古賀慎一郎

ちあきなおみ最後のマネージャー  「ちあきなおみ~歌姫伝説~」 歌い継がれてゆく歌の…

古賀慎一郎

ちあきなおみ最後のマネージャー  「ちあきなおみ~歌姫伝説~」 歌い継がれてゆく歌のように語り継いでまいります。近刊「ちあきなおみ沈黙の理由」(新潮社)

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  • ちあきなおみ 歌姫伝説

    ちあきなおみ~歌姫伝説~をまとめました。

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ちあきなおみ~歌姫伝説~    

はじめに  今年、ちあきなおみが歌手活動を停止してから、三十年という年月が経過する。それは、最愛の伴侶であり、マネージャー、プロデューサーでもあった郷鍈治が逝去…

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ちあきなおみ特番

2月17日(金) 「表現者ちあきなおみ ジャンルを超えた魅惑の歌声」放送 是非ご覧ください BS―TBS夜9時~10時54分 https://bs.tbs.co.jp/music/chiakinaomi2023/

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ちあきなおみ~歌姫伝説~ あとがきにかえて

 よく、ふと思い出すひとつの光景がある。それは本番前、ちあきなおみのステージドレスの背中上部のホックを私が留める姿だ。 「ちあき君が呼んでるぞ。君の大事な仕事だ…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~最終回 ラストライブ さようなら ちあきなおみ

~それぞれの愛~ コンサート 〔百花繚乱〕 (作詞・水谷啓二 作曲・倉田信雄)  オーバーチュアが静まりドラムがカウントを取ると、ステージ両サイドからのサスペンシ…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~41 最後のステージへ

 歌手・ちあきなおみの生涯を顧みれば、一九六九(昭和四四)年にメジャーシーンにその姿をあらわし、アイドル路線を経て、一九七二(昭和四七)年に歌謡界の頂点に立つ。…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~40 悲しみの果てに

「裸の心」の旋律に乗せ、私のちあきなおみへの恋心は、現在と過去の地平を彷徨っていたようであるが、しかしそれはほんの一瞬の夢であったようにも感じた。  ふと我に返…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~39 恋しぐれ

「おい、はじまるぞ」  空席を隔てて横にいたゴッド(友人)が、私を促すように声を掛けてきた。  日本ガイシホールに集う観客は、皆一様に、それぞれの世界をあいみょん…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~38 歌手とは・後篇

前回からのつづき  また、ちあきなおみは、「譜面(楽譜)が読めない歌手は歌手ではない」と語ったが、これはどういう意味なのだろうか、と私は考えてみる。  その言葉…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~37 歌手とは・前篇

 規制を飛び越え、のっけからオールスタンディング状態となった客席に、薄暗がりのステージから天空に突き抜けるような歌声が響き渡ってくる。  視線の先にはっきりと映…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~36 バックステージ

 二〇二〇(令和二)年十二月九日夕刻、私とゴッド(友人)の目的地である日本ガイシホールには、歌あるほうへと、静かにオーディエンスが集まってきていた。その光景を目…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~35 復帰なき理由・後篇

 前回からのつづき  そしてもうひとつ、ちあきなおみ「復帰なき理由」として私が思い浮かぶのは、歌謡界の時流というものである。  当時(九〇年代)日本は、〝混沌と狂…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~34 復帰なき理由・中篇

 おそらく、ちあきなおみの「復帰なき理由」のひとつに、文豪・芥川龍之介の自死を重ね合わせて見ているのは私だけであろう。  だが、ちあきなおみが断歌を決意する局面…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~33 復帰なき理由・前篇

「ちあきなおみという歌手が、もし歌いつづけていたら、今どのようになっていただろうな・・・・」  ぼんやりと思いを巡らせる私を現実世界に引きもどそうと、ゴッド(友…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~32 断歌という覚悟

 今後、ちあきなおみの芸能界復帰はあるのであろうか。  時折、なんの根拠もなく【ちあきなおみ復帰】とか【復帰か?】などと、ファン心理を翻弄するかのようなタイトル…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~31 ちあきなおみロス

 二〇二〇(令和二)年十二月九日午後、私はうららかな冬日を満面に浴びながら、自宅近くにある千種公園へと歩を進めていた。昨夜はファンタスティックな昂ぶりを覚え睡眠…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~30 ただ歌のために

 一九八一(昭和五六)年、ちあきなおみはレコード会社をビクターインビテーションに移し、これまでとははっきりと方向性を変え、伝説を積み上げてゆく。  真摯にじっく…

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ちあきなおみ~歌姫伝説~    

ちあきなおみ~歌姫伝説~    

はじめに

 今年、ちあきなおみが歌手活動を停止してから、三十年という年月が経過する。それは、最愛の伴侶であり、マネージャー、プロデューサーでもあった郷鍈治が逝去してからの時間の経過でもある。
 一九九一(平成三)年、私は郷鍈治の手によって、ちあきなおみの現場マネージャー兼付き人として社会に生を受けた。その翌年、郷鍈治は他界し、その後七年間、私はちあきなおみの下ですごした。
 二〇二〇(令和二)年

