フタがはずれた。【掌編】
ある日とつぜん、フタが外れた。
固くて回せなかったジャムのフタだ。
このジャムは買ってから1ヶ月近く開けることができず、
冷蔵庫の片隅に追いやられていた。
そのくせに、今朝はやたらと簡単に外れた、パッカーンと。
別にわたしが筋トレして握力がついたとか、
フタを温めて開きやすくしたとかそういうのではない。
わたしは両手に収まっているジャムとフタを見比べた。
美味しそうストロベリージャムの匂いがした。
喜びの感情と共に、食欲が湧いてきた。
わたしはさっそく焼きあがっているパンにバターをのせ、
さらにジャムをかける。
喜び、喜び、喜び。
カチカチでアツアツのパンに崩れるように溶けるバター、そこに冷たいジャムが絡んでいく様子をしばらく眺める。
そして、頃合い見計らってガブリとパンを頬張る。
わたしは口いっぱいに広がるストロベリーの香りを楽しみながら、また幸福感に満たされる。
そして、食後はいつものコーヒー。
フタが外れた、ただそれだけのことで、味気ない朝に彩りが加えられた。
不思議、不思議、不思議。
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