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「犬の油」


僕は洋物の小説を読むのが苦手です。登場人物の名前がカタカナだからです。例えばシャーロック・ホームズが、斜路句 補留無素みたいな名前だったら大丈夫なんですけどね。そういえば明治時代の探偵小説の翻案ものは、シャーロックホームズ→小室泰六というあて字でしたね。

苦手な西洋文学でも、ポー、ラブクラフト、ビアスだけは一応読みます。この3人は、作者自身にも興味がありますからね。そのほか有名な探偵小説は、ほとんど揃っていますが、ほとんど未読です。僕は読書嫌いの蒐集家なのです。

「犬の油」

アンブローズ・ピアスに「犬の油」という作品がある。主人公はボファービングスという男で、彼の父は犬を殺して油を作っていて、母は中絶される赤ん坊の始末を引き受けていた。

ビングスも両親の仕事を手伝っていた。犬の調達(おびき出して殺す)や、堕胎された赤ん坊の遺棄(川に捨てる)を手伝っていた。当時のモラルを差し引いたとしても、その特殊な仕事に人間の本能的な異常さが感じられる。

ある日、ビングスは誤って間引き子を犬の製油機に入れてしまう。「赤ん坊の骨も犬の骨も見分けはつくまい」と自分の行為を肯定しようとした。翌日、父は「極上の油ができた」と喜んでいた。話さずにはおられないと父に誤って赤ん坊の死体を製油釜に入れたことを伝えると、父母は喜んだ。それ以来、ビングスは犬をおびき出して殺す必要もなくなった。

つまり…赤ん坊の死体で油を作ることにしたのだった。

母は、捨てられた赤ん坊だけでなく、道を歩いている生きている子どもを狩り出した。なかには大人も両親の餌食になってしまった(これは立派な殺人ですよね)。しかし、いつまでも、そんなことは続けられるはずもない。市民会議が開かれて、両親は弾劾された。これ以上、街の人口に対する侵害があったときは断固たる処置がとられると言い渡された(え、そんなことで許されちゃうんだ…と思いますよね)。

帰宅した両親は互いに争い始めた。父は母を絞め殺すための縄、母は父を刺し殺すための短剣を持っていた。取っ組み合いの末に父は刺されるが、父は最後の力を振り絞って母を抱えて精油窯の中に落ちて絶命するのである。

「アンブローズ・ビアスについて」

アンブローズ・ビアス(アンブローズ・グウィネット・ビアス)は、1842年にアメリカ・オハイオ州メイグス郡ホース・ケープ・クリーク開拓部落に生まれた。13人兄弟の10番目である。

父はマーカス・オーリーリアス・ビアス、母はローラ・シャーウッド・ビアス。父母共に英国からの初期移民を先祖に持つ。南北戦争が始まると北軍に従軍。復員後の1871年29歳の時に金鉱成金の家の娘メアリー・エレン・ディ(通称モリー)と結婚。ふたりの間には長男ディ、次男リー、末娘のヘレンの3人が生まれる。1889年に長男ディ(16歳8ヶ月)が、一人の娘をめぐって恋敵とピストルで決闘して死亡してしまう。リーは、深酒による肺炎で死亡。27歳だった。

妻のモリーとも問題が起こる。モリーが、ある男性宛てに書いた手紙を読んだビアスは、モリーが不義を働いたのではないか?と疑ったのだ。1904年に離婚をしようとするが、その離婚が成立する直前にモリーは、心臓麻痺で死亡してしまう。

ビアスは、1913年にメキシコ革命を取材しようとして(そういう説もあるが実際は謎)アメリカ大陸を南下してメキシコに入ったが、その後、消息を絶ってしまう。ビアスは71歳だった。

ちなみにロバートロドリゲス&クェンティン・タランティーノ総指揮によるB級ホラー映画「フロム・ダスク・ティル・ドーン3」に、ビアスが登場して吸血鬼たちと戦うのだが、これは面白かった。ビアスも吸血鬼になってしまうのである。


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