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【エッセイ】 言葉以上、断言未満。


断言するって、勇気がいる。

「こうだ!」って、断言する。疲れちゃう。

でも、世の中では断言しないといけない場面が多い。会議でも、育成でも「こうだと思う」では解決できないシーンが多いよね。必要になってくるのは「こうだ!」であって、そんな断言がないと人は動かなかったりする。

本を読んでても同じ。「こうだ!」に溢れてる。ニュースとか、SNSも同じかも。活躍している文化人たちも、みな一様に「こうだ!」と断言している。まあ、メディアの場合は、断言するのが仕事なのかもしれないけどね。いずれにせよ、人の目を惹きつけるのは、断言であることが多いと思う。いや、多いのだ!

断言するって、勇気がいるよ。疲れちゃう。だって断言するためには、そのための準備も必要で、根拠なくして断言って難しいもん。だから、そんなダンゲナーたち(断言する人たち)を見ると、ウチは「勉強家なんだなあ」と思ってしまう。あ、ダンゲナーなんて言葉は存在しないよ。ウチが勝手に作っただけ!

ウチね、このあいだ、断言してた。ダンゲナーだった。でも、疲れなかった。勇気も使わなかった。先輩とお茶をしていて、話の中で断言してた。ダイエットの話だった。痩せるのに最も効果的な方法についての話。あるあるでしょう。

ウチは「食事制限しないと、絶対、痩せません!」って断言してた。ドヤ顔で言い切った。だって、ウチの実体験に基づいていたし、何冊か読んだ本にも書いてあったから。どれだけ運動をしたところで、だらしない食生活を送っていたらダメ。すごく当たり前だけど、すごくシンプル。そんな話を断言してた。

先輩、ウチの話を聞いて、ぎゅっとしてたんだよね。顔が、ぎゅっとしてた。ぎゅっとした後に、力が抜けたみたいに「そうなのね」と一言。その時に、思ったの。ウチ、今、断言してたなって。

言葉を断つと書いて、断言。
その通りになっちゃった。断言したことで、ダイエットの楽しい話もおしまい。会話も途切れて、ズズズとコーヒーをすする時間がしばらく続く。店内のBGMがやけに大きい。だから会話も大きくなる。先輩の奥の席に座る男子二人が、スマホ片手に「どうすれば彼女作れると思う?」「金だろ」といった会話をしていた。

ウチは思わず先輩に視線を送った。先輩と目が合った。眉を上げて耳をぴくりと動かし「私も聞いてる」と声なき言葉をかけてくる。話題が変わった。二人組男子の会話は止まらない。

「金は強さだからな。強くて困ることはないって、Mさんも言ってたわ」

あ、断言してる。ウチはふと目線を逸らした。気付けば下唇を噛んでいた。次第に彼らの会話が遠のき、店内の音楽が大きくなった。先輩は、目を左右にきょろきょろ動かしながら、なにかを思案している様子だった。

男子に疲れている様子は見られなかった。ウチと同じだね。彼もウチも、たぶん断言に勇気を使っていなかった。ごく自然に、右足を出したら今度は左足を出すみたいに断言してたんだと思う。スパスパと切れ味の鋭い言葉のナイフを振り回していた。深いため息。

今日もウチはブンブンとナイフを振り回してしまうんだろうか。そんなことを考えると自然と口がムの形になっていく。むむむむむ。

疲れるほどの勇気を持って、断言したい。ウチの言葉は断言未満。だから濁音をとってしまう。たんけん。探検、短剣、タンケンだ。タンケナー!

タンケナーは、今日も短剣持って、探検します。

言葉のタンケン。タンケン、タンケン。

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