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2021年ごろのクリエイティブ・ライティング練習

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思い出す場面を、Visualizationして書いています。
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台湾 // 旅

台湾 // 旅

Facebookから離れて久しいのだが、今日何気なく開いてみたら、「xx年前の今日、Kaiさんはこんなことしてましたね!」的なお知らせがが、目に飛び込んできた。

2年前の今日、私は成田空港にいたらしい。台湾へ行くためだった。
シェアハウスから引っ越す直前だったと思う。そんな時期によく行ったな、と思う。しかも私は当時(毎月給料をもらうような)仕事をしていなかった。前職を辞めてすぐ決まるだろうと思っ

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海 // Ocean

海 // Ocean

毎夜、海へ行って足をひたした。

カナダの夏は夜が長い。いつまでも明るいので花火大会は、夜の22時を過ぎなければ始まらない。

お世話になっていたオーナーの家から、歩いて15分くらいでビーチについた。19時に店が終わって帰宅したあとでもまだ夕日がまぶしい。ビーチ沿いに大きく曲がる道をてくてく歩く。アスファルトに映る影が濃い。ひらけた庭を、野ウサギがぴょこぴょこ飛んでいる。私のささやかなガーデンのト

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野菜スープ@Tokyo

野菜スープ@Tokyo

いつものように起きる。ぼうっとしながら洗面所へ向かう。髪をあげ、蛇口をひねる。顔を濡らしたときに違和感があった。ガサガサしている。何かが変だ、と思いながらもいつも通り顔を洗い、タオルで水を拭き取った。
私の顔は、ゾウのようにガサガサして赤いまだら模様になっていた。

なにこれ……呆然とした声が出る。鏡の中の自分に焦点が合わない。
思わず顔を触る。額、頰、鼻、顎。そのまま視線を腕にやれば、まだら模様

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サンダル@Tokyo

サンダル@Tokyo

サンダルを買った。
高めのヒールのサンダルが、ずっと欲しかった。普段ほぼヒールの靴を履かないので、デザインは豊富でも「フツー」のは無理だから、ブランド買いで、値は張るがソールがしっかりしているものを買った。
そう、値が張るのだ。

欲しいと思った期間はそこそこあったものの、買おう、と思い至ってからはほぼ即断即決だったのに、フレンドリーな定員さんに見送られ店を出た瞬間、胸のあたりにじわじわ染み出す感

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雨音@Kamakura

雨音@Kamakura

タンタンタン…と雨の音が聞こえる。急な坂を登りきったところにある、この古い家に来たのは初めてだ。スピーカー越しに聞こえる、野菜を切る音でしか知らなかった台所や、話し声がいつもよりゆっくりになる寝室。

ぼうっと目を開け、ほとんどクセで、携帯の画面を確認する。
刺すように明るい光。まだ朝の3時前だけど、ずんずんと重い頭痛がしていて、もう眠れる気がしない。結局この1週間では時差ぼけが治らなかった。骨董

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ジャガイモ@Hokkaido

ジャガイモ@Hokkaido

ほら、海ちゃん、呼ばれなさい。
その中では一番若いおばあちゃんが、ニコニコと笑う。ひっくり返した年季の入った水色のコンテナの上に、菓子パンがならぶ。10時と15時、農家はしっかり休む。じゃないと体力がもたないからだ。「しっかり」すぎて、たった1週間なのにお腹周りが太ったが。

朝8時から夕方5時まで。私は誰より若かったが、時給のお手伝いさんだから、と誰より働く時間は短かった。おじいちゃんおばあちゃ

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オレンジジュース@Vancouver

オレンジジュース@Vancouver

ふわっと意識が浮上する。眼鏡のない視界は水の中のようにぼやけていて、向こう側がやたら明るい。守るように、自然と目を細めた。

少しずつ目が慣れて、ぼんやりと、強烈な光を遮る影が見えてきた。人の形。さっきまでここにいた、彼。業務用みたいな巨大な冷蔵庫の白い光を遮るようにして、開けっ放しの扉の前に、彼が背を向けて立っているようだった。
ベッドサイドに目をやれば、白く「AM3:25」と浮かび上がっている

