ヨルシカの『夏草が邪魔をする』について考えたこと

ヨルシカさんの『夏草が邪魔をする』というアルバム名について考察したことです。
『エルマ』『盗作』の初回版などの内容にも触れていて、ネタバレがあるのでご注意下さい。

夏草が邪魔をする=夏草がお邪魔する
とすると、松尾芭蕉の俳句「夏草や兵どもが夢の跡」に関連付けられると思いました。
兵どもの夢の跡に、夏草がお邪魔した(生えてきた)と。

エルマの日記帳に、与謝蕪村が松尾芭蕉に憧れていたという話、蕉風回帰の話が出てきます。
なので、ノーチラスの歌詞「夏草が邪魔をする」は芭蕉の「夏草や兵どもが夢の跡」を踏まえてるように思います。
かつての(前世の?)君と過ごした場所には、今はもう夏草が広がるばかりなのかなと。

松尾芭蕉=まつばしょ=待つ場所 とすると、
(エイミーやエルマの)待つ場所を夏草が邪魔してるとも思えます。
バス停は、バスを待つ場所ですし。

『ただ君に晴れ』では、
「君のいこふ(憩う)記憶に夏野の石」=「バス停の背を覗けば あの夏の君が頭にいる」
つまり夏野の石(=バス停)で君が休憩してる、と取れます。
バス停(まつばしょ=松尾芭蕉)の夏草が、
二人の想い出(兵どもの日々)の邪魔をする、夢の跡にするのかなと。

与謝蕪村の芭蕉への憧れ、蕉風回帰を踏まえて
夏草=芭蕉の句 とすると、
あるものに強く影響を受け、どうしても模倣してしまう事を「夏草が邪魔をする」と言ってるように思えます。
エルマにとってのエイミーも、そんな憧れの対象だったのかもしれません。

靴の花火の「君を映す目が邪魔だ」も、
どうしても君ばかりを目に映してしまう、君に強く惹かれてしまう
という意味なのかなと。

何度も夏の曲を作るナブナさんもまた、
夏の情景(夏草)に強く影響を受け、夏を模倣し続けてるのかもと思います。


『盗作』の小説に引用された句
「うちとけて一輪草の中にいる」
を作った古舘曹人さんは、俳句雑誌『夏草』を終刊させた方だそうです。
一輪草は春に咲く花ですが、夏にも咲く花(一夏草という別名から)だと盗作おじさんの妻は言います。
一輪草(一夏草)を見る度、一夏草を夏の花だと言っていた妻が頭をよぎるから、「夏草が邪魔をする」なのかなと思います。


邪魔→じゃま→パジャマ
とすると
夏草が邪魔をする→夏草の中でパジャマ→夏草の中で眠る
と取れます。
ノーチラスでの「夏草が邪魔をする」は、
エルマとエイミーが夏の野原で眠ってる場面に思えました。
『盗作』小説の、「うちとけて一輪草の中にいる」の場面に似ています。

ノーチラスの少し前の歌詞に「二人で行こうって言うんだ」とあります。
行こうとした二人を夏草が眠りに誘い、邪魔したのかなと。
エイミーは夏に永眠し、
エルマは目を覚まして夏の先へ行くという。
「夏草や兵どもが夢の跡」は夏草が夢の跡を見せた、とも取れます。
エルマは夏草に、眠るエイミーの夢を見たのかもしれません。



「夏草が邪魔をする」の草をネットスラングの草(笑いの意味)とすると
ニコニコの動画が「草」「www」等のコメントで覆われるのを「夏草が邪魔をする」と表現してるようにも取れます。

エイミーは、誰にも知られずずっと一人で物語を描き続けたヘンリーダーガーを、創作家のあるべき姿だと語ります。
誰にも知られない場所(草の生えない場所)に、エイミーは居たかったのかもしれません。

「夏草が邪魔をする」を作中の用語ではなく、現実の人へ向けた言葉とすると
夏草(ネットの草)を邪魔に思う≒ネットの外へ行こうとする
と取れて、
ニコニコやボカロから少し離れ、ヨルシカとして活動する事についての説明
だと思えます。
ヨルシカとしての最初のアルバム名なので、あり得る気がしました。

