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もしも明日いのちが尽きても
娘が家を出て、3か月が過ぎた。
「今日の夜 時間ある?」
ほんのひと言入ったLINEを始まりに、娘に電話した。メッセージアプリでは「おはよう」と朝の挨拶をしたり、体調を尋ねたり、1日のうちどこかでやりとりはしていたけれど、声を聞くのは久しぶりだった。
途中スピーカーに切り替えて、夫も交えて3人で話す。といって、私が促すまで、夫は娘の声を聞く一方だ。
こういう家族団らんのおしゃべりも、なんだ
傘の思い出(その2)
初めて買ってもらった傘に、懐かしい、優しい記憶を遺したままだった私は、同じくうさこちゃんの絵柄がある傘を、娘のために用意した。私の初めての傘よりさらに短い、幼児用の小さな傘をさした娘と、幼稚園へ一緒に登園した。
小学校へは電車通学をしたため、駅のホームや電車に乗った場面での傘の扱い方を教えた。周囲の方に迷惑をかけないよう教えたけれど、ほんの6、7歳の子が周りに気を配り、考えてよく振る舞ってい
傘の思い出(その1)
私が子どもだった頃、駅前の商店街は、まだそれなりに賑やかな場所だった。
車で乗りつけるような大型のショッピングセンターはなく、あっても小さなスーパーマーケットくらい。商店街は「シャッター街」と呼ばれるような閑散とした雰囲気はせず、人や自転車が行き交う場所だった。雑然としながらも、アーケードの下は活気があったことをおぼろげに覚えている。
そのアーケードの入り口のあたりに、傘の専門店があった。そ
「船乗り猫」の旅立ち
ついに娘が旅立った。
進学のために、家を離れ、大学内にある学生寮に住むことになったのだ。
合格発表の後、指定された入寮の日まで期間は短く、慌ただしく荷物をととのえて出発した。
インターネットで注文した日用品ひと箱と、寝具一式。家から送り出した段ボール箱3箱とスーツケース2個の荷物。同じ寮の新入生では少ない方だったらしい。夜までには片付けもひと通り終えたそうだ。
娘の好みで、コンパクトな暮