ダンゴムシ

《それにも関わらず、世界は美しい》 ショートショートが多め。とりあえず人生レベルで誤字…

ダンゴムシ

《それにも関わらず、世界は美しい》 ショートショートが多め。とりあえず人生レベルで誤字脱字を減らしたい。

マガジン

  • ショートショート(掌編)集

    短いお話たちです。

  • 【カラオケで出会う】シリーズ

    カラオケ大好き歌太郎の掌編小説集。好きな歌の歌詞から、勝手に空想を広げて書いてます。

  • かくかくしかじか。

    エッセイ的なお話たちです。

最近の記事

【カラオケで出会う#5】Vaundy: 世界の秘密

カラオケ大好き歌太郎。 今日も彼はバイトのシフトが入っている。そのバイト先は、もちろんカラオケ。 しかし、外はあいにくの雨だった。授業が終わる十五分あたりから突然振り始めたのだ。 彼は教室の窓辺に立って、誰にも聞こえないため息をついた。 せっかく今日最後の授業が終わって、これからバイトだっていうのに、なんてことだ。 歌太郎は屋根のない駐輪場に置かれた彼の自転車のことを想った。錆びれてほんのり茶色くなっているチェーンに染み込む雨水は、潤いをそこにもたらすのだろうか。それとも

    • 【カラオケで出会う#4】斉藤和義:ずっと好きだった

      歌太郎は、カラオケが大好き。 今日は新宿のカラオケに行く。それも一人カラオケだ。 歌太郎は、一人カラオケをする時は、中央線に乗って地元を飛び出し、新宿にいく。安くない交通費がかかるのに、なぜそんなことをするのか。その問いに歌太郎もうまく答えられない。強いて言うなら、それによって彼の気持ちが引き締まるし、カラオケで歌うという行為が一連の儀式というか、参拝というか、なにか神秘的な意味をもつような気がするのだ。 「この電車は中央線、東京行——」 車内でアナウンスが流れる。 歌太

      • 【カラオケで出会う#3】菅田将暉:まちがいさがし

        歌太郎は今日もカラオケでバイト。 最寄り駅から徒歩5分強で、お勤め先にたどり着く。 今日の授業は午前中にすべて終わる時間割だったので、歌太郎はお昼を軽くすました後、すぐにカラオケに向かった。着いた時は、13時45分くらいであった。 「お疲れさまです」 歌太郎は裏方に回って、先輩たちに挨拶した。 「おお」というそっけない返事がまばらに返ってきた。 「歌太郎、お疲れ」 無愛想な返事の内に、ひときわ明るい声が聞こえた。見ると、そこには輝かしい笑顔が一輪咲いていた。歌太郎と同

        • 【カラオケで出会う#2】ヨルシカ:ただ君に晴れ

          歌太郎はカラオケ大好きの大学生。 気がつくと、彼はカラオケで歌うことに飽き足らず、カラオケでのバイトをするようになった。彼は歌を歌うという行為というよりも、カラオケという空間に属することを好んでいるようであった。 パチパチパチ 歌太郎がトイレ掃除をしていると、電球が消えゆく魂のように点滅した。どうやら、電球の寿命が来たようだ。 パチパチパチッ 点滅するごとに、周囲に一瞬の暗闇が訪れ、すぐに消え、また訪れる。その繰り返しが、トイレの内の何かを呼び起こしているように思えた

        【カラオケで出会う#5】Vaundy: 世界の秘密

        マガジン

        • 【カラオケで出会う】シリーズ
          4本
        • ショートショート(掌編)集
          47本
        • かくかくしかじか。
          31本

        記事

          【カラオケで出会う#1】ゆず:栄光の架橋

          カラオケ大好き歌太郎(うたたろう)は、好きが高じてカラオケでバイトをしている。最寄り駅の北口前にある円状のバス乗り場を脇にそれたところに居酒屋が並んだ通りがあって、歌太郎が勤めているカラオケはその通りを5分ごど歩いた先にあった。歌太郎がそこでバイトをはじめてから早半年が過ぎようとしていた。 「いらっしゃいませ」 一人のご老人が来店された。時間は昼間の3時。ご老人は背丈は高くなかったが、薄いブラウンのセットアップにパリッとした白いシャツを着ていた。近くで見ると、ジャケットに

          【カラオケで出会う#1】ゆず:栄光の架橋

          なるほど、そうか

          頭の上から、何かが落ちてきた。 それはつむじにフワリと着地したかと思えば、脳内いっぱいに広がる。 「なるほど、そうか」 口からこぼれ落ちたその一言は、確かな感触をもって空中に漂ったかと思うと、次の瞬間には綿あめのような淡い甘さとなって消えていく。 僕はメモを取り出す。 まだ、間に合う。まだその尻尾を舌先にとらえている。 こういうのはスピードが命なのだ。 僕はそいつの尻尾をペン先に引っ掛けて、紙に書きなぐる。 紙面に書かれた文字の羅列とそのつながりが意味するものに、僕はひ

          なるほど、そうか

          歯が痛い

          コンコンコン 虫歯が歯茎にノックする ズキズキズキ そのたびに歯に痛みが広がっていく。 ああ、痛い。 虫歯の千本ノックに律儀な執念を感じつつ、 こんな状況になってしまった怠惰な自分に諦念を抱く。 ああ、痛い。 《歯が痛くない》、その状態がすなわち幸せの一部だったのだ。

