マガジンのカバー画像

たいらの5選

5
書いた本人が選ぶショートショート5本です。 1個1分で読めます。どんでん返しが好きです。
運営しているクリエイター

記事一覧

【小説】「別れよう」と言われた男(300字ショートショート)

【小説】「別れよう」と言われた男(300字ショートショート)

「別れよう」
突然そう言われた時、秀夫は驚きのあまり啜っていたマックシェイクを噴き出しそうになった。
「本気か?」
「うん」
相手は真顔で頷く。
これ以上何を言っても聞いてくれそうにない。
「そっか……わかった」
秀夫は別れない方がいいと思ったが、どうしてもと言うのなら仕方がない。
「連絡してもダメか?」
「諦めた方がいい。もう繋がらないよ」
相手がそう言うので、続いて提案してみる。

「では別れ

もっとみる
【小説】結婚記念日はカニ食べよう(360字ショートショート)

【小説】結婚記念日はカニ食べよう(360字ショートショート)

「では明日19時ですね。お待ちしております」

 絶対喜んでくれるはずだ。
 半年待ちのカニ料理の大人気店。
 ダメもとで電話してみたら、たまたまキャンセルが出ていたらしく予約できた。
 ウキウキしながら妻に電話する。
「ディナーの予約したから、楽しみにしてて」
 なんのお店かと聞かれたが、行ってからのお楽しみと誤魔化しておいた。
 3回目の結婚記念日。
 最近すっかり冷え切ってしまった夫婦仲も、

もっとみる
【小説】恋に悩む女子高生の話(620字ショートショート)

【小説】恋に悩む女子高生の話(620字ショートショート)

「ねえ、どうすればいい? またコウスケくんから返信が来ないんだけど」
 晴海が訊いてくる。
 コウスケはクラスメイトらしい。
 私は会ったことはない。
「映画のあとのカフェが、よくなかったのかな。感想を言い合ったんだけど、あまり面白くなかったって正直に言ったら、それからコウスケくんの態度が変わった気がする」
「でも、嘘をつくのは良くないから仕方ないよ」
 私は答えるが、晴海は聞かずひとりで続ける。

もっとみる
【小説】この番号は使われておりません(420字ショートショート)

【小説】この番号は使われておりません(420字ショートショート)

どういうわけか祖父が電話に出ない。
昨日からかけ続けているが繋がらない。
それどころか、「この電話番号は、現在使われておりません──」と無機質な女性の声が返ってきてしまう。

不吉な予感を感じながら、電車を乗り継ぎ、祖父の住む町へやってきた。

人工的な建物の白色より自然の緑色が目立つ町。
最寄りの駅が徒歩50分というとんでもない場所に、祖父の家はある。駅前でなんとかタクシーを捕まえ、ようやく辿り

もっとみる
【小説】夫からナゾのLINEが来た(1130字ショートショート)

【小説】夫からナゾのLINEが来た(1130字ショートショート)

『か』

 午後7時、夫から1文字のLINE。
 途中で息絶えてしまったのではない。
「か」は「帰る」。
「仕事終了。今から帰宅する」という意味。

『つ』

 これが私の返信。
「お疲れ様」の意味だ。
「お」にすると「おかえり」や「おつかい頼む」と混同してしまうので「つ」にしている。

 打ち合わせしたわけではないけど、徐々にこんな1文字のやりとりが増えている。
 コスパの良いたった2文字の会話

もっとみる