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筆に乗せるは、己が魂 1437文字#青ブラ文学部

お師匠様の筆には、力がある。

お師匠様が一筆書いた言葉は、まるで『魔法の言葉』の様に大きな力を持ち、そして、言魂(ことだま)となって、待ち人の元へとやって来る。

❁❁❁
台所から、鰹を削る音がする。
魚を焼く香ばしい匂いも漂っていて、まな板の上には、これから味噌汁の具材になるであろう食材が出番を待っている。

「うん。これくらいかな?」

削った鰹節を小鍋の中に入れて出汁を取っていく。グツグツ煮出されていく鰹節の出汁の匂いが台所、そして家の中へと広がっていく。


「………あげは〜、とても良い匂いがする。」

「お師匠様っ!おはようございます!」

まだ寝ぼけ眼な目をして台所へやってきたのは、代々書道家として書道界を牽引する『花京院家』の17代目。

花京院 右京(かきょういん うきょう)

まだ若干24歳でありながら、当主としてこの家を守っている。

そして、そんな右京を「お師匠様」と慕うのは、右京の弟子であり、身の回りの世話をしている「あげは」(男)だ。

「今日は、朝、庭で採れた新鮮な茄子をお味噌汁に入れますからねっ!」

「うん。美味しそうだ」

朝ごはんが出来るまでを右京は見守り、あげはと一緒に朝ごはんを食べる居間へと運んでいく。

焼き魚と味噌汁の匂いが、食欲を掻き立てる。

『いただきます』

他愛のない話をしながら、二人は朝食を平らげていく。

「お師匠様。今日買い物へ行くのですが、何か必要なものはありますか?」

「う〜ん。……いや、特にはないよ。ありがとう」

「書道のご依頼のものをしている間に、何か食べられるものとかは必要ないですか?」

「うん。必要なものはないけれど………」

「けれど………なんですか?」

「………あげはが作ったプリンは…食べたい…かな……」

「…………っ!…承知しました。お師匠様がご依頼のものをしている間に、作っておきますね」

「うん。ありがとう、楽しみにしているよ」

「はいっ!」

❁❁❁
右京は、朝食の片付けをあげはに任せ、書道する和室へと向かう。

自分に書を書いてほしいと言う依頼をこなす為だ。右京自身、書道は生まれた時から1番身近にあった好きなもの。

それを今は亡き両親から手取り足取り教わり、若くして頭角を表せる様になり、花京院家の跡取りとしても周りに兎や角言われる事はなくなった。

そんな花京院家の血を受け継ぐ者には、何故か不思議な力があり、書く書には魂が宿ると言われ、書に書いた文字や願いが現実になってくるという。

「……本当に……そんな事あるのかね〜」

けれど、現にそうなっている。

『魔法の言葉』なんて言われているが、周りの買いかぶりなのではないかと右京は思ってはいる。けれど、書道を習った両親からは『書く文字に真摯に、思いを込め、文字に自分の思いを写せ』と言われて来た。

子供の頃は、その意味がよく分からなかったものの、大人になった今では理解出来る。

「書く文字に真摯に、文字に自分の思いを写せ……」

きっと、この気持ちが『魔法の言葉』の源になっているのだろう。けれど、それが原因かどうかはわからないものの、依頼された書を書き終わると、いつも物凄い疲労感に襲われ、2.3日は布団から起き上がる事が出来ない。

けれど、依頼主から対価を貰っている以上、中途半端な事は出来ないし、してはいけない。

「………俺の書で、誰かの先が、照らされるなら………」

右京は、硯にすっておいた墨を筆につけ、広げていた半紙の上に、依頼された文字を書いていく。

1枚、1枚、心を込めて。思いを込めて。



魂を込めて。


筆に乗せるは、己が魂。なのだから。


〜終〜

こちらの企画に参加させて頂きました。

山根あきらさん
私自身にもっと深い事が書ける頭脳があれば、もっと話は広がりそうですが、ここまででした💦

けれど、依頼主は、イイ人ばかりではなく、呪いの様なものを依頼してくる方も右京の元へとやってくるのだろうな…。

なんて思いながら、書きました。

よろしくお願いします。

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