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エッセイを書きたかったけど、書けずに、行き着いた場所。

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2023年6月の記事一覧

データがふっとんで、友に感謝した。

データがふっとんで、友に感謝した。

 大切に書いていた下書きが、ふっとんだ。バックアップの復旧を期待したがダメだった。

 こんなにも便利が進化した時代なんだから、消えたデータくらいスグに復活させなさいよ!

 ウチは画面に向かって罵った。でも、小さく飛び出た言葉は、なんの力も発揮しなかった。

 こういうことがたまにある。旅行に行ったとき、飛行機のなかでカバンが激しく揺れたのか、iPadが永久ロックされるという事態に見舞われたこと

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支える者こそ、元気であれ!

支える者こそ、元気であれ!

友達の子どもを預かっている時、子どもが熱を出したことがある。すぐにでも家に帰してあげたかったが、友達は3日間の出張。親も介護でしばらく家を離れているなどなど、さまざまな状況が重なり、ウチが面倒をみなくてはならなくなった。

おかげでウチのスケジュールはグチャグチャになった。友達との付き合いも長いし、家も近所だから、のんきに「預かるよー」なんてことを言ってしまったが、こうなってくるとワケが違う。子ど

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もったいないオバケ。

もったいないオバケ。

小さい頃、我が家には「もったいないオバケ」というのがいた。

いや、「いた」というよりも「いるよ」と脅かされてきた。その言葉を使いだしたのは母で、少食で好き嫌いが激しかったウチを、どうにかしたかったんだと思う。

「あ! そんなに食べ物のこしてたら、もったいないオバケが出てくるよぉ?」

怪談話でもするような口調で、母はウチのことを脅かしてきた。ウチは、まんまと肝を冷やす。

「そ、そんなのウソで

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タバコと母。

朝、壁の向こうから女性の咳の音がした。犬が吠えたような咳で、ドキリとした。頭の中で「タバコ吸ってるからだよ」と呟く。ベッドから起き上がり、室内に干された洗濯物を畳む。柔軟剤のいい匂い。そして、歯を磨きをしに、洗面台へと向かう。

もし、タバコを吸っていなかったら咳は出なかったのだろうか……。

歯磨きをしながら考えた。脳裏には、母の豪快な笑顔が浮かぶ。鏡の向こう側にいる自分の歯は、思った以上に黄ば

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人は見てる。

人は見てる。

「30代になるとスッキリしませんか?」

髪を桃色に染めた女が、ミツバチみたいに騒がしくしゃべった。私は心の中で「別に」と答える。声にはしない。そうして、ただ微笑みを浮かべながら頷くだけ。

「あたしの場合、20代の頃って、師匠のアシスタントばっかりなんですよ。もちろん経験も少ないわけだから、当たり前なんですけど。だから、ツラいじゃないですか?」

「ああ」

わけのわからない返事をする私。正直、

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あなたは、鋭い?

あなたは、鋭い?

ウチは「にぶい」らしい。

先日、先輩にそう言われた。

「お前、にぶいな」って。

ウチに、そんなつもりは一切なかった。仕事も自分なりに頑張っていた。先輩に言われた通りに動いていたし、「出来てないぞ!」と叫ばれても、元気よく「はい!」と答えていた。

むしろ活気ある若者、くらいの気持ちでいたのに。

ウチは「にぶい」らしい。

別に「にぶい」ことはいい。ただ、自分に「にぶい」自覚がないことが心配

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小さなシット。

小さなシット。

「自分の気持ちを、うまく言葉にできないんだよね」

 ウチと同じことを思っている人がいた。
 その人は、ヘラヘラと口を開けて笑っていた。

「でも、今、言葉にできているのは、自分の気持ちじゃないの?」

化粧をしないことをポリシーとしている友人が、柔らかな口調で痛いところを突く。ウチはヒュッと心臓が持ち上がるような気分になったが、じっと二人の会話に耳をかたむけた。

「そうなんだけど、言葉にできて

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ビビるなよ、わたし!

ビビるなよ、わたし!

ビビるなよ、わたし!

これが最近の自分のテーマだ。なにかにつけて頭の中で呟いている。ついつい自分で自分を縛ってしまう時には、やけに大きく叫んでる。

たとえば文章を書くとき。

これは、もう、しょっちゅう叫ぶ。書きたくて書きたくてたまらないし、どんどんアイディアが生まれてくるはずなのに、いざ書き出そうと思ったら手が進まない。たのしい時間なのに。もっと突き進めばいいのに。

自分の見られ方を気にし

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習慣の自然淘汰。

習慣の自然淘汰。

ウチにはいくつか朝の習慣がある。

目覚めてすることといえば歯磨きだ。

「朝の歯磨きが習慣?」と疑問に思わないで欲しい。ウチにとっては立派な習慣なのだ。なぜなら朝の歯磨きは幼少期から続いているモノではなく、後天的に身についたものだから。

それまでのウチは、朝ご飯を食べてから歯を磨く、というルーティンで朝を過ごしていた。それが高校生のときに変化した。

「朝の口腔内って、お尻の穴と同じくらい汚い

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旅に求めるもの。

旅に求めるもの。

「6号車の、14の……」

新幹線に乗り込みながら呟いた。もう切符はポケットの中にあるため、何度も呟いて自分の席を頭に刻み込む。誰かと電話している時と同じくらいの声の大きさだった。

席を見つけると、隣には髪の毛がブロンズの女性が座っていた。目の色が青く、眉毛が低い位置にある。半袖の下から伸びる腕には、金色に染まった産毛が生え揃っていた。

彼女はウチをみると、足元にあった大きなリュックを自分が座

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雨の日。

雨の日。

雨が降る。コンクリートに水が当たる。パチパチ鳴る。炭酸みたいな音だ。傘をささなかったから聞こえてきた音だと思った。

ビニール傘をさすと、ポツポツいう。その音も悪くない。でも、この日の帰りは傘をささずに歩いた。一番好きなのは、木々の葉から滴るジョロロという水の音かな。

街頭に照らされた雨を見るのが好き。だから上を見る。すると口の中に雨水が入ってくる。雨水って汚いんだよ、と恋人が言っていたのを思い

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時間がないと呟いたのに。

時間がないと呟いたのに。

「時間がない」と呟く。時計をみると、もう夜の11時を回っていた。それなのにソファから動くことが出来ずにスマホをいじっている。台所には食器の山。さっきまで客人がいた。疲れてしまった。我が家にいるのに、疲れるだなんてバカバカしい。洗う気力がなかった。そして、ソファでダラダラする。明日は昼から仕事だから、朝が早いわけじゃない。そんな言い訳がどこかから聞こえてくる。

スマホ画面には、客人の名前が打ち込ま

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昔のブログ。

昔のブログ。

タップ。スワイプ。タップ。スワイプ。スワイプ。

今日も現実離れした世界がスマホの中では展開されている。スマホから顔をあげると、隣に座る人も、反対側に座っている人も、みんなスマホをいじっていた。同じ箱を持っていても、それぞれが見ている景色は違う。漫画もある。ゲームもある。映画もある。ニュースもある。SNSもある。なんでもある。時間感覚が狂っちゃうよなあ、なんて思う。電車内は雨に濡れた肌の匂いが充満

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