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甘枝ゆとり
2021年7月30日 18:27
通りすがりの人に訊ねてみれば私は3ブロックもはずれた位置を歩いていた10階建ての公団住宅が縦横に見渡すだけで数十は軒並んでいるS氏宅を訪れる理由はふたつあってひとつは貸したカネの催促だから行くぞという予告はしていないところがこれはまあ汚い言い方をすればハシタガネなのでどうでもよくて目的の棟の横手に着いたまずは窓側へ回って在宅を確認するえぇ
2021年7月29日 18:39
工房は東側に小さな窓がひとつあるだけでそれも半地下になっており通りの向かいの家を越えてからでないと朝日が差し込むことはなくてつまりはほとんどランプを灯さないことには作業などできなかったと思う地図職人だった爺さんが父や僕に仕事を継がなかったのはまともに食っていける仕事じゃないからって聞かされているたしかに僕の生きているこの時代に建築家や土木作業者の測量
2021年7月28日 21:07
パパはわたしの発言を耳にした途端フォークとナイフをパタリと止めてハの字にお皿へ置いてそしてそれならばおまえの意志は尊重するし気持ちの奥では応援するが経済的な支援は一切しないまた帰郷を許さないのはもちろんのこと連絡も絶つと言って退けられた別にかまわないけどというのがそのときのわたしの思いそりゃ他よりは多少は裕福でしょうけどこんな田舎町で
2021年7月26日 23:13
「あの…」反応がない「あの…」「なんすか」「あの、煮玉子…」「入ってますよ」「は、はい、はい、入ってます煮玉子…」俺のはらわたはスープの寸胴のごとく煮えくり返っていたところがそれをうまく言葉にできない一口すするさほど旨…旨い…悔しい今回は俺の負けである完敗だだって再訪したいものもうきょうみたいなミスはしない店主らし
2021年7月25日 18:09
(まえがき)さて一言お題シリーズラストの5作目は、まえがきから失礼します。まずは出題いただいたアヤコ14世様、ありがとうございます。で、いただいたお題が「ボンクラ」だったんですが、すでに拙作に同タイトルがあるんですよ。だから今回はその続きを書くことにしました。(前回までのあらすじ)世界征服をたくらむ極悪秘密結社「暗闇前衛半裸旅団」に恋人を囚われてしまったシンイチ(あだ名はボンクラ)
2021年7月24日 22:21
見晴らしのよい高原に位置するその建物は打ちっぱなしのコンクリート壁に囲まれてまるで美術館のような佇まいで予約は数か月先まで埋まっているというからどれだけの盛況かと思ったらわたしのほかにお客の姿はなくて友人から怖いと評判のお化け屋敷のチケットが1枚だけ取れたけど急用で行けないといわれてそれとなく興味本位で足を運んでみたわけわたしの住む都会から電車とバスを乗
2021年7月23日 08:44
苦痛なにがつらいって課員みんなそろって毎日ランチに行くんです課長曰く”飲みにケーション"が出来ないから"昼にケーション"なんですってあぁわたしは一人でのんびりお弁当でも食べたいのに課長が選ぶお店はだいたい体育会系の学生が好みそうな食堂かラーメン屋さん課員6人でカウンターに並ぶこともあって誰も異論を言わないのがほんとうに不思議ですまぁ課長は
2021年7月22日 11:37
河川敷に散歩に出かけようと彼氏に言われたからそんなに気乗りがしなかったけどついていった夕陽のせいでまだ暑いし蚊がぶんぶん飛んでいてあんまり心地よくはなかったけど道すがら買ったアイスカフェラテに助けられたベンチに座ると少年野球チームが練習を引き上げる光景そういえば付き合い始めた頃いまと同じように河川敷に腰かけてぼうっとした記憶があるよこんなのっ
2021年7月21日 18:12
実に気が利いている本来なら夏休みの書入れどき海からほど近いこの街はこんな冴えないビジネスホテルですら満員御礼のはずところがご時世もご時世俺みたいな社畜がちらほら利用するだけ(商談なんてオンラインでいいだろう)だからサービスがとても良い朝食バイキングからして夏らしいメニュー俺は食欲の高ぶりを抑えてまずはそうめんをお盆に載せるん?んんん?あの前方
2021年7月19日 23:02
これといった特徴のない雑居ビルの地下にいざなわれる重い扉を押すと薄暗い空間にグランドピアノが置かれ唯一の照明があてられていた私の手を引いた本人は一人掛けのソファに私を座らせたのち自ら鍵盤の前へ静かなとっても静かな曲を奏で始めた音楽に疎い私はそれが誰かの曲なのかこの人のオリジナルなのかまたそのジャンルですらいまいち理解が及ばなかったただひと
2021年7月18日 02:46
長年の夢だったミニシアター無名の秀逸な映画を買い集めて興行成績は気にしないといえばウソだけどなによりも自分好みの作品だけを上映するってなんだかたまらないよねえこけらおとしの二週間はこんなラインナップで様子をうかがうとしよう------PM1:00-PM2:45『思惑』2004年 ベラルーシ監督:ヴラジミール・ベシチェフ主演:アレクサンドル・ヴァリ
2021年7月17日 21:42
尾根に向かって九十九折の途中南向きの急斜面に石畳の街道を挟んでほんの小さな集落があって尾根の突端にある教会を訪れる巡礼者の休息地になっていた見下ろせば荒涼とした大地燦燦と太陽が一面を照らす旅人の多くは清貧を理念としているから落とすカネも多いわけではなく村が潤うこともないのだが集落には天然の水が湧いていて飲めば万病に効くとされていた村人たちは日々の
2021年7月16日 18:59
「ふつうこういうのは、死んでからなんだけどな」晴れ晴れとした夏空のもと本社ビル屋上の庭園でかっかっかと笑いながら社長みずから幕を引くじゃじゃーんと引かれた布の下から登場したのはなんとも立派な社長本人の銅像(に、似てない…)式典に寄せ集められた社員一同の感想はこれしかなかった(はず)「んん?これ俺か?」自身も目を見開いて銅像を覗く社員一同うつむく
2021年7月15日 18:13
結果としてこういうことになったのはほんとうに謝りますでもわたしは彼を心から愛していました「えぇ、そうですねダブルベッドくらいの寸法で」だって彼はわたしのことなんて見向きもしないから身勝手な発想だということも承知しています「はい、蓋は内側から閉められるようにお願いします」なかば錯乱していたわたしが彼を手に入れるためにはこのような倫理に反した手段しか