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エッセイを書きたかったけど、書けずに、行き着いた場所。

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2023年2月の記事一覧

【エッセイ】 家と風呂。

【エッセイ】 家と風呂。

学生時代から、自分の家に誰かを呼ぶことが苦手だった。それは仲が良いとか悪いとか、友達が多いとか少ないとかの問題ではなく、もっと純度の高い苦手で、きっとウチにとって、家という場所は、ココロの置き場所でもあったんだと思う。だから、家族の誰かが友人を連れてきた時は、毎回ドギマギしてしまっていた。

家の外に出る時は、コートを着るみたいにココロにも外套をまとう。だからニッコリ笑って挨拶ができたり、イヤなこ

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【エッセイ】 悪と闘う20歳。

【エッセイ】 悪と闘う20歳。


「悪ってなんですか?」

突然、20歳の女性にそう問われ、あたしは考え込んでしまった。どうやら彼女は《悪に対する耐性》がないらしく、テレビや映画に出てくるような悪役にでさえ拒絶反応を示してしまうらしい。悪と直面すると、身体が震え、抑えられないような怒りや悲しみが込み上げるんだとか。自分を制御できなくなってしまうことに悩み、でも、そんな自分を客観視するためにも「悪とは何か?」を様々な人に聞いている

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【エッセイ】 好きと仕事と体力と。

【エッセイ】 好きと仕事と体力と。

友達から「やっと本が好きだという気持ちに正直になれた」というメッセージが届いた。彼女は幼い頃から読書家で、夢であった出版社に入社したはずなのに、ここ数年、仕事のために本を読むことが苦痛なんだと悩んでいた。それが、この度めでたく、長年の悩みから脱することができたということだ。

これまでウチは、特にアドバイスもせずに「出版社に入れるなんて読書エリートだよお。羨ましいなあ」と無神経に言い続けてきた。だ

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【エッセイ】 エッセイって、なんだっけ?

【エッセイ】 エッセイって、なんだっけ?

エッセイの語源は、“試み”とか“実験”なんだって。
日本では、エッセイを随筆なんていったりする。

でも、エッセイと随筆って、少しニュアンスが違う気がするんだよね。

エッセイは、

「私が書いていることは、正しいわけではないですが、だからといって間違っているわけでもないのかもしれません。もちろん、それを誰かに強要するような態度もなく、あくまでも、その時、私が思った『世界に対する反応』を感想として

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【エッセイ】 不安との付き合い方。

【エッセイ】 不安との付き合い方。

朝起きても、太陽が昇っていないことがある。黒い空の中を、ぼつぼつとグレーのかたまりが浮かんでる。車が轟音を立てて家の前をすぎる。まだ昨日が続いている感じ。あたしは、そんな重い朝に影響されやすい。

天気と同じように心の模様も変化する。雲ひとつないような晴れもあれば、白い絵の具を撒き散らしたような晴れもある。曇りも同じ、雨もそう。一つとして同じ天気は存在しない。曇り空が続いていても、昨日と今日の雲は

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【エッセイ】 人も違えば、言葉も違う。

【エッセイ】 人も違えば、言葉も違う。

今朝は、いつもより少し早めに目覚めてしまった。たぶん、緊張が原因だと思う。遠足の前夜でも、テスト前夜でも同じように早めに起きてしまった。

緊張には、ドキドキするものもあれば、ワクワクするものもある。それらが混ざっているものもある。全部まとめて“緊張”と呼んでいるから紛らわしいけど、夜明けの近い空みたいに、グラデーションになっているんだよね。

今朝のあたしも、そんなグラデーションの緊張。ドキドキ

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【エッセイ】 大人と子どもの狭間。

ちょうど、自分が大人と子どもの狭間にいる気がする。情熱の冷静の間とも言えるかもしれない。イエローでホワイトでブルーでレッドでグレーンでブラックなのかもしれない。

自分が若かりし日、世の中が色とりどりであることに感動を隠せなかった。何者かになるための道が目の前に開けていた。この道も憧れる。あっちの道にも惹かれてしまう。青春という爽やかな雨が降り注ぎ、露がきらきらと光り、空には深い青が広がり、若葉の

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【エッセイ】 親の張り紙。

【エッセイ】 親の張り紙。

小学生の頃、「こんな人間になろう」という紙をよく読んでいた。いや、正確には文字が目に入っていた、といった方がいいかもしれない。その紙はトイレの壁に貼られていて、ウンチをするとちょうど目の高さにくるよう緻密に設計されていた。作成者は、もちろん親だ。

ある日突然現れたその紙に、あたしは妙な恐怖を覚えていた。この紙に従っていいのかが、分からなかった。もっというと、気持ち悪かったんだと思う。明らかに子ど

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【エッセイ】 好き、の話。

【エッセイ】 好き、の話。

恋をするときの自分を思い出す。

ウチ、どんな恋をしたんだっけ。
どんな時に恋を感じたんだっけ。

ウチは受動的な人間だった。告白するとか、しないとかの話ではなくて。恋をすること自体が受動的だった気がする。「恋に落ちる」なんて言葉もあるけど、まさにそれ。大きな穴ぼこに落っこちるみたいに、人を好きになってきた。

穴がある。そこに落ちる。だから恋が始まる。

落ちようと思ったわけではなくて、よそ見を

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【エッセイ】 銀河鉄道に乗って。

【エッセイ】 銀河鉄道に乗って。

今日も仕事をしていない。もう、しばらくしていない。それなのに、焦りもせず、ただオロオロと生きている。家から出ない生活。窓の外を眺める生活。空が白む。トラックが横切る。子どもたちが笑う。家の中にいても、世界の動き、自然の揺らぎを肌で感じる。そうそう、昨日は、漫画を読んで目から涙をこぼしてた。たまの外出は買い物だけ。生きるための外出。たまに食事もする。

昨日は外に出た。たらふく食べた。生姜焼き定食、

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【エッセイ】 幸せな、ため息。

【エッセイ】 幸せな、ため息。

整理しても、整理しても、すぐに散らかる。積み上がる。これはぜんたいどうしたもんか。頭をひねる。考える。考えながら、広げてしまう。机いっぱい、広げてしまう。これは病気だ。病気なんだ。そんな言葉で慰める。いつになっても片付かない。いくつになっても片づけられない。そのまま、一息、コーヒー啜る。

ひとりがけのソファに腰掛け、しばらく思案。体の中を血がめぐる。少し苦めの血がまわる。どう考えても、時間がかか

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【エッセイ】 言葉以上、断言未満。

【エッセイ】 言葉以上、断言未満。

断言するって、勇気がいる。

「こうだ!」って、断言する。疲れちゃう。

でも、世の中では断言しないといけない場面が多い。会議でも、育成でも「こうだと思う」では解決できないシーンが多いよね。必要になってくるのは「こうだ!」であって、そんな断言がないと人は動かなかったりする。

本を読んでても同じ。「こうだ!」に溢れてる。ニュースとか、SNSも同じかも。活躍している文化人たちも、みな一様に「こうだ!

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