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『失恋墓地』 #毎週ショートショートnote
線香をつける。
煙が優しく私を抱く。
生きてた頃のあなたみたい。
墓石の前で手を合わせる。
目を瞑ると簡単にあなたの顔が思い浮かぶ。
出会った日、誕生日、クリスマス、、、。
いつだって優しい人だったな。
あなたが別れを切り出した時、
本心じゃないって分かってた。
私は水筒を取り出しお茶を湯呑みに注いだ。
隣にクッキーも添える。
墓石の隣に腰掛けて、自分もお茶を飲み、クッキーを食べた。
『失恋墓地』 #毎週ショートショートnote
「おはようございます。」
墓石に向かって挨拶をするのが僕の日課になった。
軽く雪を被った墓石をコートの袖で拭く。
「東北の冬は寒いんじゃない、痛いんだ、って先生が言ってたのがやっと分かりました。」
独り言を言ったら、漫画の吹き出しみたいに息が白くなって、笑ってしまった。
水筒に入れてきた温かいお茶を湯呑みに注ぐ。
「先生は、お茶よりもこっちですね。」
もう一つの湯呑みに並々と日本酒を注
2次会デミグラスソース #毎週ショートショートnote
シェフと見習いの僕は、ピンセットを握り、小さな甕を小脇に抱えて繁華街にやって来た。
秘伝のデミグラスソースに必要な材料を収穫しにきたのだ。
時刻は21時。
1次会が終わり2次会に移り変わろうとする人々が通りに溢れてきた。
「あの辺だな」
シェフはピンセットを右手に構えながら大学生らしき集団にそろりと近づく。
集団の後方にいた女の子の後頭部辺りでパチンッとピンセットで何かを掴むと、すかさず
『逆さ富士七転八倒』#毎週ショートショートnote
むかーしむかしの富士山は
そりゃあもう小さな山じゃった。
いつも周りの山に馬鹿にされとった。
富士は背を伸ばそうと、色々やったが
少しも伸びんかった。
おらは一生このままか、、、
月の晩、
膝を抱えて座っていると
湖の上を滑るように
山の神がやって来た。
「わしが 背 伸ばしてやろうか」
「やっておくれ」
「痛えぞう苦しいぞう」
「やっておくれ!」
それを聞いた山の神は
持っていた
『宝くじ魔法学校』#毎週ショートショートnote
ああ、これが念願の「私立ロイヤリティ魔法学校」か。
通いたかったな。
くるりと振り向き「ロ魔校」の校門を背に、僕は目の前の歪んだ小屋に入る。
入り口にはバランスの悪い手書きの文字で
「超私立宝くじ魔法学校入学式」と書かれた紙が貼ってある。
受験に失敗した僕が今年中に入れる学校はここだけだった。
「んも〜制服、似合うじゃ〜ん!」
だっだっだっだっと廊下を大きな足音を鳴らしながら、軽ハゲち
『運試し擬人化』#毎週ショートショートnote
「き、来た!」
商店街の福引コーナーがざわついた。
名物大家族の田中6兄弟が、アーケードを横並びで颯爽と歩いてくる。
長男、大吉22歳、
次男
三男
四男
(吉、中吉、小吉は年子なので、ぱっと見では生まれ順が分からない。)
五男、末吉16歳、
六男、凶14歳。
大吉が家族総出で貯めた、大量の福引券を受付に差し出す。
「凶、お前からいけよ!」
お調子者の末吉が言った。
黒いパーカーのポ
『十年パンイチ』 #毎週ショートショートnote
十年前、小学生だった娘が良くない霊に取り憑かれた。
霊媒師が除霊を試みたところ、霊は娘の体から出ていったのだが、代わりにそのとき私が穿いていた、白いブリーフに封印された。
「理由などない。それが心霊です。」
霊媒師は言った。
それ以来、私が白ブリーフ以外の衣服を身につけようとすると、娘に異変が起きるようになった。体調を崩したり、交通事故に遭いそうになったり、その他もろもろ。
「理由などない。それ