#シロクマ文芸部
りんごのつぶやき(シロクマ文芸部)【ショートショート】
今回はこちらのスピンオフ作品になります↓
りんご箱から鈍色の空を見上げて僕はみゃぁ~と鳴き、まだ柔らかい爪でカリカリと箱底をひっかきました。
箱が深くて小さな僕は外に出られないのです。
何度かこちらを覗く人の顔がちらりと見えたけど僕と目が合うと困った顔をして去っていきました。
ぽつりぽつりと冷たいものが顔を濡らし始めたころ、ある人が僕を拾いあげました。
「寒かったね、大丈夫かい」
彼はし
最強オカンと繊細な僕【シロクマ文芸部】
月めくり用の指サックをなくしてしまい
めくれない9月をどうしたものかとセンチメンタルの沼に浸っていると
なんやー
まぁだ9月にしとるんかー?
ドヤドヤッと部屋に押し入ってきたオカンは、ペロッと指先をひと舐めすると何のためらいもなく月をひとめくり
ビリッと一気に9月を切り取った
そして、
はよおいで
ごはんにしよ
と言うと
めくった9月をくしゃくしゃに丸め、どすどすと音を立てながら慌ただ
【短編】マイムマイムが募らせる私のブルー (シロクマ文芸部)
文化祭が終わりグラウンドでは恒例の後夜祭が始まった。
後夜祭ではフォークダンスを生徒全員で踊ることになっているのだけど、私は誰かに言われて機械のように踊るフォークダンス(特にオクラホマミキサー)が楽しいと思えなくて嫌いだった。
でも、後夜祭はひと通り踊るとあとは自由解散なのがいい。
大半の生徒はそのままグラウンドに残り時間ギリギリまでそれぞれ文化祭の余韻を楽しんだり、恋の花の種まきをする子も
【短編】幸せな彼女が愛するヒマワリ畑の秘密(シロクマ文芸部)
ヒマワリへ朝一番に水をやり
手入れをするのが、この夏の彼女の大切な日課です。
都会から少し離れているけれどそんなに不便ではない、緑の多い住宅地で彼女は暮らしています。
子供には恵まれませんでしたが、夫と2人で穏やかな幸せを紡いでいるようです。
この家の庭には、彼女が15年かけて育てたささやかなイングリッシュガーデンがあり、一見ランダムに見えるけれど、考えて植えられている夏の宿根草たちが咲き繁り
【SS】フユコの歩く理由はフユコにもわからない(シロクマ文芸部)
ただ歩く、
ただただ、ひたすらに、歩いています。
歩く理由はあったような気がするけれど、忘れてしまいました。
思い出そうと考えるのもなんだかちょっとねぇ...
ただ、立ち止まってはいけないような気だけはして、夕日に急かされながら、ただただ歩いています。
「フユコおばあちゃん!
どこ行くの?
みんな探してるよ!」
息を切らせて走ってきたセーラー服のかわいいお嬢さんから声をかけられました。
続けるために問い続けるのだ! (シロクマ文芸部)
平和とは__
今日も空に問いかける
空気と水と安全と
そして、ファーストフード店員の笑顔さえも、
当然のようにタダの国で大人になったけれど
実はこの世界はずっと不安定で
後ろ手に皆がピストルを隠し持つ世界なのだ。
その気になればいつでも撃ち合いを始められる。
だから、始めないために問いかけ続ける
平和とは
この夏一番の炎天の下で
溶けてゆくアイスクリームにさえ
なす術持たぬちっぽけな自分だ
私の日常に紛れる幸せの美しさについての研究 #シロクマ文芸部
私の日常を溶かした液体を蒸留すると綺麗に澄んだ液体と濁った液体に別れた。
澄んだ液体をさらに濾過すると幾らかの粒子が取り出せる。
この小さな粒たちが一般に「幸せ」というものなのかもしれない...と思いながら標本瓶に入れしっかりと蓋をして棚に保管する。
棚にはたくさんの同じような瓶が並んでいて
陽にかざすとキラキラと美しく輝く
でも、その輝きには個体差があって
意外にも、ささやかでより小さな粒ほ