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ショートストーリー

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短い物語をまとめています。
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#失恋

迷宮入り。

迷宮入り。

嘘しかつけない日に良い事があった。
正直に過ごそうとした日は怒られた。

嘘をついてはいけませんと教えられたけど、正直なことが良いわけではないらしい。ついていい嘘というのもあるらしい。

嘘をついて、笑って見せた。
正直に泣いた。

朝から、元気に挨拶した。
やりたくないことを断った。
みんなの話題に話を合わせた。
知らないところで起きた悲惨なニュースを消して、ゲームの続きをした。
もう会う気のな

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ぬるいと、お腹を壊す

ぬるいと、お腹を壊す

 トイレはぬるめの便座がいい。
 朝は炙ったパンでいい。
 しみじみ飲めば、しみじみとぉーおぉ。

 そんなふざけた替え歌を思い浮かべるボクの火曜の朝は、相変わらず冴えないはじまりだった。
 昨日から持ち越しのコーヒーをレンチンしている。不味いけど、勿体ないからそうする。とりあえず便秘とは無縁だ。丈夫に産んでくれて、ありがとうございます。
 コーヒーカップに口をつける。匂いだけは、一丁前。
 PC

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故障じゃない、今日は壊れた。

故障じゃない、今日は壊れた。

 心の壊れる音が聞こえたから、エアーマネキンを買った。
 浮き袋みたいに空気を入れたら膨らむ、その人形に文字を書く。
 とりあえずは、手の辺りに初めて繋いだ日付を書く。それから、一言、「あたたかい」と付け加える。
 顔には、何を書こうか。
 瞳の色、ちぐはぐな歯並び、好きになった笑顔、花粉症。思い付くことを手当たり次第に書く。そして、書き終えたら次の場所へと移る。
 背中は広い……。足は毛深い……

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ペンシルnoチョコレート

ペンシルnoチョコレート

背伸びの上手い人たちに囲まれた幸せな時間だった。ちょっと高いところにあるものを無邪気に取る人たちだから、そこには憧れも混じった驚きがあって自分の心まで両手で掬い上げられたような感覚がしていたんだ。
そんな人たちの中で、格別に背伸びの上手かったキミに惹かれていた。

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まだ、そこに君がいる気がして。

まだ、そこに君がいる気がして。

シッポを切り離したトカゲは、自分のシッポのことをいつまで覚えているのだろうか。命の危険から逃れるために仕方なく切り離すのだから、逃げる事に全力を注いでいて、それどこではないだろう。
でも、ボクなら後で気になって、一度見に戻りたくなると思う。すぐに戻るのは危険だとしても、ほとぼりが冷めた、そう、何年かたった後なら大丈夫だろうと見に行ってしまうと思う。
ボクにとってその人は、そんな思い出だった。

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