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傷心で徘徊する

失恋したその足で頑張って呪文を唱えながら白昼の月の下を歩けば、いとけないパイナップルの売り子、その背後に店店店、店の老獪な売り手は魔法の蜜をふり撒く。

恋愛流行歌謡曲に思わず耳をふさぎ、急ぎ足で、立ちどまる黄赤、青に歩き出せば白線の外側、車道、路地、ギャンブリングセンターの物陰に浮き沈みする真昼のつき。

桃源郷に入って耳から手を離すと硬貨の音を足下に聴きとった。硬貨は裏表の裏を見せて落ちていた。五〇〇円ぶんのつき、このつきは失恋の成果のせいか。つきが裏目に出ないよう呪文を唱え続ける。

入り込んだ桃源郷から駅へふり向けば風俗嬢の波、流れてくる華やかな波は自由恋愛を建前に務めることになるであろう時空へと向かう。そんな時間かと立ち尽くせばもう夕暮れ間近。

立ち尽くして杭に化ければ嬢たちの流れはふた手に別れながらハイブランドの香りをふり撒き去っていく。気落ちしてうつむくと、意表をつくアイリスの花に目がとまった。見上げる。

白昼の月はもはや夕暮れの月、綺麗な月ですね、さらに傾いていく月。ドライヤーの音が原因で別れた彼女はいま何をしているだろう。今夜はどこにいるだろう。

夜の窓硝子に映る失恋の目の色彩を眺めながら思う、過去を歩いたし未来をも歩いた、いまはいまだけを歩くのだと。

目の色彩によって街の色は変わる。その色彩により失恋の色も変わっていくだろうことは目に見えている。と呪文を唱えながら歩くのだ。


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