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短編小説 まとめ

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短編小説のまとめです。
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文字で繋がる【秋ピリカグランプリ2024】

文字で繋がる【秋ピリカグランプリ2024】

神社に向かえば、お願い事をする。
お賽銭箱に、小銭や紙幣を入れて鈴を鳴らし、心の中でお願い事をする。

けれど、ここの神社は少し違う。

お賽銭箱はあるけれど、そこに入れるのは小銭や紙幣ではなく『願いを書いた紙』なのだ。

他の神社で言う「絵馬」みたいなものだろうか。

この願いの紙は、神社に入ってすぐの所に置いてあり、そこで参拝者の面々は願い事を書いてお参りへ向かう。

それでも神社を維持してい

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感情の濃度 1412文字#青ブラ文学部

感情の濃度 1412文字#青ブラ文学部

正直に言えば、彼が告白してくれた時、私の恋心はそんなに芽吹いてはおらず、濃度としても薄く、例えるなら、彼の告白から絵の具が1滴垂らされ広がろうとしている感じだった。

そして、種も蒔かれ、水を貰ったばかりの様な感覚だった。

けれど、今はどうだろう。

私は、告白をしてくれた彼よりも彼の事を好きになり、慕う様になったと思う。

「雪斗……もう寝る?眠い?」

ベッドに座っている雪斗に話しかける。

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疾走っていく 2082文字#シロクマ文芸部

疾走っていく 2082文字#シロクマ文芸部

風の色は、透明だけど、風(ふう)の色は、透き通った水色だな。

青葉は、そう言った。

🧢🧢🧢
「青葉〜っ!学校行くぞ〜っ!!」

朝早く、小学校からの同級生『柳城 青葉(やなしろ あおば)』を迎えに来た。

青葉の両親である「匠海さん」と「若葉さん」は、こうやって俺が訊ねてくる事にはもう慣れっこで、「朝ごはん居る?」とか「野球は順調か?」なんて聞いてきてくれる。

申し遅れましたが、俺は『

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筆に乗せるは、己が魂 1437文字#青ブラ文学部

筆に乗せるは、己が魂 1437文字#青ブラ文学部

お師匠様の筆には、力がある。

お師匠様が一筆書いた言葉は、まるで『魔法の言葉』の様に大きな力を持ち、そして、言魂(ことだま)となって、待ち人の元へとやって来る。

❁❁❁
台所から、鰹を削る音がする。
魚を焼く香ばしい匂いも漂っていて、まな板の上には、これから味噌汁の具材になるであろう食材が出番を待っている。

「うん。これくらいかな?」

削った鰹節を小鍋の中に入れて出汁を取っていく。グツグツ

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相思相愛【妬いてるの?】1970文字#青ブラ文学部

相思相愛【妬いてるの?】1970文字#青ブラ文学部

大昔の話。

ある国に王女がいた。

彼女の側には、いつも彼女の婚約者が側にいて、結婚してからも、彼女が女王に即位してからも、2人はずっと一緒に居たそうだ。

そんな…2人の話。

🏵️🏵️🏵️
「リンカ〜おはよう」

柔らかいクリーム色の髪を小さくなびかせ、色男が愛する人の名を呼ぶ。

「ハルバ…おはよう」

呼ばれた彼女は静かに振り向き、彼の名を呼んで返事をする。

王女である彼女は黒髪

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食するモノ1898文字【妬いてるの?】#青ブラ文学部

食するモノ1898文字【妬いてるの?】#青ブラ文学部

『妬いてるの?』

『ううん。』

いちいち聞かないで。

『そっか、奈津菜(なづな)は良くわかってるよね』

……わかってる訳ないじゃない。

妬いてるに決まってるでしょ?
私だって…ひとりの人間で
貴方に恋をした女性だ。

妬いてるに決まってるでしょ。

妬いて…

妬いて…

私は壊れた。

★★★
「ふ〜ん、ふふふん、ふ〜ん」

彼の姿は、通りを歩いている人には見えない。正確には見えていた

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小夏とうざったい奴 955文字【短編小説】

小夏とうざったい奴 955文字【短編小説】

子猫を拾ったら、そいつはとても可愛かった。

メスの三毛猫で、名前は「小夏」

真夏に拾った子猫だから、小夏だ。

けれど…俺が拾ったのは小夏だけではなかった。

「彰(あきら)君!お弁当作ってきたよっ!」

「💢いらない」

「あっ!ねえ、彰君っ!」

小夏を拾った時は、真夏だったからと言ったけれど、その時は雨が降っていた。

よく聞く?不良が雨の中、捨てられた猫を拾う姿にトキメクとかいうやつ

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はじめて切なさを覚えた日 1587文字#青ブラ文学部

はじめて切なさを覚えた日 1587文字#青ブラ文学部

「……どうした?」

「ううんうん……何でもない」

◈◈◈◈

男女の友情は成立する?しない?

