あべこべの世界【掌編】
山に登りました。
すると、そこら一面に大きな海が広がっていました。
「やっほー!!」
わたしは力いっぱいに叫びました。
・・・ヤッホー!!
地平線の彼方から、ヤマビコが返ってきました。
わたしは嬉しくなって、小躍りしました。
その足音が、ドンドンと響き渡って天が割れてしまいました。
その割れ目から、太陽の光が漏れ出してきました。
光で照らされる一面の海は美しく光り輝きながら、熱でだんだんと沸騰していきました。
コポコポコポ、水面から湯気がでています。
すると湯だっている海から山神さまがでてきました。
わたしは驚いて、とっさに近くにあった石をひろって投げつけてやりました。
石は空を切り裂きながら山神さまの眉間に命中しました。
山神さまは一瞬フラフラとしながらも持ちこたえ、わたしに笑顔で語りかけてきました。
「あなたが落としたのは、この生命ですか?それともこの生命ですか?」
山神さまの両手には、山で遭難して命を落とした二人の魂が掴まれていました。
「どちらもわたしが落としたのはものではありません、生命を落としたら誰だって生きてなんていられないですもの」
「おお、あなたはなんと正直者なのでしょう」山神さまは笑顔に笑顔を重ねるように異常なくらい喜ばしい表情を浮かべた。「それでは、ご褒美にあなたにはこの二つの生命をあげましょう」
山神さまはそういうと、私の中に二つの魂をいれてしまいました。
「うわわわわ!」
わたしの中に、《わたし》以外に《おれ》、《ぼく》が入ってきてしまいました。
そして、それぞれが、《わたし》、《おれ》、《ぼく》と主張し合うことで騒がしく争い合いました。
口は一つ、しかししゃべろうとする意思は3つ。
「うわたさまらたさたらたさ」
体はひとつ、しかし動こうとする意思は3つ。
フラフラ、グルグル、すってんころりん。
怒って泣いて笑って、心と体がとっても忙しい。
あれ、この感情って誰のもの?
山神さまはそんなわたしたちの様子をしばらく満足そうに眺めてから、ゆっくりと沸騰している海の中に戻っていきましたとさ、
チャンチャン
これが、
《あべこべな世界》での王道なハッピーエンドなのです。
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