『巡礼の村』
尾根に向かって九十九折の途中
南向きの急斜面に
石畳の街道を挟んで
ほんの小さな集落があって
尾根の突端にある教会を訪れる
巡礼者の休息地になっていた
見下ろせば荒涼とした大地
燦燦と太陽が一面を照らす
旅人の多くは清貧を理念としているから
落とすカネも多いわけではなく
村が潤うこともないのだが
集落には天然の水が湧いていて
飲めば万病に効くとされていた
村人たちは日々の煮炊きに用い
巡礼者たちは旅で疲れた身体を癒した
あるとき
それを聞きつけた都会の商人が
湧き水を高値で買い付けんと
集落に押しかけてきた
湧き水は
売れる
村人たちは大金を目の前にして
心を躍らせた
長老さえも
果たしてその利権を
商人は手に入れ
汲んでは都会に持ち帰り
万病に効く命の水として
高値で売りさばいた
やがてこの巡礼の村の名は
国じゅうに広まり
ホテル
ゴルフ場
人工ビーチ
カジノ
劇場
ショッピングモール
スタジアム
空港
1000円カット
唐揚げ屋
などが立ち並ぶ
一大リゾート地に成りあがった
ところがそんな夢の時間も束の間
国の経済政策が立ち行かなくなり
破綻すると
賑わいを見せた巡礼の村は
廃れ
荒れ果て
観光地らしい場所といえば
クレープ屋を1軒残すだけとなった
隆盛を誇った時期に林立した
タレントショップも
いまやむかし
スキャンダルで消えたやつ
単に勢いだけだったやつ
青く色褪せたブロマイドが
風に舞う
ちなみにタピオカは
この国では好まれなかったみたいだ