もはや不毛な質問のやり取りだと私は思うけれど、それで話のタネが膨らみ、会話が盛り上がるなら、不毛なやり取りも役に立つのかな?とは思うようになった。

「美晴ーー!!待たせたーー!!」

白いロードスターに乗った彼は、少し遅れて待ち合わせ場所にやって来た。

「平気。そんな待ってない」

彼こと、輪島

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鈍いの、私は【女の第六感】1439文字#青ブラ文学部

鈍いの、私は【女の第六感】1439文字#青ブラ文学部

『第六感』→五感に加えてもう一つ持っている六番目の感覚と言われているもの。「直感」や「勘」時には「霊感」などとも言われる。

「ないな、私には」

私、三枝 麻里奈(さえぐさ まりな)は、昔から『鈍感』『鈍感』と言われて育ってきた。そんなに鈍感?と私自信は思うけれど、「ねえ?何かここ空気悪くない?」とか「あ、雨降りそう」とか言われても「えっ?そう?」なんて具合の鈍感さではある。

けれど、そんな私

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またねの代わりに【夏の残り火】

またねの代わりに【夏の残り火】

「うわっ、つめてっ!!」

「ちょっと、水飛沫が飛んでるっ!!」

「あははっ!良いじゃん!気持ちいいっしょ?」

私と彼は、夜の海に来ている。
夏も終わりに近付いているせいか、気温は夜になると涼しくなる様になってきた。

彼は、私の大学の頃の同級生。

名前は『佐原 直光(さはら なおみつ)』私は『柴原 雫(しはら しずく)』同級生という共通点だけだったが、段々と仲良くなっていき、お互いを名前で

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移りゆく景色の中で 【おフランスでは、〇〇ざんす】1046文字#青ブラ文学部

移りゆく景色の中で 【おフランスでは、〇〇ざんす】1046文字#青ブラ文学部

『おフランスでは、お紅茶を頂いて飲む事が私の中での恒例なんざんす』

夜行バスに乗りながら、マダムなセレブタレントの言葉をイヤホン越しに聞く。

あっ、そ。以外の感想は特になく、そんなのいちいち言わなくても良いのに…。

なんて、1人で思ったりする。

夜行バスは、もう少しで消灯時間になる。ゆったりした座席になっている夜行バスは、カーテンを引けば、まるで個室の様に感じる作りのバスだ。

俺は、大都

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忘れっぽい詩の神 1265文字#青ブラ文学部

忘れっぽい詩の神 1265文字#青ブラ文学部

手を伸ばしても
届かないまま
手は空を切り続ける。

迷ったぶんだけ
爪は伸び、
その長さが月日の長さと比例する

伸ばし続ける訳にもいかないから
爪は短くまた切るけれど、
それでも爪は
また伸びる

戸惑いのぶんだけ
伸びて伸びて

月日の長さと
惑いの日々を思う

★★★
『うん。なかなか良いんじゃない?』

「アポロン様…その詩のご依頼、何年前のものですか?」

「………う〜〜〜〜ん。100

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にゃんとなくなんだけどね 806文字#青ブラ文学部

にゃんとなくなんだけどね 806文字#青ブラ文学部

私。ねこ。

普段は公園に住んでいて、人間界で言う所の『地域猫』な私。

ボランティアさんから毎日決まった時間にご飯を貰ったり、私が目を気にしていたり、具合が悪そうだったらボランティアさんが病院に連れてってくれて、元気になるまでお世話をしてくれるの!

私は、そんな優しいボランティアさんが大好き。優しくお世話してくれるし、ナデナデしてくれるし、適度に放っておいてくれるから、とても心地が良いの。

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私だけの特権 964文字#シロクマ文芸部

私だけの特権 964文字#シロクマ文芸部

夏は夜明けが早いから、遅く寝てしまっても薄いカーテンからのぞく日差しが目覚ましとなって起きてしまう。

「………っ〜〜、まだ4時間しか寝てないんだけど…………」

昨日は生理前特有の不眠に悩まされ、夜は全然眠くならず、色々足掻いて見たけれど全部駄目だった。

今日は休みだけれど、ウダウダしてしまいそうな気がする。

………寝不足だから………。

スースー。

テーブルを挟んだ隣のベッドからは、同棲

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