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エッセイを書きたかったけど、書けずに、行き着いた場所。

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2023年1月の記事一覧

【エッセイ】 ゼロってなあに?

【エッセイ】 ゼロってなあに?

向かいの角の席に、黄色いベレー帽を被った幼児がいた。その子は、青っぱなを垂らしながら、鼻に詰まった高い声をあげている。垂れた目尻、その中に光る、まあるい黒目。顔のパーツはデッサンで描くように、下半分には集まっていない。子どもなんだけど、大人びた顔だった。

窓の向こうですれ違う電車の色に、いちいち反応し、両隣に座る親を困らせている。かわいい。思わず笑みが漏れてしまう。マスクをしていてよかった。ウチ

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【エッセイ】 落とし物②

【エッセイ】 落とし物②

行き交う人。平日の昼間だってのに、人、人、人の波。耳には石のようなイヤホンが詰まっている。視線の先にはスマートフォンの光。一様に頭をさげ、お辞儀しているみたいに歩いている。ぺこりぺこりと、あたしもお辞儀して歩く。スマホ片手にイヤホンをしながら。

自分が「ヘンなの」って思ってることを、自分もしている矛盾にはしらんぷり。都合いいよね、自分って。

耳からは、キューイ、キューイと大自然で歌う鳥の声や、

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【エッセイ】 落とし物①

【エッセイ】 落とし物①

「警視庁」その文字を見たとき、あたしは無意識に毛を逆立てていたと思う。ポストに投函された茶封筒。そこには右肩上がりの筆圧の強い文字で、あたしの名前が書かれていた。

かくばったインクたちの裏側に、書いた人物を想像してしまう。止め、跳ねの部分のインクが異様に濃い。強い意思を感じる。自我が強そうだ。上昇志向が強くて、曲がったことが大嫌いで、規律性を重視する人。しなやかの「し」の字もない、あたしの苦手な

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【エッセイ】 飢えてなきゃダメみたい。

【エッセイ】 飢えてなきゃダメみたい。

「やっぱりさあ、飢えてなきゃダメだよね」

頬を桜色に染めた男性。つるんとした顔。ゆで卵みたいに肌が綺麗。毛が薄いんだろうな。彼の前には、空になったビールジョッキが二つ並んでいた。ウチは、いつものように「うんうん」と口角をキュッとあげながら頷いている。腹で思っていることと、表現がズレている。むしろ、ズラしている。あたし、性格が悪いんだと思う。

別に食事会についての不満はない。楽しく意見交換ができ

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【エッセイ】 聞いてくださいよお!

【エッセイ】 聞いてくださいよお!

「聞いてくださいよ!」

また始まった、とウチは思う。愚痴だ。愚痴に付き合わされる。あーあ。こっちこそ聞いてくださいよ、と言いたい。「また、愚痴に付き合わされたんですけどぉ」だ。

世の中には、砂浜の一粒に例えられるくらい「愚痴」が転がっている。いや、世界中の砂浜をかき集めても足りないんじゃないだろうか。毎日、毎日、誰かの悪口。誰かのワル“グチ”がこぼれ落ちている。

愚痴を聞いている時、ウチは、

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【エッセイ】 暇を暇なまま過ごす。

【エッセイ】 暇を暇なまま過ごす。

ここのところ、ウチは目一杯休んでいる。なにもかもを捨て去るように、休み、遊んでいる。この先の仕事もからっぽで。自分の中に大きな白紙が広がっているような状態! でも、不思議と不安はないんだよね! これはウチの性格なのかしら。

別に、これまで馬車馬のように働いてきたわけではない。適度に休んできているし、ウチは、そこまで休みを欲するような人間ではない。でも、なぜか、今は、休んでるんだ。なにをするわけで

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【エッセイ】 「待たせる」エンタメ設計。

【エッセイ】 「待たせる」エンタメ設計。

彼氏と動物園に行って来ました。

「明日、動物行かない?」
「いいよ、どこいく?」
「やっぱり上野動物園じゃない?」
「やっぱりの意味が分からないけど、上野、いいね」
「だって、ゴリラみたいじゃん!」
「ああ、そこはパンダじゃないのね!」
「知ってる? ゴリラって、パンダよりレアだかんね!」
「詳しくは明日聞かせてよ!」
「もう、焦らすんだから!」

みたいな連絡を取り合ったのちに、動物園に行って

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【エッセイ】 書くこと、話すこと、思考すること。

【エッセイ】 書くこと、話すこと、思考すること。

あたしは、やっぱり言葉が出てくるのが遅い。どうしたって、遅すぎる。だから、遅れをとってしまう。会話をしたいんだけど、パパパンと言葉が出てこないんだよ。それは、発話する勇気の問題なのかしら。整理する時間というか、考える時間が欲しい。だから、会話がズレてしまう。

でも、たまに言葉が身体を追い越していっちゃう時がある。まさにこのエッセイはそれを目指しているんだけど、言葉が先に出てきて、自分の思いがけな

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【エッセイ】 「当たり前」を書けばいいらしい。

【エッセイ】 「当たり前」を書けばいいらしい。

タイトルから先に書き出しているやつ。でも、タイトルが浮かんできたのには理由があるんです。

ウチ、いろいろなヘルスケア・メンタルケアについての本を読んできたんですが、どの本にも共通することが書いてあったりするんです。

いくつか共通点はあるんですが、特に出てくるのは「睡眠」について。これは、もう、絶対出てくる。どの本でも必ず「睡眠が大事」的なことが書いてあるから、疑り深いウチでも、さすがに信じてし

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【エッセイ】 会話に入れない。

【エッセイ】 会話に入れない。

人が4人以上集まると、ワタシは発言ができなくなる。

先日、新年会に行ってきた。知人に自宅に招待してもらった、ホームパーティー形式の新年会だ。そもそもワタシは、人の家でパーティーをする、という文化で育ってこなかったから、持ち物や服装に迷っていたが、優秀な知人が「ミッションは、クラフトビールを人数分買ってくること。数名しか集まらないラフな会だから、のんびり来てね」と連絡をくれたので、ただただ胸を高鳴

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【エッセイ】 世界が変わらないことへの安心感。

【エッセイ】 世界が変わらないことへの安心感。

世界がなにも変わっていないことに安心した。

自分の存在が世界に影響がないことに、ウチは安心したんだ。

ちょっと時間を遡るけど、この年末、自分の人生史上、最も移動した時間を過ごした。飛行機に乗って、新幹線に乗って、特急電車に乗って。とにかく移動、移動、移動の日々だった。各地で、いろいろな出会いがあった。久々に祖母たちにも会うこともできた。家族が増えたり、家族が減ったり。自分の世界が大きく動いた時

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【エッセイ】 今から、がんばるぞ!

【エッセイ】 今から、がんばるぞ!

手が冷たい。一月一日は、朝の5時30分に目が覚めた。昨日は何時に床についたのだろうか。確か居間ではテレビの賑やかな音がしていた。うちだけ、一人、布団中。ロボットが出てくる本を読んでいたら、睡魔がやってきて、いつのまにか夢の中に入っていた。

いつからか、お正月がイベントではなくなった。10月1日とか、3月1日とかと変わらない。ただ月が変わった最初の日にちに過ぎない。なんて平坦な人生なんでしょう。子

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