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チキンカレー@Hokkaido

チキンカレー@Hokkaido

太ももが伸びる。とん、と肩を押されて、正座していた私は、足を正座の形にしたまま、後ろに倒れた。筋肉のびすぎ。かなりきついストレッチみたい。

大きな手が髪を撫でてくる。いつものにおい。そのまま頰に触れられる。冷たくてしっとりしてる。そう、ちょっと爬虫類みたいな感じ。ゆるいくせ毛の前髪が近づいてくる。

ただ近くにいて、とりとめもない話をして。それだけだ。それなのに、すごくドキドキしている。わるいこ

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クローバー@Hokkaido

クローバー@Hokkaido

明日は首が隠れる服を着てきて。
そう書いてあった。雪だるまの絵と一緒に。

その前日、私は1ページ書き込みを増やしたノートの上に、白い封筒を置いた。自由に使えるお金がない私は、なにも贈れるものがない。それを知っていた彼から、この封筒を渡された。開くと立体的な雪だるまが飛び出すグリーティングカード。雪だるまのお腹を押すと、メッセージが録音できる。ピッ、という音を聞いて、私は息を吸い込んだ。

向かっ

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Extra hot@Vancouver island

Extra hot@Vancouver island

いらっしゃい、話し終わったはずの通話画面がまだ繋がっている。奥の方から、誰かに向けたあの人の声がする。語尾に笑った顔が滲む言い方。古い木戸が閉まる音。もう一人の声は何と言っているか分からなかった。でも、この細い音は、女だ。

イヤホンを外し、×を叩いた。幼なじみ、ねぇ。私とその人の関係は、その時にはすでに何と言っていいのかわからない関係になっていた。あんなに心の底から分かり合えると思っていたのに、

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ホットチョコレート@Vancouver

ホットチョコレート@Vancouver

ある夜だった。電気ケトルでお湯を沸かす。グリーンのパッケージの、見慣れたホットチョコレートのスティックをオレンジのマグに入れ、お湯を注ぐ。最後に少しだけミルクを入れるとそれっぽくなる。ちょっとぬるくなるのもいい。なみなみに注いだオレンジ色のマグを手に、音を立てないよう静かに階段を下りる。結構な頻度でカーペットにつま先をひっかけそうになるので、慎重に進む。音が立たないようにドアを開けて閉め、マグをベ

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ブレンドコーヒー@Tokyo

ブレンドコーヒー@Tokyo

どうしたの、顔真っ青だよ……
駆け寄った友人は、私の手をぎゅっと握ってくれた。椅子から立ち上がった私は、人目もはばからず彼女の肩にすがりついた。平日昼間、オフィス街のカフェの店内は賑わっている。テーブルが小刻みに震えて、コーヒーカップがカタカタと小さく音を立てている。それは私の体が震えているからだと気付くのに、しばらくかかった。

肩にかけたバッグの紐を持ち直す。皆が同じ色、同じ形、同じ髪型。奇妙

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シーフードヌードル@Nagano

シーフードヌードル@Nagano

怒涛の繁忙期が終わった。9月に入れば満室になる日は稀だったが、今度は紅葉を求めるお客が来るようになった。電話で「紅葉はどんなもんですかねぇ」と、判で押したように聞かれる。「色づき始めましたが、自然相手なので、わかりません」。下界のような、常にこちらが下手に出ることを求められる接客は、ここではいらない。そこが好きだった。

空気は一気に冷たさを増し、食堂にはどん、とストーブが置かれた。相変わらず忙し

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ペットボトルの緑茶@Hokkaido

ペットボトルの緑茶@Hokkaido

自動ドアが開く。どんよりいつもの曇り空。海沿いのこの街は、霧が多く夏も涼しい。教室の誰より早くビルを出た。長期休暇の講習会にしか参加しない私には、どうせ知り合いもいない。正面から少し離れたところに、見慣れたグレーの車が停まっている。さっと乗り込んだそれは、親の車ではない。

海沿いの国道を走る。助手席には座れない。この辺りの海は、沖に出ると突然深くなる地形だそうで、全面遊泳禁止だった。そのうち車は

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