意味を探して、1万里【掌編】
テクテク、テクテク、歩く、歩く。
もう一万里ほど歩き続けている。
風景や町並みはゆっくりと変わっていくが、さすがにここまで来ると眼前には《まったく知らない世界》が広がっている。
右、左、上、下、そして後ろを向いてまた前に視線を移す。
「何か探しものですか?」
・・・そんな呑気なことをわたしに聞いてくる人などいない。
わたしはよそ者で、ただの通行人。
異様に周囲をキョロキョロしてはいるが、迷子だと心配されるような年齢でもない。
だから、誰もわたしのことを気にしないし、わたしもまた同様に周囲の人々の視線を気にしていない。
ただ、わたしの関心が向いているのはどこかに消えた《意味》の行方だ。
それがどんな《意味》なのかは自分自身でもわからないし、それをどこで落としたのかも、どのようにして失ってしまったのかもわからない。
しかし、それはある朝のことだった。
ベッドからゆっくりと起き上がった時、わたしは自分自身からなんらかの《意味》が欠けてしまっていることに気づいた。
それは確かに昨日まではわたしの一部であったはずのものだった。
その日を境に、わたしはひたすら《意味》を探し続け、
今日でとうとう1万里先まで来てしまった。
もしあなたがわたしが今このようにして話していることの《意味》がわからないのなら、その《意味》が《あたなの意味》じゃないからかもしれないし、それこそ《意味》自体がそもそも失われてしまっているからかもしれない。
なにはともあれ、もしわたしの落とした《意味》と思われるものを見つけたら、教えてもらえたらありがたい。
現場からは以上です!
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