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超短編戯曲・小説

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超短編戯曲・小説を不定期に書き綴ります。
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2021年10月の記事一覧

【超短編戯曲】少年と海(300字)

【超短編戯曲】少年と海(300字)

少年は海を見たことがなかった
少年は母に尋ねた

少年「ねぇ、母さん海ってどんなもの?」

母「すごく大きいものだよ。」

少年「終わりはないの?」

母「どんなものにも終わりはあるさ。」

少年「他には?」

母「そうだね。しょっぱいものだね。」

少年「おっきいけど終わりがあって、しょっぱいものが海なの?」

母「そうだね。」

少年「なんだ、人生とおんなじだね。」

母「そうかもしれないね。

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【超短編小説】ころがるいし(300字)

【超短編小説】ころがるいし(300字)

石は転がり続けていた。

雨が振ろうが、風が吹こうが、毎日転がり続けていた。

だが、それは自分で考えての行動ではなく、ただ自然に身をまかせているだけであった。

ある日、石は思った。

「自分は何故転がり続けるのだろう?」

そう思った時、石は再び転がりたいと思える日まで、転がることを止める決心をした。

雨が振ろうが、風が吹こうが、石は微動だにしなかった。

しかし、自然に身をまかせて動かされ

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【猫と帽子の創作】我輩は猫である(300字)

【猫と帽子の創作】我輩は猫である(300字)

吾輩は猫である。名前はまだない。

ずいぶん経ったが、未だに名前はない。

気分転換に、色々試してみることにした。

人間はよくオシャレをする。

最近だと、眼鏡か帽子だろう。

真似をしてみよう。

人間は、吾輩たちの真似をよくする。

こちらも真似をしてもいいだろう。

まず眼鏡。

悪くない。

悪くないが、耳が上にあるせいか、耳に眼鏡をかけられない。

ずっと上を向いていなければいけない。

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【超短編小説】劇作家の苦悩(300字)

【超短編小説】劇作家の苦悩(300字)

劇作家は悩んでいた。

台本がまだ1ページもできていないのである。

逃げようか?

駄目だ。家のローンも残っている。

書くか?

それができればこんなに悩むことはない。

私を苦しめているものはなんだ?

昔はこんなに苦労しなくても書くことができた。

たとえ朝まで飲んでいても、次の稽古までには台本ができた。

そうだ、明日の稽古の読み合わせを延期すればいいではないか。

駄目だ。初日まで

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【超短編戯曲】秋休みくん リターンズ(300字)

【超短編戯曲】秋休みくん リターンズ(300字)

春休み「ああ、毎日まだ暑いのに、夏休みくんはどうして楽しそうなの?」

夏休み「それは、暑いからさ。」

冬休み「いいな、僕なんていつも寒い思いをしてるよ。」

夏休み「もっと季節をエンジョイしちゃいなよ、ウィンターヴァケーション。」

秋休み「休みがあるだけマシだよ。」

夏休み「君たち、そんなことで悩んでないで、もっと輝こうじゃないか。」

秋休み「どうして?」

夏休み「だって、太陽がまぶし

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【超短編戯曲】秋休みくん(300字)

【超短編戯曲】秋休みくん(300字)

春休み「もうすぐ冬休みだね。」

冬休み「楽しみだ。」

秋休み「あの前々から思ってたんですが、休みを少し分けていただけないでしょうか?」

冬休み「秋は過ごしやすいから。」

秋休み「そんなこと言ったら、春休みはどうなるんですか? 私に引けをとらないくらい過ごしやすいじゃないですか?」

春休み「確かに。」

秋休み「でしょ?」

春休み「夏休みくんはどう思う?」

夏休み「いいんじゃん、どっち

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【超短編戯曲】猫の手も借りたい(300字)

【超短編戯曲】猫の手も借りたい(300字)

助手「先生、ついに猫の手を借りる実験に成功しました。」

先生「実験が成功するとは、犬も歩けば棒に当たるだな。」

助手「そんな実験は犬も食わぬと言ってた、犬猿の仲の研究室の奴らいい気味だ。」

先生「そんなもの負け犬の遠吠え。」

助手「これで私も一犬前としてやっていけます。」

先生「この研究室の成果は私の手柄だ。犬が西向きゃ尾は東。尾を振る犬は叩かれずと言う、ここはひとつ。」

助手「私はこ

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【超短編戯曲】魚屋殺人事件 最終章(300字)

【超短編戯曲】魚屋殺人事件 最終章(300字)

魚屋が脱走 追いつめる警部と刑事

刑事「もう網にかかった魚だ。」

魚屋「来るんじゃねえ。雑魚が。」

警部「ゴマメの歯ぎしりだな。」

刑事「ここは僕が。大船に乗ったつもりでいて下さい。」

魚屋「ちくしょう。」

警部「あぶない。」

飛び掛かる魚屋 警部が身代わりとなる

刑事「警部。」

警部「まさかサバ折りを仕掛けてくるとは。」

魚屋「エビでタイを釣るってやつだ。魚屋をなめるな。」

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【超短編戯曲】魚屋殺人事件 ビヨンド(300字)

【超短編戯曲】魚屋殺人事件 ビヨンド(300字)

警部「もうまな板の上の鯉だ、観念しろ。」

刑事「どうして他の魚屋を捌いたんだ。」

魚屋「にくかったんです。」

刑事「憎かったのか。」

魚屋「いえ、あいつ魚屋なのに肉を買ったことがどうしても許せなかったんです。」

警部「魚屋よ。しばらくは生簀に入って反省するんだな。」

魚屋「目からうろこでございます。」

刑事「さすが腐っても鯛。」

警部「よし水揚げしろ。」

刑事「へい。」

連行さ

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【超短編戯曲】魚屋殺人事件(300字)

【超短編戯曲】魚屋殺人事件(300字)

刑事「大変です。魚屋の親父が殺されました。」

警部「『ぎょ』とでも言って欲しいのか。で、凶器はなんだ?」

刑事「はい。光り物です。」

警部「ほう、鰯かね、鯵かね。」

刑事「それが、鯖なんです。」

警部「なに、鯖だって、それはやっかいだな。」

刑事「どうしてです?」

警部「犯行時間をサバを読まれてはかなわんからなあ。」

刑事「しかし、目撃者の証言がありまして、どうやら隣町の魚屋が出入

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【超短編小説】消える魔球(300字)

【超短編小説】消える魔球(300字)

監督は悩んでいた。
泥沼の20連敗。
これ以上の連敗は許されない。

そこに一人の投手が現れた。

投手「監督、ついに魔球が完成しました。」
監督「待っていたぞ。早速、見せておくれ。」
投手「魔球は3つあります。1つ目は200キロの剛速球です。」
監督「それは凄い。」
投手「ただ問題がありまして、この球を受けられる捕手がいません。」
監督「仕方ない。2つ目は?」
投手「次は爆発する魔球です。これま

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【超短編小説】嘘つきは泥棒のはじまり(300字)

【超短編小説】嘘つきは泥棒のはじまり(300字)

「嘘つきは泥棒のはじまり」

そう母から教えられた男は、大人になっていた。

「じゃあ、泥棒に行ってきます」

男は出かけようとした時、母に呼び止められた。

「どうして泥棒をするんだい?」

母は泣きながら訪ねた。

「だって、嘘つきは泥棒のはじまりだって言ったじゃないか」

と返す男に

「そりゃ言ったけど、嘘つきが泥棒になってしまうなら、この世は泥棒だらけになってしまうよ」

と言った。

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