野菜を切る世界線【掌編】
ニンジンを切る。
この作業が料理の醍醐味であり、かつ面倒くさいところである。
チョキチョキチョキ・・・
包丁が野菜を切る音。
うん? チョキチョキチョキ・・・?
わたしは包丁の手を止めた。
すると、チョキチョキという音も止まった。
そしてまたニンジンを切り始めると、
ニンジンと包丁の切断面からまたチョキチョキと発せられた。
「ああ、そういう世界線なのね」
わたしは引き続き、チョキチョキと玉ねぎ、肉、じゃがいもを切った。
一通り切り終わったら、すぐに鍋にすべての具を入れて火にかける。
プルプルプルプル
火が勢いよくコンロから飛び出す。
うん? プルプルプル・・・?
わたしはプルプルと柔らかく揺れ動く火を見つめた。
ああ、そういうことか。
ここはそういう世界線なのね。
ピンポーン
お、どうやら、郵便が来たようだ。
火を弱火にしてからわたしは玄関にいって扉を開けた。
タカタカターンっと扉が開いた。
(・・・ああ、そういう世界線なのね)とわたしは思った。
玄関口には小さな妖精が立っていた。
「こんにちは、お元気ですか?」と妖精は言葉を口にすることなくわたしに語りかけてきた。
「ええ、わたしは元気よ」とわたしもテレパシーで答えた。
妖精はにっこりと笑って飛び立っていった。
わたしはその行方を見送ってから扉をしめた。
タカタカターン
とてもいい便りを受け取れたので、わたしは気分が良くなった。
「よし、料理をしよう」
そうつぶやくと、わたしはまた台所に戻った。
ガランガランガラン・・・・
うん? ガランガランガラン?
おっと、鍋が吹き出ている!!
はあ、今日は変な世界線だ。
そしてこれが、妖精の世界の日常なのだった。
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