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消雲堂綺談

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私は怪談奇談が好きで、身近な怪異を稚拙な文章にまとめております。
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2021年5月の記事一覧

「犬の油」

「犬の油」

僕は洋物の小説を読むのが苦手です。登場人物の名前がカタカナだからです。例えばシャーロック・ホームズが、斜路句 補留無素みたいな名前だったら大丈夫なんですけどね。そういえば明治時代の探偵小説の翻案ものは、シャーロックホームズ→小室泰六というあて字でしたね。

苦手な西洋文学でも、ポー、ラブクラフト、ビアスだけは一応読みます。この3人は、作者自身にも興味がありますからね。そのほか有名な探偵小説は、ほと

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散歩

散歩

夫婦で散歩していた。季節は初夏、穏やかな晴天で、散歩をするには最適な日和だった。

僕はもう60歳を越えているが、妻はいくつだったっけ?忘れてしまった。多分、僕より2~3歳年下だったと思うが、はっきりしない。子どもができなかったからだろうか? 妻は今でも若々しい。

「疲れたか?」妻は歩くのが遅く、遅れないように、たまに僕の後から小走りで着いてくる。その姿が昔から可愛らしくて好きだ。

妻は「大丈

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新撰組異聞「幽霊」3

新撰組異聞「幽霊」3

「芹沢が故郷で殺した女の霊が、常陸からわざわざ京までやってくるもんですかね」と言いながら沖田が笑った。

「俺たちが清川(八郎)や山岡(鉄舟)と、江戸から中山道を京まで歩いてきた時に一緒にくっついて来たんだろうさ」珍しく土方が冗談を言って笑った。土方は躁鬱が激しい。

「幽霊は疲れないんですかね」

「足がねぇから疲れねぇだろう」と言って土方が笑った。今日はよほど機嫌がいいらしい。

すると沖田が

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死に逝く者(義父の場合)     「襖(FUSUMA)」

死に逝く者(義父の場合)     「襖(FUSUMA)」

1.

東日本大震災の頃から義父が認知症だということがわかり、翌年から症状が酷くなった。西葛西のマンションを出て、周辺を徘徊するようになった。徘徊しないように義父の側にいると、突然、虚空を指さして「あそこに誰かいる」「あいつは俺のことをいつも見ている」と怒ったように呟くことが多かった。レビー小体型認知症の症状だ。木場の病院で症状を停める薬を処方してもらっても義父の症状は酷くなるばかりだった。

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新撰組異聞「幽霊」2

新撰組異聞「幽霊」2

出入り業者の格好で久しぶりに顔を出した山崎焏は、興味深いことを近藤と土方に伝えた。それは彼が探っている尊攘過激派の動きではなくて、芹沢鴨のことだった。それを伝えると山崎は、すぐに前川邸の勝手口から姿を消した。山崎は隊員の身辺調査も行なっている。尊攘派の密偵が入り込む可能性が大きくなったからだ。

山崎が去って、しばらくして、土方は沖田と原田佐之助を呼んで、その内容を伝えた。

「沖田、原田…面白れ

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新撰組異聞「幽霊」1

新撰組異聞「幽霊」1

以前Facebookに書いたものを修正しながらアップしていきます。全部で20回ぐらいになります。これを書いた後に浅田次郎さんが「輪違屋糸里」を書いていたことがわかって凄く驚きました。素人の僕が考えることなんて、プロの方たちがとっくの昔に書いているもんなんです。勉強になりました。

1.

