【小説】この番号は使われておりません(420字ショートショート)
どういうわけか祖父が電話に出ない。
昨日からかけ続けているが繋がらない。
それどころか、「この電話番号は、現在使われておりません──」と無機質な女性の声が返ってきてしまう。
不吉な予感を感じながら、電車を乗り継ぎ、祖父の住む町へやってきた。
人工的な建物の白色より自然の緑色が目立つ町。
最寄りの駅が徒歩50分というとんでもない場所に、祖父の家はある。駅前でなんとかタクシーを捕まえ、ようやく辿り着いた。
家の鍵は開いていた。
不用心だが、いつものことだ。
「じいさん。入るよ」
聞こえないだろうが、玄関の前でなんとなく声をかける。
がらがらと壊れそうな音を立てて引き戸が開く。
真っ直ぐ伸びた廊下の先に居間がある。
そこの襖は開いていた。
祖父はちゃぶ台の横の座椅子にいた。
「おお、きよし。久しぶりじゃないか。突然どうしたんだ」
110歳だがシッカリ者で変わらず一人暮らしを続ける祖父が、70歳になって肉親の電話番号すら間違えてしまう孫のきよしを出迎えた。
《終》
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