現時点でニコニコ動画に投稿された最後の曲であるノーチラスの「夏草が邪魔をする」という歌詞が、
ニコニコ動画という場への挨拶みたいで良いなと思います。


「夏草や兵どもが夢の跡」を現代風にすると
草のコメントだけが残るインターネットに、かつての強者達の夢を見た
となる気がします。

ここまでの考えを踏まえ、
一輪草=夏草=ネットの草
とすると、
「うちとけて一輪草の中にいる」は、
うちとけて笑い合っている(草生やしてる)、とも取れそうです。


夏草=夏の雑草 とすると
雑草(夏草)が邪魔してるのかなと。
人工的に作った道路で、人は雑草を邪魔扱いしますが、
自然界にとっては、人工物のほうが環境を乱す邪魔な物です。
雑草(夏草)を邪魔だから抜くという行為は、
生きる為に命を奪うという意味で、靴の花火やヨダカに繋がるのかなと。


『夏草が邪魔をする』は、冬虫夏草も意識してる気がしました。
冬虫夏草は生き物に寄生するキノコの一種で、輪廻転生の象徴らしいです。
君との想い出が頭にこびりつく事を、キノコ(夏草)が寄生したと取って、『夏草が邪魔をする』なのかなと。
冬眠(曲)の「夏を待って 深い眠りが覚めた頃に 水になって 花になって」も、
冬虫夏草っぽさを感じます。


夏を懐かしいの「なつ」
草を腐れ縁の「くさ」とすると、
夏草が邪魔をするは、懐かしい縁、想い出が邪魔していると思えます。

「邪魔」は元は仏教語で、仏道修行を妨げる悪魔の事らしいです。
夏草=夏の想い出 と取ると
想い出が悟りの邪魔をし、輪廻転生させてるのかなと。
悟り=涅槃 とすると、
悟りは輪廻からの解放を意味しますし。
(仏教に詳しくないので間違ってるかもしれません)

『靴の花火』の「君を映す目が邪魔だ」は、
君への未練が空へ飛行する事(涅槃)を妨げ、落下させた(転生させた)と思えます。
ヨダカのような星にはなれず、転生するのかなと。

ノーチラスの歌詞に「夏草が邪魔をする」とあり、
エイミーは「生まれ変わってでも僕は君に会いに行かないと駄目だ」と月光DVDで言います。
エルマとの夏の想い出(夏草)が、エイミーの成仏を邪魔したのかなと。

夏草が邪魔をする=写真に雑草が写りこむ=完璧な作品にならず、人間的なノイズが入る と取ると、
人間である限り完璧な作品は創れないから、ずっと満足できずに創作し続ける、
邪魔が涅槃を妨げ輪廻転生させるように、創作を続けるのかなと思いました。
人生=作品(音楽) みたいな歌詞がヨルシカには多いので、
輪廻転生=新しい次の作品を創ること とも取れる気がします。

邪魔=魔法 とすると、
レプリカントの「それはきっと魔法だから」に繋がります。
夏草が邪魔をした記憶は、酷く青い空みたいな魔法で、冷たくなって年老いた最後に残る、レプリカじゃない物なのだと思いました。

夏草が邪魔をする→夏草を纏う→草纏そうまとう→走馬燈そうまとう とも取れます。


「青」という漢字の上部分は草木の象形らしいです。
下部分は「月」に似ていて、月を夏草が邪魔したら「青」になるのかなと。
「月日」を草が邪魔すると「晴」になります。

「青」の上部分の元の字形は「生」(生は草木が芽生える姿の象形)なので、
「月日を生きる」と書いて「晴」とも思えます。
『ただ君に晴れ』は、ただ君に月日を生きていてほしかったのかなと。
英題Cloudlessは『雲と幽霊』じゃない、幽霊を気にして曇らないでほしいと取れる気がしました。


エイミー(曲)「想像力が君をなぞっている あの夏にずっと君がいる」は、
想像力=草々緑そうそうりょく で『夏草が邪魔をする』に繋がるのかなと。
老人と海「想像力という重力の向こうへ」は邪魔な夏草から抜け出すとか。


以上です。
お読みいただきありがとうございました。

この記事が参加している募集

夏の思い出