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ちあきなおみ特番

ちあきなおみ特番

2月17日(金)
「表現者ちあきなおみ ジャンルを超えた魅惑の歌声」放送
是非ご覧ください
BS―TBS夜9時~10時54分
https://bs.tbs.co.jp/music/chiakinaomi2023/

ちあきなおみ~歌姫伝説~ あとがきにかえて

ちあきなおみ~歌姫伝説~ あとがきにかえて

 よく、ふと思い出すひとつの光景がある。それは本番前、ちあきなおみのステージドレスの背中上部のホックを私が留める姿だ。
「ちあき君が呼んでるぞ。君の大事な仕事だ」
 いつもそう言って私を楽屋へと促したのは、松原史明だった。
 楽屋へ入ると、全身鏡前でその人が待っている。
 私は微かに震える手でホックを留める。と、その人は大きく息を吐き、ちあきなおみとなるのだ。
 本番終了後は、同様にそのホックを外

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ちあきなおみ~歌姫伝説~最終回 ラストライブ さようなら ちあきなおみ

ちあきなおみ~歌姫伝説~最終回 ラストライブ さようなら ちあきなおみ

~それぞれの愛~ コンサート

〔百花繚乱〕
(作詞・水谷啓二 作曲・倉田信雄)
 オーバーチュアが静まりドラムがカウントを取ると、ステージ両サイドからのサスペンションライトがステージ中央で交差し、おぼろげにちあきなおみの姿を照射する。前奏に乗って徐々に両腕を下から横に広げてゆくと、脇下から手首下まで仕掛けられた裾が孔雀の羽のように全開となる。そのシルエットからは一線級歌手のオーラが漂っている。

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ちあきなおみ~歌姫伝説~41 最後のステージへ

ちあきなおみ~歌姫伝説~41 最後のステージへ

 歌手・ちあきなおみの生涯を顧みれば、一九六九(昭和四四)年にメジャーシーンにその姿をあらわし、アイドル路線を経て、一九七二(昭和四七)年に歌謡界の頂点に立つ。その後、ドラマチック歌謡路線がつづき、船村演歌で歌手としての低力を見せつけるも、歌の方向性の違いから、郷鍈治との邂逅を機に、業界のあらゆる障壁に屈することなく、メディアから姿を消し独自の路線を進んでゆく。ジャズ、シャンソン、ファド、日本の名

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ちあきなおみ~歌姫伝説~40 悲しみの果てに

ちあきなおみ~歌姫伝説~40 悲しみの果てに

「裸の心」の旋律に乗せ、私のちあきなおみへの恋心は、現在と過去の地平を彷徨っていたようであるが、しかしそれはほんの一瞬の夢であったようにも感じた。
 ふと我に返り視界がクリアになると、頭上からのサスペンションライトだけがあいみょんを白み染めて射ち、ステージ上の淡い光の円の中、闇夜の霞におぼろげに浮かぶ花のように、抑え難き溢れる想いを自らの恋で彩る歌手がそこにいた。その、微かに眼で捉えることのできる

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ちあきなおみ~歌姫伝説~39 恋しぐれ

ちあきなおみ~歌姫伝説~39 恋しぐれ

「おい、はじまるぞ」
 空席を隔てて横にいたゴッド(友人)が、私を促すように声を掛けてきた。
 日本ガイシホールに集う観客は、皆一様に、それぞれの世界をあいみょんと構築しているように見受けられた。その歌には、聴き手が埋めるべく空白が十分に残されている。この歌手も、自らが自らに与えた歌詞やメロディには収まらない呪術師であろう。

 「裸の心」のピアノイントロが流れていた。
 馴染みの喫茶店でこの歌を

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ちあきなおみ~歌姫伝説~38 歌手とは・後篇

ちあきなおみ~歌姫伝説~38 歌手とは・後篇

前回からのつづき

 また、ちあきなおみは、「譜面(楽譜)が読めない歌手は歌手ではない」と語ったが、これはどういう意味なのだろうか、と私は考えてみる。
 その言葉どおり、ちあきなおみは歌う前には常に譜面を凝視し、歌詞はノートに自ら書き込み読み返していた。それはドラマの収録現場でも変わらず、カメラリハーサル、ドライリハーサル、ランスルー、そして本番直前に至るまで、この場では譜面であるところの台本を離

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ちあきなおみ~歌姫伝説~37 歌手とは・前篇

ちあきなおみ~歌姫伝説~37 歌手とは・前篇

 規制を飛び越え、のっけからオールスタンディング状態となった客席に、薄暗がりのステージから天空に突き抜けるような歌声が響き渡ってくる。
 視線の先にはっきりと映り、鼓膜を圧してくるのは、私を郷愁へ導いてゆくひとつのシルエットだった。その中には、幾人ものフォークシンガー、ロックスター、そして、伝説の歌姫が幻影のように付帯して見える。と、四方からのライトがステージセンターを照射すると、あいみょんがギタ