「それで、お前は見たのか、女の幽霊を…」

近藤勇は、なぜか自分の背後を振り返り見ながら言った。沖田総司から幽

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ヴィンテージドリーム「夢の犬」(2009-03-21)

ヴィンテージドリーム「夢の犬」(2009-03-21)

 大きな犬・・・茶色のレトリバーがいた。僕は大きなマンションに住んでおり、そして大きな犬を飼い始めたばかりのようだ。犬の名前はなんとかと呼んでいたようだったが夢から覚めると忘れていた。

 僕と母と犬は一緒に帰宅した。そして母は花屋の怪しいセールスマンと玄関ホールで立ち話しており、僕と犬は先にエレベーターに乗ろうとした。怪しく光るセールスマンの目。顔がテレビドラマのようにアップになる。先に犬を乗せ

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私版 釣魚大全「針」

私版 釣魚大全「針」

千葉に転居した直後のことだったと思う。その頃はハイラックスサーフWキャブというトラックに乗っていた。それで千葉のあちこちに釣りに出かけた。釣りの対象魚はブラックバスやブルーギルだ。今では“特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律”違反だが、1970年代に千葉の野池やダム湖にはルアーフィッシングの先達たちが密放流して魚を増やした。だから千葉の野池やダム湖には今でも多くのブラックバスやブ

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弁天山

弁天山

人の記憶というのは何歳の頃からあるのだろう? なかには生まれたときの記憶があるという信じられない人もいる。僕の最初の記憶は、多分2歳の頃だと思う。生まれたのが福島県の平市(現在はいわき市)なのだが、その操車場らしき場所を歩いている記憶があるのだ。操車場を調べると常磐線のいわき貨物駅のようだ。何故、そのような場所に行ったのかは両親に聞いてもわからなかった。

その次は、福島市の土湯温泉で苦しまずに溺

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二式大艇

二式大艇

昭和16年8月、日米開戦が近づく日本海上を同年に完成したばかりの二式大艇(二式飛行艇)が横須賀基地からサイパン島に向けて飛行していた。迫る真珠湾攻撃のための試験飛行だった。

二式大艇は、レシプロエンジンを搭載した当時の航空機の中でも群を抜いて優秀なスペックを誇っていた。飛行速度は240ノット(時速465キロ)、航続距離は偵察時7400キロ以上、B29爆撃機と比較して30%も長い。20ミリ機関砲を

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「巨人」

「巨人」

しつこいようですが、僕は絵が下手なので、画力のある漫画家さんが好きです。そのひとりが石川球太(改名して石川球人)先生です。石川球太と言えば、僕は戸川幸夫さん原作による漫画や「牙王」などの動物漫画が印象に残っています。それに最近になって知ったのですが、石川さんのアシスタントをしていたのが「孤独のグルメ」や「父の暦」の谷口ジローさんなのですね。もの凄い画力ですよね。

石川さん(2018年78歳没)も

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新撰組

新撰組

僕はいつものように夢を見ていた。夢を見ていたというのは僕の主観であり、客観的に見れば、夢遊病であったり、認知症における徘徊であったりするのだが、夢の中に存在する今の時点では、いずれかはわからない。

僕は新撰組の土方歳三と歩いていた。僕はチューリップハットを被り、Gパンにダンガリーシャツという70年代のような格好をしていて、土方は襟なしのシャツに戎服(じゅうふく)を着こみ、そのうえにマントを羽織っ

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宇宙からの色

宇宙からの色

映画「カラー・アウト・オブ・スペース」を観ました。H・P・ラブクラフトの「宇宙からの色」(創元推理文庫ラブクラフト全集4巻に収録)を映画化したものです。

*映画の原作「宇宙からの色」が入った4巻がないのはトイレに常設されていて、撮るのを忘れてしまったのですね。

僕は、ラブクラフト全集(創元推理文庫版)を別巻含めてすべて持っていますが、そのほとんどを読んだことがないのです。僕は蒐集家であって読書

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妖の間(あやかしのま)終

妖の間(あやかしのま)終

理恵と翔太と真理は談笑しながら妖の間に戻ってきた。

「いい風呂だったね。湯船にお父さんがいるみたいだった」翔太が言うと理恵が笑った。少し寂しそうな笑顔だった。

「お前たちは20年前にお父さんとここに来たことを良く覚えているんだね。湯船の中で溺れたお前が見えなくなってさ、お父さんが慌てて必死になって、湯船の底に沈んでいたお前を助け出して…」

「うん、覚えてるよ…って、うろ覚えだけどね。あのとき

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