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食べるマガジン【KUKUMU】

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「ひとくち、ひとやすみ。」がコンセプトの食べるnoteマガジン、KUKUMUです。4人のライターと、ひとりの編集者でお届けしています。毎週水曜日、夜21時ごろ更新予定。現在はお試… もっと読む
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記事一覧

無職、贅を尽くす。 #KUKUMU

無職、贅を尽くす。 #KUKUMU

ハレルヤ、無職の日々2022年9月末日、一身上の都合で会社を辞め、私は無職になりました。
義務教育を済ませ、高校を経て、四年制大学を出て就職する。ありがちな道をなんの変哲もないステップで歩んできた私。

そんな良くも悪くも浮き沈みのなかった私が、今や無職です。

咳をしても無職。風呂に入っても無職。庭先を掃いても無職。ああ、無職無職無職。なんとずっしりくる言葉でしょう。口にすると後ろめたくて、宙ぶ

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ポートランドでお酒といえばこの人!レッド・ギレンさんと語るクラフトビール。 #KUKUMU

ポートランドでお酒といえばこの人!レッド・ギレンさんと語るクラフトビール。 #KUKUMU

こんにちは。アメリカのオレゴン州・ポートランドに留学中のきむりさです。

留学中のポートランドは、「ビアバーナ(ビール天国)」というニックネームがあるほど、ビール好きにとって夢のような街。市内には、70以上のブルワリーがあります。

今回お話を聞いたのは、ポートランドで、お酒に関する日本人向けツアーやメディアを運営するレッド・ギレンさん。ポートランドにインスパイアされた飲食店を営む日本の方で、彼の

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この1杯で、明日も良い日になりますように #KUKUMU

この1杯で、明日も良い日になりますように #KUKUMU

18時00分49秒、よし、今日は最速記録かもしれない。私は、冷蔵庫のチルドからトップバリュの発泡酒を取り出し、ぷしゅっとプルタブを開けた。

幸運にも、在宅勤務が基本の会社に勤めている。残業はほぼゼロのホワイトな企業なので、よほどのことがなければ18時に退勤することができるのだ。やることがない平日は、退勤から何秒で飲酒ができるかのタイムアタックを開催している。これがあると、ラスト30分の集中力もグ

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ハッピーごはんの現在地 #KUKUMU

ハッピーごはんの現在地 #KUKUMU

20代。かつて独身だった頃。私にとっての「ごほうびメシ」は、どこぞのレストランバーで飲む香りのよいクラフトビール。キリっと冷えた辛口の白ワイン。おいしいお酒にマッチする小洒落た前菜。スペインの生ハム ハモン・セラーノ、白カビチーズのブリア・サヴァラン、枝付きレーズン。それに豚レバーペースト……。

横文字ばかりの、正体がイマイチ判然としない食べものが好きだった。ちょっと背伸びが必要な雰囲気や、見知

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「どら焼き」を食べたくなる映画のこと。#KUKUMU

「どら焼き」を食べたくなる映画のこと。#KUKUMU

私はどら焼きが好きだ。
いや、きちんと正確に言おう。どら焼きは、好きになろうと決めて好きになった。私にとって特別な食べものだ。

きっかけは、今から3年前。「好きな食べものについて言葉を尽くして情熱的に語れるようになったら、人生ゆたかだろうな」とふと思い立ったことだった。

なぜ好きなのか、どう好きなのかを明文化してみよう。そうすればきっと、その食べものをもっと好きになるはず。仕事で必要な自己紹介

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音大・デザイン会社を経て28歳で “食”に決めた日本人女性が、ポートランドで行列のできるスイーツ店を開くまで。 #KUKUMU

音大・デザイン会社を経て28歳で “食”に決めた日本人女性が、ポートランドで行列のできるスイーツ店を開くまで。 #KUKUMU

「Keep Portland Weird!」
へんてこなポートランドであり続けよう!がスローガンの街、アメリカ・ポートランドには面白い周り道をして、自分の好きなことに熱中している人が多くいます。その中の1人が、スイーツ店『Mio’s Delectables』オーナー・浅香未央(あさか みお)さん。

彼女のつくるお菓子は今、ポートランドで大人気。この街最大級の野菜市、ポートランド州立大学の敷地内で

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家系キャンディ #KUKUMU

家系キャンディ #KUKUMU

人生で一番食べているお菓子は、不二家のポップキャンディだと思う。チャランポランだった4年間の大学生活で、少なくとも100本は食べているはずだ。特別に好きという訳ではなく、自分で買ったことさえ一度もない。では甘い物をあまり好まない私が、なぜそれほどに砂糖の塊を摂取していたのか。それは、一軒のラーメン屋のせいなのである。

