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2022年5月の記事一覧
特別な存在になれなくても
昔は特別な人間になりたいと思っていた。特殊能力を持つとか、そういった類のものではない。やりたいことがうまくいくとか、好きなときに美味しい食べ物を自由に食べる暮らしができるとか、恋愛で失敗しないとか、会社員でうまくやっていくとかとかそういった類の特別である。
社会人になって、自分ならできると息巻いてみせたはじめての仕事はうまくいかなかったし、この仕事ならうまくできそうと思って、新たに挑戦した仕事も
「鍵の閉まる音」/都心で暮らす女性の細やかな感情の機微と、その切ない想いを綴った作品。
鍵の閉まる音
「ねえ、私たち付き合ってるのかな?」
このアパートで一人暮らしを始めてから
この言葉を何度言っただろう。
だいたいこちらが期待している答えは返ってこない。
こちらが質問したのに質問で返ってくる。
「付き合うって何?」
「そう言うこと気にするタイプ?」
ああ、聞くんじゃなかった。
そして、いつもよりよそよそしくなって
そんなに早く出かける用事もないくせに
「俺先出るわ」