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ちあきなおみ~歌姫伝説~36 バックステージ

ちあきなおみ~歌姫伝説~36 バックステージ

 二〇二〇(令和二)年十二月九日夕刻、私とゴッド(友人)の目的地である日本ガイシホールには、歌あるほうへと、静かにオーディエンスが集まってきていた。その光景を目にすると、コロナ渦にあるこのご時世、言いようのない想いが込み上げてくるような気がした。

 日本ガイシホールは、プロスポーツ興行をはじめ、国内外のアーティストのコンサート、商品展示会などが開催される、名古屋最大の体育館である。収容人数は一万

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ちあきなおみ~歌姫伝説~35 復帰なき理由・後篇

ちあきなおみ~歌姫伝説~35 復帰なき理由・後篇

 前回からのつづき

 そしてもうひとつ、ちあきなおみ「復帰なき理由」として私が思い浮かぶのは、歌謡界の時流というものである。
 当時(九〇年代)日本は、〝混沌と狂乱の時代〟と呼ばれた八〇年代から、バブル経済が衰退の一途を辿り、〝ジャパン・アズ・ナンバーワン〟という言葉に象徴された未曾有の好景気からデフレ時代へと突入していた。
 そんな時代模様の中、歌謡界では小室哲哉サウンドを筆頭として、音楽はア

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ちあきなおみ~歌姫伝説~34 復帰なき理由・中篇

ちあきなおみ~歌姫伝説~34 復帰なき理由・中篇

 おそらく、ちあきなおみの「復帰なき理由」のひとつに、文豪・芥川龍之介の自死を重ね合わせて見ているのは私だけであろう。
 だが、ちあきなおみが断歌を決意する局面において、〝ぼんやりとした不安〟がなかったとは言い切れまい、と思うのである。
 芥川龍之介氏は明治・大正・昭和を生きた小説家であり、その自死の原因には諸説あるが、私なりの見解としては、文学に対する真摯な姿勢というものである。詳しくは本執筆の

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ちあきなおみ~歌姫伝説~33 復帰なき理由・前篇

ちあきなおみ~歌姫伝説~33 復帰なき理由・前篇

「ちあきなおみという歌手が、もし歌いつづけていたら、今どのようになっていただろうな・・・・」

 ぼんやりと思いを巡らせる私を現実世界に引きもどそうと、ゴッド(友人)が敢えて声に出して変化球を投げ込んできた。

「もし、などということには答えられないな。ただ・・・・、今の歌謡界が変わることはなかったにしても、なにか別の、ちあきなおみという新しい潮流を示しただろうと思う。そして、その潮流に寄り添って

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ちあきなおみ~歌姫伝説~32 断歌という覚悟

ちあきなおみ~歌姫伝説~32 断歌という覚悟

 今後、ちあきなおみの芸能界復帰はあるのであろうか。

 時折、なんの根拠もなく【ちあきなおみ復帰】とか【復帰か?】などと、ファン心理を翻弄するかのようなタイトル記事がタブロイド紙などに太文字で踊ることがあるが、こういった芸能ジャーナリズムの姿勢には、私は些か白々しさを感じる。このようなファンへの無責任な匂わせ、煽りさえも、エンターテインメントの世界とするならば、それは大きな間違いであり、ただ適当

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ちあきなおみ~歌姫伝説~31 ちあきなおみロス

ちあきなおみ~歌姫伝説~31 ちあきなおみロス

 二〇二〇(令和二)年十二月九日午後、私はうららかな冬日を満面に浴びながら、自宅近くにある千種公園へと歩を進めていた。昨夜はファンタスティックな昂ぶりを覚え睡眠不足ということもあり、私の歩きぶりは緩慢にして重かった。
 住宅街を抜け公園が迫ってくると、歩きしだいに視界が広がり頭も澄んできて、いくらか足取りも軽くなってくるような気がしてくる。私は子供の頃に返り、タップを踏むように軽快にステップを進め

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ちあきなおみ~歌姫伝説~30 ただ歌のために

ちあきなおみ~歌姫伝説~30 ただ歌のために

 一九八一(昭和五六)年、ちあきなおみはレコード会社をビクターインビテーションに移し、これまでとははっきりと方向性を変え、伝説を積み上げてゆく。
 真摯にじっくりと好きな歌に取り組み、アルバム歌手として、アーティストとしての趣を見せながら、ちあきなおみ路線を劇的に繋いでゆくのである。そして一九八八(昭和六一)年、レコード会社をテイチクに移籍させるまで、ビクターから四枚のアルバムを発表している。
 

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