通っていた大学の東門から徒歩3分、私には行きつけのラーメン屋があった。「武蔵家

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短編小説「口笛を吹けば」 #KUKUMU

短編小説「口笛を吹けば」 #KUKUMU

 おつかいからの帰り道、コウイチはうれしいやら、情けないやら、複雑な気分になっていた。上着のポケットの中で、銀紙に包まれたキャラメルを転がす。

 良いことがあった。商店街で、同じクラスのスミレにばったりと会ったのだ。4年1組の中だったらスミレが一番かわいいと、コウイチはひそかに思っている。
 さらにうれしいことに、そんなスミレがキャラメルをひとつ分けてくれたのだ。

 それなのに。

 は

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短編小説「闇鍋風鍋」#KUKUMU

短編小説「闇鍋風鍋」#KUKUMU

「闇鍋やろうぜ」と突飛なことを言い出したのは、アキだった。
大学の食堂でテーブルを囲んで、同級生のいつもの四人でカツカレーをかきこんでいたときのことだ。昼休み前の授業の空き時間、食堂はまだ人もまばらで、アキの弾む声がよく通る。ぼくが顔を上げると、サトキもソウも、もぐもぐ口を動かしながら、怪訝な顔をしていた。アキだけが、にやにやしている。

一瞬の沈黙。サトキがゆっくり首を横に振った。
「パス」

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短編小説「左ひとさし指から生えてきたもの」 #KUKUMU

短編小説「左ひとさし指から生えてきたもの」 #KUKUMU

11月中旬のことである。窓から差し込むやわらかな日のひかりに照らされて目が覚めた。

「いま、何時かな」

毛布にくるまり目をつむったまま、左腕を上下に動かしてスマホをさがす。小指にスマホらしきものがコツンと触れた。指先でたぐりよせようとしたそのとき。

ぬぬ。

ひとさし指の先に、なにかひっかかった。不思議に思ったものの、寝起きでぼんやりした脳が「気のせいだろう」と判断した。

スマホをむんずと

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アメリカで大ヒット中の発酵飲料 “紅茶キノコ(KOMBUCHA)”10種類を飲み比べてみた #KUKUMU

アメリカで大ヒット中の発酵飲料 “紅茶キノコ(KOMBUCHA)”10種類を飲み比べてみた #KUKUMU

コンブチャ。私はアメリカ・ポートランドに来るまで「昆布入りのお茶」だと思っていた。

おじいちゃんとおばあちゃんが縁側に座り、「じいさん、昆布茶は一杯いかがかね」「そうだねえ。梅の昆布茶が飲みたいなあ。」など、ほがらかな会話の中で楽しむようなお茶 ……。

そんな妄想は、すぐに打ち砕かれることになる。

わたしが「もうひとつのコンブチャ」を知ったのは、留学してすぐのこと。地域のスーパーやマーケット

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【15年ぶり】きくらげが脇役?ハァ?舐めないでいただきたい!【食べ物しらべ】#KUKUMU

【15年ぶり】きくらげが脇役?ハァ?舐めないでいただきたい!【食べ物しらべ】#KUKUMU

小学校は嫌いだったが、2年生の学習発表会はちょっと思い出に残っている。

あのとき、私たちの学年は「食べ物調べ」をやらされた。好きな食べ物、嫌いな食べ物、なんでもいいので調査対象を決め、まとめたものを発表するのだ。

トマト、ピーマン、じゃがいも、卵などをテーマにする子が多いなか、当時の私が選んだのはきくらげ。

学習発表会当日に配られたしおり(たしかオレンジ色)には、誰がどの教室で何時から何のテ

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いつもと違う朝に、マッシュルーム味噌汁を。 #KUKUMU

いつもと違う朝に、マッシュルーム味噌汁を。 #KUKUMU

窓から射し込む朝日にも、つくづく秋を感じるようになった。

秋の光に満たされた私の部屋。夏の突き刺すような強い日差しではなく、透明感のある清々しい光。暑気はあまり感じない。
本やら置き物やらで狭苦しいけれど、澄んだ静かな光に包まれて、どこか整頓されて見える気がする。そのせいか、寒々しくも見える。

実際、ちょっと寒い。
毛布を首元まで引き上げ、かたわらで寝ている猫を抱き寄せる。猫は一瞬迷惑そう

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目指すは「うまいおいなりさんをつくる、イイ女」 #KUKUMU

目指すは「うまいおいなりさんをつくる、イイ女」 #KUKUMU

油あげと疎遠だった、あのころ。

年を重ねてよかったと思うことのひとつに、「油あげの魅力を知れたこと」が挙げられる。

20代のころ。私と油あげの関係はとかく寒々しいものだった。なにしろ油あげの容貌は質素すぎる。ボリューム皆無。シズル感もイマイチ。おまけに「油ぬき」なる謎の調理工程が料理初心者にやさしくない。見た感じパッとしないクセに、ちょっと手間をかけさせるところが、分不相応というか、ふてぶてし

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