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クロミミ(黒見千 くろみゆき)
2023年8月2日 00:00
次の日も、その次の日も夕凪は俺を待っていた。俺はその姿を見るたび、何か責められているように感じた。そしてようやく気がついた。夕凪がいなかったあの日、自分が傷ついていたということに。そして傷を持て余し、憤っていたということに。 俺は夕凪を赦したかった。もともと怒るのは得意ではない。そういえば今までまともに怒ったことがない。自身の怒りにすら遅れて気がつくのだから、当然うまい怒り方もわからなければ、
2023年5月14日 19:33
*** あの夜から毎晩夕凪に会いに行った。特にこれといった心境の変化が自分の中で起こった訳ではない。ただ、気がつくと足が神社へと向かうのだった。夕凪もまた日没の境内に毎日いた。俺を待っているのか、それとも単に他に行くあてもないだけなのか。それは定かではなかったが。顔を合わせる頻度が増したからといって、幼馴染の心の内がはっきりと読めるようになるわけでもない。そうわかっているはずなのに不安や疑念に
2023年3月19日 13:35
*** 気がつくと陵とはもう別れていて、わたしはひとり夜道を歩いていた。さっきまで食べていたおでんのせいか、腹の底はほかほかとぬくもりを宿していた。 無意識のうちに頬に触れていた手をそのまま握り込むと冷たかった。季節が移ろっていく。冬は好きだ。雑音が少なくて鬱陶しくない。空気もすっきりと澄んでいるように感じられる。 帰り道、なぜか頭の中の靄は薄らいでいた。つい先程まで嫌になる程付き纏ってい
2021年9月30日 09:20
第八章 「夢中と現実」瞼が上がると、「ああ、これは夢だな」という冷めた自覚が生まれた。飽きるほど繰り返した夢だった。 夢の中で、わたしの胸は締め付けられるように苦しい。目の前には残酷なほど美しいブルーが広がっている。口から吐き出された水泡がゆらゆらと漂うのを目で追った。 青と再会したあの日から、毎夜海に溺れる夢を見た。いつも同じ夢だ。そして、苦しい夢だった。 夢は夜毎妙な生々しさを伴っ
2021年9月8日 19:52
*** もう秋になり始めた頃のことだった。秋といってもまだまだ残暑は厳しい。言い訳のように頭上では鱗雲が透き通り、もう秋だと主張していた。 放課後を俺はまた愛花と過ごしていた。この頃は帰りが一緒になると、アイスを交互に奢るのが習慣になっていた。涼しい店内に人は少ない。昔からある有名な店だが、テイクアウトして外で食べるのが主流なせいかもしれない。奥の席を選べば、話を聞かれる心配もない。俺たちに
2021年8月27日 18:06
*** 例の一件から、愛花は何かと俺に話しかけてくるようになった。俺はといえば、美しい猫が俺にだけ特別なついたかのような、幼い優越感を感じて日々を過ごしていた。実際、あの日から愛花の鋼鉄の扉はほんの少しだけ開いたようだった。 愛花は実際付き合ってみると、見た目の華やかさに反してかなり捌けた性格のようだった。何かにーーーいや、誰かに粘着したり執着することを嫌う性格。だが、一方で夢中になれるもの
2021年8月1日 12:57
どうも。クロミミです。さてこのまとめ記事もとうとう三回目。先日19回目の更新をいたしました連載小説「海のなか」。てか、更新のたびに文字数の違いエグくてごめんなさい。特に多くなってしまった時は、気がついたら6000字近かった。だって話の区切りがなかったんだもんよ。出来るだけ1500から2000をひとつの回として更新したいものよと思っておる次第。 キャラクター解説については前回のまとめ2で
2021年7月31日 08:45
*** なぜ、あんなことを言ってしまったのだろう。自分の言葉を反芻するたびに嫌気が差した。 『夕凪、あたしが探してこようか?』 自分でやったことのはずなのに。あんなことをしてしまった自分がわからない。あたしは夕凪を避けていたはずなのに。あの子に会いたくない、はずなのに。 こういう時がある。勘ではまずいとわかっている。悪い予感に急かされながら、それでも選んでしまう。まるで愚かさに毒さ
2021年7月27日 19:35
*** 教室を出るとともに、また俺は囚われてしまった。 あの問題。未来という問題。 考えたくないと思えば思うほど逃れられなくなる。泥濘に足を取られ、はまり込んでゆく。もう誰のせいにもできない。逃げていた俺が悪い。空っぽな俺が。別に逃げ続けられるとたかを括っていたわけじゃない。何も考えていなかった。ただ、それだけ。 これからどうするのか。どうすべきか。どうなるのか。 もし問いかけたな