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羊角の蛇神像 私の中学生日記

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すこし特殊な中学生時代の思い出
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記事一覧

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑳

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑳

咆哮の夜唸り声をあげる野良犬の目的は一体なんだったのだろう。
彼の縄張りで野営する人ザルの子どもに一体どんな用があったのだろう。
私は最悪の事態を想定して、彼を追い払う決断をした。
無断外出はサバイバルなのだ。

私は比較的細い板材を掴むと、野獣のごとき咆哮とともにそれを振り回した。
野良犬は呆気なく去っていった。

かつてドアの外に(自ら)野良犬と置き去りにされて泣き喚いた幼い日の私とは違うのだ

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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑲

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑲

冷たい町線路沿いに歩くことのリスクを学んだ私の冒険のステージは、線(x)から面(xy)へと一拡大した。
地図と土地勘とサバイバルスキルの無い私にとって、無闇に移動することは、体力を無駄に削り、迷子になることを意味していた。
しかし私は歩き続けるしか無かった。

大きな工場や企業のビルばかりが並ぶ町へ来てしまった。
人の家や店が無い工業地帯は、私の心細さを倍増させた。

喉が渇いていた。
そうだ。

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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑱

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑱

鎖を解いて「やめろー!」

寮長先生が叫んだ。

金属製のコタツの足が、何に振りおろされたのか。
それは、先生の切ない悲鳴と鈍く不穏な音を手掛かりに、私のまぶたの裏側で殆ど自動的に映像となった。

それを振るうWくんの心も、取り囲む3年生たちの感情も、私には測ることのできない遠くへ、ずっと遠くへ、飛んでいってしまった。

もういやだ。もう結構だ。
ここは地獄だ。
無理矢理に台詞を当てがえばそんなと

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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑰

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑰

死闘の果てに不吉な弾力を頭部に感じた。

両手を封じられた絶命絶命の私は、そのままの体勢でジャンプして、Wくんの顔面へ頭突きをしたのだった。

Wくんは膝をつき、自分の口から溢れ出る赤いものに触れて、次にその手を某然と見つめていた。
私もまた、ぼんやりとしていたと思う。
状況を理解し、その恐ろしさを咀嚼するのに時間がかかった。受け入れ難い事実を受け入れなければならない時、私たちの体感時間は速度を落

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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑯

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑯

アトラクション「Lくん、顔どないしたん!」

翌日、本館へ行くと、他の寮の子がでこぼこになった私の顔を見て驚きの声をあげた。事情をたずねてくれたり、いたわってくれる友だちもいた。
Aくんと同じ学校から来た2年生がふたりいて、彼らはすぐに状況を察したようだった。

私は脱力した笑い顔で曖昧な返事をするだけだった。

この頃の記憶を辿ると、遊園地のアトラクションのように非日常的ないざこざだけが思い出さ

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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑮

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑮

ぼくは窓ガラスを破る私たちの寮に、不穏な空気が立ち込めていた。

Aくんは私のことをひどく憎んでいるようだった。
私の一挙一動に感じる彼の苛立ちは、ヒリヒリとした重い空気として私に伝わるのだった。
厳しく詰め寄るようなこともあった。

寮には居室が3つあった。6畳か8畳ほどの和室の、1番手前が私の部屋だった。
奥の部屋ほど寮長先生たち家族の居住スペースは遠くなる。

先輩たちが奥の部屋に集まって、

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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑭

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑭

人の尿を浴びるAくんは、数日後に再び無断外出をして、寮はまた私ひとりになった。
程なくBくんという3年生が戻ってきた。

Bくんは、かわいい人だった。
いつも悪戯をしたり、冗談を言っては、周囲を和ませる優しい人だった。

鑑別所に入るような悪事に手を染めた彼らだったが、友人として関わっていると、皆それぞれに良い所があった。
外の世界では、私たちは全く別の属性の子どもたちだった。
盗んだバイクを改造

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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑬

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑬

私がまじめであるなら、地域の学校へ毎日通っている子どもたちはどんなに優秀だろう。学校へ普通に通い、多少の人間関係の軋轢やつらいことがあっても、当たり前に学校へ行ける子どもたちがどんなに偉く尊いか。
私のような落伍者がまじめであろうはずがなかった。

煙草と黒い犬しかし、学園の子どもたちの多くが、手のつけられない不良だったということを、徐々に私は理解した。

煙草を吸う。
シンナーを吸う。
カツアゲ

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羊角の蛇神像 番外編

羊角の蛇神像 番外編

後編に向けて屋上庭園で撮影会。
冬の空気と草花の中でゆっくりと撮影できました。
初めての屋外撮影にやや緊張気味の蛇神ちゃん。

本編はこちら
↓↓↓

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑫

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑫

ひとりの寮生活入所してしばらく、寮生は私ひとりだった。
寮長先生が退屈しないように漫画版三国志を貸してくれた。
私は漫画好きだったが、呂布が聖骸布の力で「聖帝⭐︎ざんぎりウォーリョンリョン」に進化して、聖槍「ロンギヌスディルド」を持ってダークジパングに侵攻する辺りで読むのをやめた。

私は古典が苦手だ。
勿論作品によっては好きなものもあるが、漫画・映画・音楽など、古い作品があまり好きではない。

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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑪

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑪

開かれた世界 特別な子どもたった1日の挫折で、もう二度と学校へ行けないことを悟った私は、それでも前向きだった。
児童相談所のケースワーカーの提案もあり、家から地域の学校へ通う以外の方法を模索することを考えるようになった。
具体的にはふたつの方法があった。

施設に入ってその地域の学校へ通う

学校付きの施設に入ってそこで全てを完結させる

2度の一時保護所の生活やキャンプを経て、私は不思議な万能感

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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑩

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑩

17歳の地図2年生になり、再び学校に行けなくなった私は、2度目となる児童相談所の一時保護を利用した。

春に保護された時は南こうせつが流れていた集会室では、尾崎豊が繰り返し流れていた。
その頃、高校生の男子が保護されていたが、尾崎が大好きな彼が持参のCDをかけているらしかった。
彼は陽気な性格で、曲に合わせて気持ち良さそうに歌っていた。顔中の筋肉を伸縮させて歌う芝居がかった様子が愉快だった。
ちい

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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑨

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑨

魔法の色、水の花夜の国でひとり、昼夜逆転の暮らしをする中で、私を慰めたものがあった。
朝が来て、少しずつ色を変える空の色をずっと眺めていた。
私は朝焼けを「魔法の色」と呼んで、世界が魔法にかかっていく不思議に心打たれていた。

またある時は、雨の景色を眺めていた。
コンクリートの駐車場でひらくたくさんの波紋を見ていた。
波紋は決して閉じることがなく、広がって、新しい波紋と混じりあって消えていく。

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羊角の蛇神像 私の中学生日記⑧

羊角の蛇神像 私の中学生日記⑧

完全に社会と隔絶された夜の国でかろうじて息をしていた私を、太陽の世界に繋ぎとめようとしてくれた存在があった。

学校の帰り道でありの行列を眺めたり、私がHさんを好きだと言った時に「嘘やろ」と驚いた友だちのOだった。

空っぽな心彼がどの位の期間、そうしてくれたのかは覚えていない。
彼は毎朝うちまで回り道をして、私を迎えに来てくれたのだった。
私は彼に顔を見せることができなかった。
誰がどんな風に声

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