見出し画像

踊っていたら、寝てた【掌編】

企画書とのにらめっこ。
刻一刻と、一日が削り取られていく。
はて、わたしは何を考えているのか、
それとも《何か考えているポーズ》をとっているだけなのか。
コーヒーを淹れて、飲み干し、また淹れてを何度も繰り返している。

頭がカフェインのおかげ冴えていくのと比例するように、
トイレに行く回数が増えていく。

着席、企画書とのにらめっこ、コーヒーが底をつく。
コーヒーを淹れに席を立ち上がり、また戻ってくるころにはトイレに行きたくなる・・・

そんな企画書を「書く」という何歩か手前の作業を反復することで、
思考しているというポーズならざるポーズをすることで時給をいただく。

いや、これもまた立派な思考なのである。
企画はいま、わたしの無意識領域の深いところで少しずつ形をなしている。
そんなことどうしてわかるのかと言われると、わたしも困ってしまうのだが、無意識といってもわたしの体の一部であるのだからわかってしまうのだ。腹の虫を通してコショコショ話で教えてくれるのだ。
「もうちょっとだから待ってね」ってね。

「!!!」

突然何かが頭のつむじに落ちて、くるくるとわたしの中に入ってきた。
おお、ついにきたか。

わたしは思いついたことをひたすらに紙に書き上げる。
いいぞ、いいぞ

くるくる、るんるん。
おお、いいぞ!、いいぞ!!
もっと深く潜り込む、もっとハッキリと覗きにいく。

くるくる、るんるん、うんぱっぱ。
ペンが踊りだす、企画書が騒ぎ出す。
ビートの音が強くなっていき、ギターが何やらテクニカルな間奏をいれてくる。
もうコーヒーはいらない、尿意も気にならない、ただただこの音に合わせてペンを走らせるだけ。

火照った頭をそっと冷ましてくれるような、秋の風がわたしの髪をそっとなであげた。
わたしの目の前には最高の企画書が出来あがっていた。

「・・・という夢をみていました」
少し呆れてような顔でわたしを眺めている先輩にそう報告した。

わたしの手にある企画書はよだれで汚れていること以外は、まったくの白紙であった。

わたしはその白さを愛おしく思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?