かれる。

外野、ギャラリーはもちろんいる。

野次も飛び交うだろう。

でもそれはあくまでリングの外での出来事。

勝負はここで起きているのだ。

渾身の「愛してる」が、空を切ること無く、相手の心を掴み続けるまで。

古今東西の「愛してる」:遠恋

古今東西の「愛してる」:遠恋

こないだは本当に楽しかった。

きれいな夜景を見ながら、振る舞ってくれたごちそうの数々。

いつもこんな作ってるって、さては女ができたか?

そんなこと気にしちゃう。

わたし、意外と乙女だからさ。

でも別れ際の「愛してる」は反則だと思うな、彦星。

また一年我慢するの、大変じゃんか。

待ち遠しいなあ。

===後記===

究極の遠距離恋愛実践者、織姫と彦星。

彼女らのことを思えば、人類の

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古今東西の「愛してる」:昼過ぎの教室で

古今東西の「愛してる」:昼過ぎの教室で

小太りの男性教師が、黒板に数式を書いている。

男しかいないのこの教室で、何人が真面目に見ているんだろう。

そんなことを思いながら、前方に座る彼氏に視線が行く。

「愛してる」

昨夜の、デートと言うにはお粗末な時に彼は言った。

僕らは、紙切れ一枚で認められる関係よりも、強い何かで結ばれている。

===後記===

自分の学生時代を思い返すと、こういった感情を抱いている子はいなかったように思

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古今東西の「愛してる」:31歳の同窓会

古今東西の「愛してる」:31歳の同窓会

31歳という繊細な時期に催された高校の同窓会。

みんな久しぶり過ぎて、初対面と知り合いの中間ぐらいだ。

そんな中見つけた昔の彼氏。

「久しぶり」

と話しかけてくるその表情には、一流商社マンの矜持が滲み出ている。\

上質なスーツと光る指輪。

「愛してる」

と言う彼をフッた当時の私、殴り飛ばしたい。

===後記===

あの時ああしておけば...といったタラレバな話は、何歳になってもつ

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古今東西の「愛してる」:漫画

古今東西の「愛してる」:漫画

最初に思ったのは

「こんな漫画みたいなのあるわけない」

だ。

朝学校へ向かう時、曲がり角で女子高生とぶつかった。

「気をつけてよ!」

その勝ち気な子は転校生で、隣の席で、

いつしか「彼女になったげる」と言われ、

いま目の前で白いドレスを纏っている。

「愛してる」

こんな漫画みたいなのあるわけない。

===後記===

こんな漫画みたいなの、経験してみたかった...

経験したこ

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古今東西の「愛してる」:酔っぱらい

古今東西の「愛してる」:酔っぱらい

酔っぱらいが苦手だ。

酒が飲めないからではなく、あの強引なノリが苦手だ。

昔、私以外がベロベロに酔ってる飲み会で、一緒に飲んでた彼女に愛の告白をさせられた。

「愛してる」

「それだけ?」

彼女の冷静さに驚く。

「...ので、結婚してください」

あの時本当に酔ってたのか、今も妻に聞けずにいる。

===後記===

「酒の失敗談」は、巷に数多くある。

が、実はそれと同じくらい「酒の成

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