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ダンゴムシ
2022年3月26日 20:58
頭の上から、何かが落ちてきた。それはつむじにフワリと着地したかと思えば、脳内いっぱいに広がる。「なるほど、そうか」口からこぼれ落ちたその一言は、確かな感触をもって空中に漂ったかと思うと、次の瞬間には綿あめのような淡い甘さとなって消えていく。僕はメモを取り出す。まだ、間に合う。まだその尻尾を舌先にとらえている。こういうのはスピードが命なのだ。僕はそいつの尻尾をペン先に引っ掛けて、紙
2021年10月13日 19:27
わたしのよく行く図書館は不思議な場所です。なぜか本がいっぱいあって、みんな静かに読書をしています。それに本を貸し出しすれば、家に持って帰ることもできるので、家でゆっくりと読書の続きができる、そんな仕組みになっています。とても不思議です。しかし、わたしが《特に》不思議に思っているのはまた別のところにあります。それはその図書館の机に座ると、すぐに寝てしまうということです。わたしは机に
2021年10月11日 21:22
人に優しくしたい、親切でありたい、そんな心を抱きつつも、頑なな自我が邪魔して逆のことをしてしまうことがある。無理をしているのか、惰性に引っ張られているのか、望んでいる方向にうまく向かえない。時に胸の内に憎しみや怒りが湧くことがあるし、なんとも言えない絶望感や悲しみ襲われることもある。外側と内側への苛立ちと蔑みと、それを覆い隠そうとする虚栄心で凝り固まる顔の筋肉。不思議なことに、そ
2021年10月10日 23:48
「よる寝しちゃった」「よる寝?」「うん、よるに寝ちゃったってこと」「よるに寝るのって普通じゃない?」「いやわたしってヴァンパイアだから基本的に昼に寝て夜に仕事するのよ。だから夜にも寝ちゃったら、作業時間が減っちゃうの」「そういえば、あなたってヴァンパイアだったわね」「そうよ、日中の時間はわたしにとって《命取り》なんだから。ところで、あなたはいつ寝てるのよ?」「いや、それ
2021年10月8日 19:04
テクテク、テクテク、歩く、歩く。もう一万里ほど歩き続けている。風景や町並みはゆっくりと変わっていくが、さすがにここまで来ると眼前には《まったく知らない世界》が広がっている。右、左、上、下、そして後ろを向いてまた前に視線を移す。「何か探しものですか?」・・・そんな呑気なことをわたしに聞いてくる人などいない。わたしはよそ者で、ただの通行人。異様に周囲をキョロキョロしてはいるが、迷
2021年10月7日 19:00
ニンジンを切る。この作業が料理の醍醐味であり、かつ面倒くさいところである。チョキチョキチョキ・・・包丁が野菜を切る音。うん? チョキチョキチョキ・・・?わたしは包丁の手を止めた。すると、チョキチョキという音も止まった。そしてまたニンジンを切り始めると、ニンジンと包丁の切断面からまたチョキチョキと発せられた。「ああ、そういう世界線なのね」わたしは引き続き、チョキチョ
2021年10月6日 17:53
ある日とつぜん、フタが外れた。固くて回せなかったジャムのフタだ。このジャムは買ってから1ヶ月近く開けることができず、冷蔵庫の片隅に追いやられていた。そのくせに、今朝はやたらと簡単に外れた、パッカーンと。別にわたしが筋トレして握力がついたとか、フタを温めて開きやすくしたとかそういうのではない。わたしは両手に収まっているジャムとフタを見比べた。美味しそうストロベリージャムの匂いが
2021年10月4日 19:13
山に登りました。すると、そこら一面に大きな海が広がっていました。「やっほー!!」わたしは力いっぱいに叫びました。・・・ヤッホー!!地平線の彼方から、ヤマビコが返ってきました。わたしは嬉しくなって、小躍りしました。その足音が、ドンドンと響き渡って天が割れてしまいました。その割れ目から、太陽の光が漏れ出してきました。光で照らされる一面の海は美しく光り輝きながら、熱でだんだん
2021年10月3日 18:16
勇気を出したい。しかし、その先にあるかもしれない拒絶に腰が引ける。この一歩踏み出すことで生まれる膨大な被害損害の予感と眩暈を背負いきれないでいる。だから、神様僕に勇気を出す勇気をください。何があっても自分は大丈夫だって思えるように、この震えている僕の《勇気》を元気づけてください。「少年、そんなところでうずくまって、どうしたんだい?」僕のそばに、浮浪者の如き中年のおじさんが立っ
2021年10月1日 20:32
「イマジンしてみてよ」突然、ボブがいってきた。「何を?」私はぶっきらぼうに返事をした。「心のなかに、ピースな世界をイマジンしてみてよ」とボブは言った。「そこはどんな世界だい?」「そうだね、それは・・・」私はボブを睨めつけながら言った。「君がいない世界だね」「おお、なんて悲しいことを言うんだ・・・」ボブはそう言って手のひらにある銃をひらひらとわざと見せつけてきた。私は
2021年9月30日 21:41
遠くから僕を見ている人影を見た。変わる信号、動き出す足取り、通り過ぎていく人々。その隙間から、時に誰かに遮られながら、僕とその人影は見つめ合っていた。そいつの正体は、ひと目見ただけでわかった。「・・・死神だ」―――ああ、生きることが退屈だ。なんの手応えもなくて、味気もない。人生ってやつが噛んでいることすら忘れてしまうほどに存在感をなくしたチューインガムのような、そんな無意識
2021年9月28日 20:19
企画書とのにらめっこ。刻一刻と、一日が削り取られていく。はて、わたしは何を考えているのか、それとも《何か考えているポーズ》をとっているだけなのか。コーヒーを淹れて、飲み干し、また淹れてを何度も繰り返している。頭がカフェインのおかげ冴えていくのと比例するように、トイレに行く回数が増えていく。着席、企画書とのにらめっこ、コーヒーが底をつく。コーヒーを淹れに席を立ち上がり、また戻って
2021年9月25日 19:37
いくか来るって思ってた。でもいざくると、心に重くのしかかるそんな別れ。―――僕は学生寮で共同生活いとなんでいる、どこにでもいる大学生だ。もちろん、寮で寝泊まりをし、寮でご飯を食べ、そして排泄をする。しごく自然な流れである。そして、また寮で共同で洗濯し、さらには共同で洗濯物を干して、取り込み、畳んでいく。これもまた、自然な理である。だから、いつかくるとは思っていた。あ
2021年9月24日 19:59
真夜中のことだ。騒がしい声に僕は目を覚ましてしまった。重い頭を持ち上げて、僕は声のする方に顔を向けた。何を言っているのかはわからないのだが、壁越しから聞こえているようだった。その音の輪郭を捉えることはできなかったが、ただその声が大きいということだけはわかる。どうやら日本語ではない「なにか」が語られ、誰かと誰かが意思疎通しているようであるが、その声が伝達しようとする情報をまったく