          不思議な図書館【掌編】

          わたしのよく行く図書館は不思議な場所です。 なぜか本がいっぱいあって、みんな静かに読書をしています。 それに本を貸し出しすれば、家に持って帰ることもできるので、家でゆっくりと読書の続きができる、そんな仕組みになっています。 とても不思議です。 しかし、わたしが《特に》不思議に思っているのはまた別のところにあります。 それはその図書館の机に座ると、すぐに寝てしまうということです。 わたしは机に座って本を開くと同時に、瞼がうつらうつら、頭がぐらんぐらんとして、気がつくとうつ

          不思議な図書館【掌編】

          葛藤【掌編】

          人に優しくしたい、親切でありたい、そんな心を抱きつつも、 頑なな自我が邪魔して逆のことをしてしまうことがある。 無理をしているのか、惰性に引っ張られているのか、 望んでいる方向にうまく向かえない。 時に胸の内に憎しみや怒りが湧くことがあるし、なんとも言えない絶望感や悲しみ襲われることもある。 外側と内側への苛立ちと蔑みと、それを覆い隠そうとする虚栄心で凝り固まる顔の筋肉。 不思議なことに、そんな諸々の緊張と葛藤が体全体で躍動する時、 「ああ、生きている」と感じる。 ―

          葛藤【掌編】

          よる寝【掌編】

          「よる寝しちゃった」 「よる寝?」 「うん、よるに寝ちゃったってこと」 「よるに寝るのって普通じゃない?」 「いやわたしってヴァンパイアだから基本的に昼に寝て夜に仕事するのよ。だから夜にも寝ちゃったら、作業時間が減っちゃうの」 「そういえば、あなたってヴァンパイアだったわね」 「そうよ、日中の時間はわたしにとって《命取り》なんだから。ところで、あなたはいつ寝てるのよ?」 「いや、それをわたしに聞く?わたしなんて、永眠してるわよ」 「ああ、そういえばあなたはオバ

          よる寝【掌編】

          いったり、きたり。

          いったり、きたりの往復作業。 なにが変わったのか、どうやって変わったのか、確認するよりも先に刻々と移り変わる日々と環境とめぐる季節。 摩耗して、もうダメだって思っても、また願望、野望、羨望が次から次に。 なにわともあれ結局は、いったり、きたりの往復作業。

          いったり、きたり。

          意味を探して、1万里【掌編】

          テクテク、テクテク、歩く、歩く。 もう一万里ほど歩き続けている。 風景や町並みはゆっくりと変わっていくが、さすがにここまで来ると眼前には《まったく知らない世界》が広がっている。 右、左、上、下、そして後ろを向いてまた前に視線を移す。 「何か探しものですか?」 ・・・そんな呑気なことをわたしに聞いてくる人などいない。 わたしはよそ者で、ただの通行人。 異様に周囲をキョロキョロしてはいるが、迷子だと心配されるような年齢でもない。 だから、誰もわたしのことを気にしないし、わ

          意味を探して、1万里【掌編】

          野菜を切る世界線【掌編】

          ニンジンを切る。 この作業が料理の醍醐味であり、かつ面倒くさいところである。 チョキチョキチョキ・・・ 包丁が野菜を切る音。 うん? チョキチョキチョキ・・・? わたしは包丁の手を止めた。 すると、チョキチョキという音も止まった。 そしてまたニンジンを切り始めると、 ニンジンと包丁の切断面からまたチョキチョキと発せられた。 「ああ、そういう世界線なのね」 わたしは引き続き、チョキチョキと玉ねぎ、肉、じゃがいもを切った。 一通り切り終わったら、すぐに鍋にすべての具

          野菜を切る世界線【掌編】

          フタがはずれた。【掌編】

          ある日とつぜん、フタが外れた。 固くて回せなかったジャムのフタだ。 このジャムは買ってから1ヶ月近く開けることができず、 冷蔵庫の片隅に追いやられていた。 そのくせに、今朝はやたらと簡単に外れた、パッカーンと。 別にわたしが筋トレして握力がついたとか、 フタを温めて開きやすくしたとかそういうのではない。 わたしは両手に収まっているジャムとフタを見比べた。 美味しそうストロベリージャムの匂いがした。 喜びの感情と共に、食欲が湧いてきた。 わたしはさっそく焼きあがってい

          フタがはずれた。【掌編】

          ポジティブ筋肉

          性格には、人それぞれ楽観的だとか悲観的だとかいった傾向がある。 しかし、「ポジティブになる」のは筋肉的な作用で可能だ。 精神が膝から崩れ落ちそうになった時に「持ちこたえさせる」筋肉、 それがポジティブ筋肉。 ポジティブ筋肉とは決して個性ではない。 技術だ。 だから、ポジティブな人も、ネガティブな人も、どちらでもポジティブ筋肉は纏えるのだ。 つまり、無理に自分の性格を変えると考える必要はまったくない。 あなたはただ、ポジティブ筋力を丁寧に鍛え上がればそれでよいのだ。

          ポジティブ筋肉

          あべこべの世界【掌編】

          山に登りました。 すると、そこら一面に大きな海が広がっていました。 「やっほー!!」 わたしは力いっぱいに叫びました。 ・・・ヤッホー!! 地平線の彼方から、ヤマビコが返ってきました。 わたしは嬉しくなって、小躍りしました。 その足音が、ドンドンと響き渡って天が割れてしまいました。 その割れ目から、太陽の光が漏れ出してきました。 光で照らされる一面の海は美しく光り輝きながら、熱でだんだんと沸騰していきました。 コポコポコポ、水面から湯気がでています。 すると湯だ

          あべこべの世界【掌編】